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第三百五十三話【経過報告】


 またしばらく、いつもの日常が続いた。

 五日経っても、十日経っても、フリードからも王宮からも連絡がない。そんな、じりじり不安になる中での日常が。


 そんな日々に終わりが訪れたのは、王宮から解放されて十七日後。

 もう、問題らしい問題は全部なくなって、このままのんびり暮らしていけるようにならないかなぁ……なんて、心が日和り始めたころだった。


「……デンスケ、少しいいだろうか」


「うおっ。ふ、フリード……リッヒ王子。どうなさったんですか?」


 食材も使い切って、お客さんもみんな帰って、片づけ作業が始まったところへ、フリードが姿を現した。

 前回のことでめちゃめちゃ気を遣ってくれたんだね。王子なのに、めちゃめちゃ気を遣って……わがまま言って申し訳ないな、ほんと。


「すぐに片づけて向かいます。ええと……以前の建物でお待ちいただけますか」


「ああ、心得た。しかし、ならばなおのこと私も手伝おう」


 だから、壁もないのに王子を手伝わせられるかって。なんでだよ。さっきあんなに気遣いが出来たのに、なんでここは出来ないんだよ。


 と、そんなわけで、手伝いを拒まれて不服そうにしながらも、フリードは先に集合場所へ向かってくれた。

 はあ……今日は周りから変な目で見られずに済みそうだ。


「……マーリン、さっさと片づけちゃおう。フリードが待ってる」


「うん、わかったよ。大事な話なんだよね」


 事情は全然飲み込めてないだろうけど、一大事であることはわかってくれてるみたいだ。

 いつも頑張り屋さんなマーリンも、このときにはさらに張り切って片づけを進めてくれた。


 しかしながら……当事者の俺は、今からもう胃が痛い。

 どっちだろう。それとも、どちらでもない話なんだろうか。

 今からフリードは、いったいなんの話をしてくれるのだろう。


 願わくば、王宮騎士団への入団が取りやめになった……と、そんな話であって欲しい。

 説得の甲斐あって、王様に決定を取り下げさせられたとか、そんな話だと理想。

 そのうえで、フリードの傘下のまま北方調査部隊に組み込んで貰えた……なんてなったら、万々歳も万々歳だ。


 次点で、例の商売が成立したって話題でもいい。

 そのおかげで、入団の話にも待ったがかかりそうだ。とか、そんな展開でも大歓迎。


 で……出てきて欲しくない話としては……まあ……うん。

 これは……考えないようにしよう。ネガティブになるだけ損だし。


「……でも……なぁ」


 うん、損。損……だけど。

 ネガティブにならない理由が、ほんのちょっとだけ見つかっちゃったのがな。


 この街の人を守れるなら、形にこだわらなくてもいいかな……とか。

 そもそも、冒険者って名乗り始めたきっかけもそうだしさ。


 もともとは……なんだっけ。嫌な夢を見て、それが本当に嫌で……でも、現実的で。

 だから、そういうのをちょっとでも減らせたら……みんなが嫌な思いをする可能性を少しでも減らせたら、って。

 それで、ただ戦うだけじゃなくて、みんなにも戦う勇気を持って貰えるような、そういう存在になりたいって思ったんだ。


 まあ……より正確には、マーリンならそうなれるよな、って。そう思ったんだけど。


 だから、本当の意味での最初の目的は、フリードのもとにいようが、王宮騎士団に入ろうが、達成出来るんだ。

 だから……だから……


「デンスケ、終わったよ。行こう。デンスケ?」


「あっ、と、ごめん、ぼーっとしてた。こっち終わってな……終わってた。うん、行こう」


 ぼーっと考えごとをしながらでも片づけは終わらせてた。うーん、慣れって怖い。

 そんなわけで、荷物を部屋に置いて、急いで集合場所に向かう。前にもフリードと隠れて話をした建物に。


「申し訳ありません、遅くなりました……っと、誰もいないか。ふー、よかった」


「来たか。いつも急で済まない。しかし、こちらから君に連絡する手段も少ないのだ」


 それについてはわかってるから、謝る必要はないよ。今回はお客さんにも配慮してくれたし。

 それよりもさっさと本題に入ろう。と、俺が急かせば、フリードも真剣な顔でうなずいた。


