表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/549

第百九十八話【では、次へ】


 ガズーラじいさんとの再会は、予定していたのとは違う形で叶うことになった。

 でも、その最期を聞くことが出来ただけでも、俺達は幸運だったのかもしれない。


 この電話もメールもない世界で、引っ越し先も知らない友達の生き様を知れる可能性は、とてもとても低くて、普通じゃ起こり得ないことだと思う。


 聞いたときにはかなしいばかりだったけど、一日経てばちょっとは心の整理がされるみたいで。

 寝て起きたそのときには、さみしさよりもどこか満足感にも似た感慨が湧いていた。


 で……クリフィアの西側、草原のど真ん中で、大フクロウことザックに圧し潰された状態で目を覚ました今のこの瞬間。

 右を見れば果てしなく自然が続いていて、反対を見ればマーリンとフリードがまだ寝てて……


「……俺のほうが参ってたのはどうなんだ。まあ、そこも子供っぽいと言えば……なのかもしれないけど」


 あんなに会いたがってて、あんなに話したがってて、でもそれが叶わなくて。普通だったら、もっと落ち込んでもおかしくないのに。

 お姉さんからのフォローがあったとはいえ、顔も見られない、声も聞けないことは明らかなんだから。

 もっとも、そうなって欲しかったわけじゃないけど。


 それにしたって、マーリンには信仰心はない……と、思う。ないと思うから、お姉さんの考えかたに共感があったわけじゃない。

 だから、その場そのときに理解して納得したんだろう。純粋だからこそすんなり受け入れられたのかな。


 その点俺は、この世界とは無関係だけど、ひいじいちゃんの葬式とか、有名人の訃報とか、関係が遠くても死別を経験してるから。

 もう会えないし、もう話せないし、もう声も聞けないんだってわかっちゃって、それを覆す死生観を簡単には受け入れられないんだ。


 とまあ、そんな理屈を考えたところで、じいさんは生き返らないし、思い出すたびにさみしくなるのも変わらない。

 これもある意味では、友達が出来た結果だから。出会いがある以上は別れもある。

 それを、考えられる限りで最高に前向きな形で迎えられたと思えば、今回の件はマーリンにはすごくいい経験になったんだろう。

 もちろん、ちゃんと生きて会えればそれが一番なのは当たり前としてさ。


 で……だ。

 そんなさみしい昨日が終わって、今日からはまた北へ……首都へ向けて出発するわけだ。

 そうなると、自ずと決めなくちゃならないことが生まれる。

 たとえば移動手段だったり、移動経路だったり。


 今までは、なんとなくで進んで、街に着いたらそこで休む……を、死なない範囲で繰り返してきた。


 でも、目的地が出来た以上、そこを目指さなくちゃならない。今までと同じでは困るわけだ。


 フリードはそれでいい、今までのやりかたから変える必要はないって言ってくれたけど、そうもいかない。


 彼の目的は俺の目的とも一致する。そしてそれは、出来れば急ぎたいものなんだ。

 としたら、出来る限り最短で首都を目指したいけど……


「……む。あいかわらず、君は起きるのが早いな。そして……このぬくもりの下でまどろんで、よくぞ眠らずにいられるな。その胆力は、やはり私が見込んだ通りだろう」


「おはよう、フリード。変なとこ感心してないで、起きたならちょっとこのまま話聞いてくれよ」


 フクロウの下敷きになってぬっくぬくなの、たしかにめっちゃ眠くなるけど。二度寝したくてたまらないけど。

 でも、それしちゃうとたぶんみんなも二度寝しちゃうでしょ。特に、マーリンが二度寝なんてしたらもう全然活動出来ないんだから。じゃなくて。


「最終的には北の調査に……ってことだけどさ。ちょっと遠回りし過ぎてるし、フリードの案内でまっすぐ向かうわけにはいかないかな」


 あったかくても頑張って起きてるとこを褒めて貰うターンはもう終わり。そんなの最初から求めてないけど。


 マーリンが起きるまで、これからの方針をちゃんと固めてしまおう。

 出来れば三人で話し合いたいけど……起きるの待ってからだと、本当に時間ないから……


「以前にも話したが、私は君達の歩みに同行したいのだ。そして、その中で街や民が救われるのならば、それもまた目的の達成に貢献する。ゆえに、私が道を示す必要は……」


「それもわかってる……けどさ。結局、問題の根っこがわかってないし。草の根活動も大切かもしれないけど、調べるべきことを急いだほうがいいんじゃないのかな、って」


 いつかの村で見かけた魔獣と、その周りの環境について。

 フリード出した答えは、魔獣という脅威が、またさらに別の脅威によって使役されているんじゃないか……という、今までには考えられていなかったものだ。


 もしもそれが本当だったなら、そんなものが実在するなら、ただ末端の魔獣を倒し続けても、なんの意味もない可能性が高い。

 どの程度の知性があるかはわからないけど、それが人と同じか、あるいはそれ以上なんだとしたら……


「群れを蹴散らしたところで、また別の群れや強力な個体を配備するかもしれない。ただ強いものに従ってるだけじゃないとしたら、そこには狙いがあるハズだろ?」


「……魔獣にとって価値の高い区域を奪取するために、継続的な戦力供給を怠らない……こちらとすれば、短期的な防衛では成果の上がらない状況が生まれかねない……か」


 相手が魔獣である以上、人間の歴史に発生する戦争とは違うものだとは思う。

 でも、生存競争である以上、住みたい場所、住みやすい場所を奪うことには躍起になるハズだ。


