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第二百七十八話【頼もしい仲間】


 フリードに案内されて王宮内の一室に通されると、そこにはすでに十余名の屈強な男達が待っていた。

 鎧を着こんだ誰の胸にも、一様のエンブレムが刻み込まれている。


 彼らが王宮騎士団で、その紋章は誉れ高い団員の証なんだろう。


「待たせたな。こちらの二名を遠征に帯同させて貰う。遠征任務の経験はそう多くないが、しかし戦闘能力については私が保証しよう」


「はじめまして、デンスケと申します。よろしくお願いします」


 ほら、マーリンも挨拶して。と、促すと、マーリンは一歩前へ出て名乗りを挙げた。


 身体の大きい俺のほうはいざ知らず、マーリンははたから見ればただの子供だ。

 相変わらず、不信感に満ちた目を向けられるな。もっともそれは、この一度目に限っての話だけど。


「はじめまして、デンスケさん、マーリンさん。私はロイド。ロイド=カステールと申します。本隊の指揮官を務めさせていただきます」


「よろしくお願いします、ロイドさん」


 そんなマーリンにもにこやかな笑顔を向けてくれたのは、柄に飾りの施された剣を携える優男だった。

 指揮官とのことだから、現場ではこのロイドさんの指示に従って行動する……しなければならないんだな。


「デンスケ、マーリン。ここから先、私は同行しない。しかしながら、不安はない。君達ならば、誰もが認めざるを得ない戦果を挙げるだろうと信じている」


 励まし……ではない、半ば脅迫じみた言葉に、俺もマーリンも無言で強くうなずいた。

 そんな様子を見てか、フリードは満足そうな顔で部屋をあとにする。

 人前では会話はないほうがいいって、あいつもわかってたのかな。お互いボロが出そうだし。


「……ふう。では、打ち合わせをする前に、前提の確認だけさせてください。俺達は部外者ですから。このままだと、連携の足を引っ張りかねません」


 さて。それじゃあ、背を押されたからにはちゃんと前に進まないとな。


 さわやかに笑うロイドさんに、前提の共有を求める。俺達はどの程度の指示を受け、どの範囲まで踏み込んでいいのか、と。


 騎士団には騎馬も存在する。もちろん、俺達はそれと合わせる訓練なんてしてないから、そことは出来るだけ近づかないほうがいいだろう。

 でも、歩兵部隊とならなんだって出来るか……と言われると、それも違う。陣形を組んでの戦いも経験がない。これも参加は難しいだろう。


 こういう部分を、そのときになって出来ないと言っても困らせてしまうだろう。

 だから、今の俺達に出来ること、出来ないことをちゃんと伝えて、そのうえでどう指示を従うのかを先に教えて貰うんだ。


「フリードリッヒ王子から、おふたりのお話しは聞かせていただきました。単独で小隊程度の戦力を保有する……と」


「うっ……そ、そうです。その通りです。彼女とふたりなら、街の騎士団に負けないだけの戦果を挙げる自信もあります」


 あるけど、変な紹介はしないでおいて欲しかったな。

 いくらなんでも信ぴょう性がなさ過ぎるだろうが。逆に疑われかねないんだよ、そういうのは。


 でも、ロイドさんの態度はそういうものじゃない。

 信じてないんじゃなくて、信じたうえでどうしようかと悩んでるみたいだ。


「此度の遠征では、六騎の騎兵隊に二十名の歩兵隊、そこにおふたりを加え、二十八名の部隊を編成しています」


 悩んだ顔のロイドさんから説明されたのは、今回の遠征における部隊編成の話。つまり、俺が求めた前提の、その前提になる部分だった。


 馬に乗って六人が先行し、そのあとから馬車三台で歩兵部隊が続く。

 調査地域に入ったら、騎兵を旗印としながら、集団で魔獣と交戦する。


 現場での連絡手段や補給についても説明があったけど、こればっかりは聞いただけじゃ想像も出来ない。

 そんな大掛かりな遠征は経験もないし、そもそもイメージすら持ってないから。


 それでも、ひとつだけわかったこと……伝わってきたことがある。

 それは、フリードの指示もあってのことだろうけど、この部隊は、ロイドさん達は……


