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第三百五十六話【せわしない市場】


 新しい騎士団――月影の騎士団を設立し、そこに俺を引き抜く。

 そうすることで、指揮権をフリードが確保し、俺の自由を……延いては、マーリンの自由を確保する。

 それが、フリードとロイドさんから聞かされた作戦。


 でも、その作戦には根本的な問題がある。

 そもそもの話、引き抜いて引き抜けるなら、作戦なんて必要ないんだから。


 だから、この件のおおもとの問題はただひとつ。

 王様を、王宮を相手に、どれだけ要望を通すことが出来るのか。つまり、フリードの力がどれだけ通じるかにかかってる。


 それで……その助けを、俺は何かしてやれるのか……って話なんだけど。


「……わかってはいたけど、やっぱりこうなるよな」


 今の段階で、俺やマーリンに手伝えることはひとつもない。そう言われて、俺達はまたいつもの日常へと戻っていた。


 わかってた。わかってたけど、どうしてもガッカリはしてしまう。

 ここのところずっと問題の中心にいたから、自分もちょっとは特別になったんじゃないか……って、勘違いでもしてたのかな。


 いやまあ、話題の中心にいたわけじゃないから、その特別はネガティブな意味での特別なんだけどさ……


 それにしても、フリードに任せてあとは何も出来ないのは歯痒い。

 せめてもの救いは、フリードをサポートするくらいは出来そうだ……ってことだけか。


 そんなわけで、今朝もお店の準備のために、マーリンと分かれて市場へと来ている。

 いつもと変わらない一日のために、いつもと変わらない食材を仕入れるために。


「うっかりバケットさんと顔を合わせでもすれば、相談のひとつも出来るだろうけど……はあ。そう都合のいいこともないよな」


  かと言って、こっちから訪ねて相談するのは……ちょっと。偶然会って、その流れで……ならいいけど。なんかしゃくだよね。


 しかし、バケットさんは例の商売につきっきりで、今は忙しくしてるだろう。

 となると、朝早くに市場へ来ている余裕もあんまりない……のかな。パッと見回した感じ、どこにも姿は見当たらない。


 ならもうしょうがない。予定通り、買い物を終わらせてさっさと戻ろう。

 店はちゃんとやらないといけないし、考えごとはそれが終わってからだ。


「……っと。そう言えば、もうひとり話をつけなくちゃならない相手がいたな」


 よし、帰ろう。と、思った矢先に、知った顔が急いでいる姿を見つけてしまった。

 会社を作れだの、作ったら俺を入れろだの、お前には才能があるだのと、いろいろうるさかった……もとい、アドバイスをくれたバズだ。

 どうやら、あの件とは無関係に、いつもの仕事で走り回ってるみたいだけど……


「おーい、バズ。そんなに慌ててどうしたんだよ。急ぐほど忙しくもないだろ、お前のとこは」


「なんだ、デンスケか。これでも忙しいんだよ、誰かのせいでな。ったく」


 いや、なんかやるなら混ぜろって言ったのお前だろ……とは、言わないでおこう。

 たぶん、新しいことをしなくちゃならないって焦りから、いつものことをいつも通りに出来ないんだろう。


「バケットさんとはもう話したか? いきなり面倒な仕事を振られることはないと思うけど……あの人、何言いだすかわかんないからな。確認は徹底しとけよ」


「言われなくてもわかってるよ。こんなデカいチャンス、まさか本当にめぐってくるとは思わなかったからな。どれだけでもやってやるって」


 どうやら、ずいぶんとやる気になってくれてるみたいだ。なら、誘って正解だったかな。


 もっとも、バズをどう使うかは全部バケットさん次第だから。

 このあと本当に稼げるのか……金銭以外にも得るものがあるかは、俺のあずかり知るところではないんだけど。


「それより、お前はどうなってんだ? あんな話を持ち出して、本当に貴族まで説得してよ。それで……なんだってお前の席がないんだ。おかしいだろ」