「……結論から言おう。あまり、いい話は聞かせられそうにない。王は君の叙任を撤回せず、騎士団への配属がほぼ決まりつつある」


「……っ。まあ、そうだよな。王様が決めたことを、そうそう撤回なんて出来ないよな」


 フリードから聞かされたのは、望んでいた一番いい筋書きではなかった。

 けど……けれど、だ。いい話ではない。と、フリードはそう言った。つまり、最悪でもないのだ、と。

 なら、この話にはもう少しだけ続きがあるんだろう。希望を持てる、ラストチャンスみたいなものが。


「さすがにさといな、君は。そうだ。騎士団への配属は決まりつつあるが、しかし指揮権について……君が真に仕える対象については、まだ手を差し入れる余地がある」


「……王宮騎士団にいながらも、フリードの……あるいは、お前の息がかかった誰かの傘下に加わる可能性はある、と」


 そうなったら、ある程度はフリードの望み通りに動けるようになる、と。


 もちろん、あくまでも組織に属するわけだから。俺ひとりがフリードの指示で動けるようになるわけじゃない。

 そして、王宮騎士団について、フリードは指揮権を持っていない。この部分は前に聞いてるから、変わらないだろう。


 けど、フリードと親交のある指揮官や、あるいは声をかけられる相手がいるのなら。

 その人の傘下に加われば、ある程度はフリードの意向を汲んだ行動も出来るようになるだろう。


 はたまた、これを機にフリードも騎士団に入って指揮官になってしまう、とか。

 その場合はもっと高い地位に座るから、ほぼすべての指揮官に指示を出す役として、組織ごと俺を使えるようになるだろう。


「手段を選ぶつもりはない。どのような形であれ、君の自由を勝ち取るつもりだ。そして……そのあと押しをする味方についても、これからますます増えることだろう」


「って言うと……もしかして、例の件も答えが出そうなのか? それも、いい結果が……」


 フリードは少しだけ笑顔を見せて、そして力強くうなずいた。

 やった。この件の行く末とはまた別に、俺が考えて準備したことが、貴族相手に成果を出したんだ。なんか……うん。それだけでとりあえずうれしい。


 しかし、どうやらそれにもまだ問題があるらしい。

 さっき笑顔を見せたフリードだったけど、ちょっとだけ怪訝な顔をして、腕を組んで低くうなりながら話を続けた。


「……しかしながら、だ。あの件に賛同したのは、何も貴族だけに留まらなかったのだ。出資するわけではない政治家にも波及し……あろうことか、王もまた賛同の意を表明した」


「っ! お、王様まで……? え、えっと……」


 それは……それ自体はめちゃめちゃ喜んでいい……?

 直接利益を得るわけじゃない政治家や、果ては王様まで認めてくれたってことだよね? え……う、うれしい……


 でも、フリードが言いたいのはそういうことじゃないんだろう。

 俺を騎士として繋ぎ止めたい王様が、別の方向性で価値を認めた……となれば、そこには何かしらの意図があるように思えてならないんだ。


「あるいは王は、君を騎士ではなく、役人として召し上げるつもりなのかもしれない。能力を認めたからこそ、誰の手に渡るよりも前に、と」


「め、召し上げるって……」


 誰のものでもないんだけどな、俺は。

 いや……そうか。フリードの指揮下に置くくらいなら、あるいは貴族に囲われてしまうくらいなら、いっそ近くに置いてしまおう……って意味なら、間違いじゃない……のか?


「しかし……なんだか、その話だけ聞くと……俺が人気者みたいだな。うーん……」


 ほかの事情がなければうれしいのになぁ。

 まあ、その事情があるからこそ取り合いになってるんだろうから、素直に喜べる世界線は…………考えるのはよそう。


 けど、ちょっと前向きになれる話を聞けたのは大きい。

 少なくとも、俺の能力は認められた。いろいろ約束をしたバケットさんとバズのこともがっかりさせずに済む。


 あとは、俺達が三人でいられるようになるか。こっちの問題を踏ん張るだけだ。

 まあ……踏ん張るのはほとんどフリードなんだけどさ……


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