「……かなり、期待して貰えてるみたいですね。応えられるよう頑張ります」


 この作戦は、部隊そのものの連携、精度についてももちろんだけど、所属する個人の能力についても、かなりのものが求められている。そう感じた。

 そして、連携も連絡も、その他の経験もロクにない俺達は、単純な能力だけでそれに食いついて行かなくちゃならない。


 それに食いつけるだけのものがあると、そういう前提のもとに作戦が立てられている。

 そう言われたわけじゃないし、根拠もあいまいだけど、そんな熱を感じたんだ。


「……正直なところ、我々にも不安はあります。王子の推薦があるとは言え、おふたりの実力を目の当たりにしたわけではありませんから」


 それでも……と、ロイドさんはそう続けて、そして部隊のみんなのほうを振り返る。

 そんな彼の態度に、みんなは深くうなずいて、真剣な目を俺達に向けた。


「……それでも、この決定に不服はありません。たとえどのような人物が派遣されようとも任務を遂行する。その自信が我々にはありますから」


 ロイドさんはそう言うと、やはりさわやかな笑みを浮かべて手を差し出した。

 言ってること結構きついけど……なるほど、これはまた手厚い歓迎だ。


「ガッカリはさせません。それと同時に、王子の期待に背くこともしませんから」


 ロイドさんのその手をがっちり取って、俺もまっすぐに目を見ながらそう答える。

 すると……やっぱり、ロイドさんは優しく笑う。さっきの言葉は挑発でも自信の表れでもなくて、はっぱをかけるためのものだったんだ。


「やはり、王子が推薦なさるほどのかたがたです。私程度の挑発では、髪の毛一本ほども揺らぎませんね」


「ん? あれ? えっと……今の、挑発だったんですか……? いえ、言葉だけ捉えたらそうも取れましたけど……」


 あれぇ? なんか、ひとりで勘違いしただけだったみたい。は、恥ずかしい……


「ロイドさん、アンタはそういうの向いてないんだよ。人が好過ぎるし、顔が優し過ぎる。あんな人の下で育って、どうしてそうまっすぐになってしまったんだ」


「はは……そう、でしたか。本心を隠して上手く煽ったつもりだったのですが……初対面でもあっさりと看破されてしまっては……」


 お、落ち込んでしまった。周りからもやいやい言われて、すごく……こう……見るからに落ち込んでしまった……

 挑発が失敗したからってよりは、本心を隠しての発言を見透かされたことが悔しかった……のかな。


「なんか……すごく親近感……」


 俺もさんざん言われたからな、隠しごとやはかりごとに向いてないって。

 でも、きっとこの人は、俺と違って嘘が下手なわけじゃない。根っこの善性があまりに強過ぎて、あくどい振る舞いが出来ないんだ。


「こほん。すみません、話が逸れてしまいました。部隊の編成についてお伝えしたところ……でしたね。では次に、現地の魔獣について共有させてください」


 ちょっとだけ赤くなった顔で、ロイドさんはまた真面目に遠征の打ち合わせを再開した。

 後ろで見ていた騎士達は、どこかのんびりした表情になってる。

 ということは、さっきの挑発は事前に打ち合わせとかしてたのかな。なんて真面目な人なんだ……


 そして伝えられた魔獣の情報は、旅のあいだにも見なかったような特徴ばかりだった。

 やっぱり、北に行けば行くほど危険度の高い魔獣がいる……王都から近いところでも、例外はないんだなと思い知らされる。


 ひと通りの情報共有と、そして指示用の信号について再確認すると、部隊はついに出発の時間を迎えた。

 騎士団に同行しての遠征は初めてじゃない。でも、フリードがいない状況でのそれは初めてだ。


 緊張する。でも……不安はない。

 魔獣と戦うだけなら、それに集中出来れば、俺にも十分に務まる。そして、そのための環境をロイドさん達は準備してくれている。


 視線をマーリンへと向ければ、彼女もまた真剣な顔で小さくうなずいて返してくれた。

 やろう。成果を出して、もう一度フリードと一緒に。


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