 としたら、今までに魔獣による大きな被害が出た場所は、そしてそれを俺達が解決した……つもりになってる場所は、さらなる脅威に見舞われている可能性だって……


「考えられない可能性ではない……が、しかしそれでも……ふむ」


 あり得なくはない。としたうえで、フリードはしばらく考え込む。


 真剣な話を俺から切り出したし、フリードも本気で応えてくれてるところ……なんだけど。

 もっこもこな生き物の下で寝そべってまじめなこと言ってるの、すっごく……間抜けだな、今の俺達。じゃなくて。


「……いや。ならばこそ、君達の今までの活躍が必要だと私は考える。もしもそうならば、それは私達だけの問題ではないのだから」


「……むしろ、今まで通り……遠回りのほうがいい……えっと、それはさ……」


 俺が最初に掲げた目的、目標。

 冒険者と名乗って、その活躍に憧れて貰うことで、みんなが魔獣の問題に立ちむかえるようになったら……って、そう思ってのことだった。


 フリードが言いたいのはそれ……なのかな。

 短期的な防衛じゃ意味がない……そして、俺達が北へ急いだとしても、根本的な解決がすぐになされるわけじゃないとしたら……


「ああ。街自体に、そしてこの国自体に、防衛能力を身につけさせる。そういった意味では、君の歩みは大きな貢献となるハズだ」


「……でも、大きな街には大きな警察や軍隊がある。そういった組織が、周辺の小さな町や村も守ってくれてる。俺がやらなくても……」


 俺がやろうとしているのは、あくまでも個人の心持ちを変える……みたいなもので、組織立った活動に比べたら、影響は些細なものになるだろう。


 始めたばかりのころはいいアイデアだと思ってたけど、実際に騎士団に参加してみれば考えだって変わる。

 俺ひとりに出来ることは、とっくにみんながやってくれてるんだ。


「いや、君でなければならない。そう……そうだ。君なのだ、デンスケ」


「お、俺? 俺……じゃなくちゃダメ。俺個人を名指しで……? それとも、俺みたいな境遇の、立場の、強さの……って、そういう話か?」


 俺の問いに、フリードは一瞬も迷うことなく、君だ。と、そう答えた。

 俺……デンスケという個人でなくちゃダメ……か。そりゃまたどうして……


「自身のことゆえ、自覚は薄いかもしれないがな。君の活躍は、君の戦いぶりは、何よりも英雄的なのだよ。それは、組織では決して成せないものだ」


「英雄的……それはえっと、俺はひとりで多くの魔獣を倒せる……ように見えるから、って話か?」


 強化魔術を受けた俺は、それはそれは一騎当千の戦士に見えるだろう。


 たしかに、俺もそれはいいことだと思った。

 派手で、目立って、誰の目にも明らかな強さだから。憧れられるためには欠かせない要素だと。


 でも……それだったら、フリードだってそうだ。

 そもそもの話、マーリンがいなくちゃ話にならないし、そのマーリンも、どれだけの大群だろうとひとりで倒してしまえる。


 なのに、俺じゃなくちゃいけない……俺のほうがヒロイックだってのは……


「私は王子だ。今は伏せてこそあれど、活躍が知れればいつかは露呈する。そうなってから、ああ、やはりあのものは特別だったのだな……と、そう思われてしまいかねない」


「……な、なるほど。でも、じゃあ、マーリンは……」


 マーリンの過去は、どれだけ頑張ってほじくり返したとしても何も出ない。出ようもない。

 そもそも、名前も姿も違ったんだ。まだマーリンとしては半年も生きてないんだから。


 そんな彼女なら、条件は満たしてるんじゃ……


「……彼女はそもそも、英雄の資質ではない。あまりに無垢で、無邪気過ぎる。それに何より、彼女はゆうではない」


「そりゃあ、女の子だから雄なわけはなくて……って、そりゃなんの話だ……?」


 重要な話だ。と、フリードは真剣な顔で言うけど……なんかちょっと、嫌な予感がする。


「現実として、異性の活躍に、それも魔術師という特異な存在に、どれだけの男達が憧れられるだろう。彼女では、像があまりにかけ離れ過ぎるのだ」


「……っ。そ、そうか。そう……だな、なるほど……」


 あっ、よかった、ちゃんとまじめな話だ。


 漠然と憧れて貰おうとしてたけど、よくよく考えてみれば、戦力を求める以上は男の人じゃなくちゃダメなんだよな。

 マーリンだけが特別な魔術師……魔導士である以上、みんなは武器を持ってその手で魔獣を倒さなくちゃならない。


 となれば……当然、力も体力も並外れたものがなくちゃならない。それを女の人に求めるのは、いくらなんでも……か。


「それに……雄でなければ、多くの女を侍らせるという、誰の目からも憧れられる姿にはなるまい。欲に身を任せられること、これこそが英雄の資質だ」


「っ⁈ や、やっぱりその話になった……っ。まあ、それも言わんとすることはわかるけど……」


 あっ、ちゃんとダメなほうのフリードも出たわ。

 まあ……それにつきましては、拙者もいい思いしてるから、何も言い返せないんですがな。


 まじめな話にふざけたオチがついたところで、今後の指針は定まった。


 やっぱり、俺達は今まで通りのことをする。憧れて貰うために、その活躍を広く知らしめる必要があるから。

 そうした先で、大勢が戦う意志を掲げられるようにしたいから。


 そうと決まったら……じゃあ次は、ここからどこへ向かおう。

 東にはもう行った。西にも前に行った。北へ進めばキリエに戻るし、南は目的地と反対だ。

 となれば……うん。これもやっぱり今まで通り、マーリンに決めて貰おうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