「ああ、それか。あれ? 説明しなかったっけ? したような……してなかったか?」


 されてねえよ。と、ちょっと怒られてしまったけど……したような気もするし、してないような気もするし……うーん。

 これはあれだな。おおごとだっただけに、お互い余裕がまったくなかったんだろう。それこそ、細かい話を覚えてられない程度に。


 したしてないの水掛け論をこんなとこで繰り返してもしょうがない。出来る範囲で事情を打ち明けるか。

 バズは信用出来なくはないし、それに重要な協力者だ。下手に知らない筋から人を入れられるより、いつでも話が出来る誰かを席に座らせておきたいしね。


「もともと、別に目的があったんだよ。そっちを実現させるために、後ろ盾が欲しかったんだ。それで、王宮ともかかわる貴族に目をつけたってわけ」


「あー……なんか、その話は聞いた気がするな。どうだっけか。でも……別の目的? それは聞いてない気がするぞ」


 そりゃ、なんでもかんでもは打ち明けないよ。って、言ったらまためんどくさくなるかな。

 でも、ここはあんまり公に出来ない話だから。ある程度は誤魔化して、それで納得して貰おう。


「悪いけど、まだ話せないんだ。不確定な部分が多いし、出来れば誰にも聞かれずに進めたいからさ」


「おいおい……まさかとは思うけど、違法な談合とかしてないだろうな……?」


 それはしてない。これだけはちゃんと断っておこう。

 まあ……似たようなことをフリードがやろうとしてるから、ちょっと頭は痛いんだけどさ。


「周りに火の粉が降りかかるようなことはしてないよ。だからあんまり心配するなって。そのために席を空けたんだから」


「お前がなんかやらかしても、あの商売とはもう無関係だから……か。なんかそれ……」


 本当に大丈夫か? と、バズは眉間に深くしわを刻んでそう言った。


 そうまでしなくちゃいけない、リスクのあることをしようとしてるんじゃないのか。

 そんなことせずに、手にした席で商売人として稼げばよかったんじゃないのか。

 バズが考えてるのは、きっとそんなところだろうか。


 それについては本当にもうその通りで、何も言い返せやしない。

 ただ名を挙げるのが目的だったなら、王宮貴族に重用されるほどの商人……で、そこで終わっても問題はなかっただろうから。


 だけど、俺の目的はそこにはない。だから、しょうがない。


「ま、もし本当に大ごとになったら、結果がよくても悪くてもちゃんと報告はするよ」


「悪い報告はいらねえよ……あ、いや。悪い報告になりそうだったら先にくれ。必要そうならさっさと逃げるから」


 だから、問題があってもそっちには影響しないって言ってるのに。

 新しい騎士団が認められないとか、フリードと連携出来ないとか、そういうことがあったらむしろ、俺は王宮との繋がりを強めるんだ。


 そういう意味では……そうか。うまくいかないほうが、バズにとってはいいこともあるのか。え……なんかむかつくな……


「まあいい。とにかく、変なことだけはするなよ。お前にはまだまだおいしい話を回して貰う予定だからな」


「おいおい……なんで人をアテにしてんだよ。言っとくけど、今回うまくいったのだって偶然みたいなもんだぞ。次は一緒になって真っ逆さまの可能性だってあるからな」


 まあ、大きい商売に打って出る予定はもうないんだけどさ。


 それでバズとはわかれて、俺は店に、バズは……どこへ行くんだろう。バケットさんのところかな。

 とにかく、知ってる顔の元気な姿を見れてよかった。あの様子なら、緊張はしてても、浮足立ってはなさそうだし。


「……しかしそうか。そういう視点も……」


 それと……俺が王宮に縛られるほうがうれしい人間も、身近なところにいるんだなぁ、と。そんなことに気づけたのは、意外と小さくない発見だった。

 やっぱり、うかつなことは外で言わないようにしよう。下手すると、味方だと思ってた人に足を取られる可能性があるってことだし。


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