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第百五十三話【再訪、湖の街】


 どうしたことか、フリードもマーリンも揃って大急ぎで進むもんだから。俺達は三人で競争するみたいにしながらキリエの街へと到着した。


「はあ……はあ……あ、足が速い……っ。ふたりともなんでそんな体力あるの……設定的におかしいだろ……」


 かつては翼で空を飛んでいた、どちらかと言えば頭脳派ジョブのハズの魔導士。

 そもそもは王宮で悠々と暮らしていた、黄金騎士を名乗る現王子。

 そんな肩書きからは想像出来ないくらい体力に満ち満ちているのはなんで。俺だってそんなに貧弱なわけじゃないんだけど……


「あはは。たのしかったね。ねえ、もっと走る? おじいさんのところまで、また競争しようよ」


「ふふ。ああ、私はどれだけでもつきあおう。ただ並び立つだけが友ではない、互いに競争心を抱くからこそ対等な関係だろう」


 なんでそんなに元気なの……と、疑問も不満も山盛りてんこ盛りの俺をよそに、ふたりは涼しい顔でまだやろうとか共鳴してる。ちょっと待って、これ以上は俺が死ぬ。


「ぜえ、ぜえ……こらこら、ストップ。街中で走り回らない。迷惑になるでしょうが」


「そうかな……? そう……かも。そっか。ごめんね、デンスケ」


 謝らなくてもいいよ、ちゃんと素直にお願い聞けて偉いね。じゃなくて。

 こういうときには俺と一緒に諫めるのが役割でしょ、何やってるのフリード。と、不満の視線を向けると、自覚はあったようで、フリードは申し訳なさそうに目を伏せた。


「いや、すまない。単純な膂力……ただ走るというだけでも、私に並んだものは王都にもいなくてな。以前から思っていたのだが、マーリンの運動能力の高さはどうしたことか」


「……王都って、この国で一番大きい、人が多い街……だよね、きっと。そこで一番のフリードと肩を並べるって……」


 あれ。もしかしなくても、本当にこのふたりだけがおかしい感じかな?

 それにしても、まさか街で一番……それも、きっとこのキリエよりもさらに人が多いのだろう場所でも一番とは。

 王子様相手だから手加減してる……なんてこともないんだろう。フリードは本当にすごいから、本当に一番なんだろうな。


「腕力については比べるまでもないだろうが、しかしその他の要素については……ふふ。マーリン、いつか私と技比べをしてみないだろうか」


「わざくらべ……? えっと……? よくわからないけど、いいよ。何するの?」


 こらこら、なんかちょっと武闘派体育会系なノリを展開するな。嫌いじゃないけど、やっと目的地に着いたばかりにする話じゃない。


「こらこら、だから……はあ。マーリン、先に買い物を済ませるよ。ガズーラじいさんのとこに行くんだろ。手土産持ってくって約束したんだから」


「そうだ、そうだったね。おみやげ、何がいいかな?」


 約束なくても手土産くらいは持ってくけど、したからにはちゃんとしたもの選ばないとね。


 こういうとき、前まではただただ不安ばっかりが募ってたけど、今回はいくらか安心出来る理由がある。

 それは、常識と良識を兼ね備えた、あまりにも頼もし過ぎる仲間が増えたこと。


「……というわけで、だ。フリード、この辺の特産品って何かな? こういうのも本当は自分達で聞いたり調べたりしたいけど、まず何より……だからさ」


「そのガズーラという人物と会うことは、この街についての知見を深めることよりも優先される……か。それほどの人物と知り合っていたとは」


 いや、そんなたいそうな人じゃないよ。初見で人を殺そうとするくらいイかれた爺さんだから。

 それでも、大切な縁なのはたしか。それに、遠回りしてから挨拶に行こう……なんて、マーリンが我慢出来なくなりそうだからね。


「しかし……ううむ。期待に応えられそうにもない。このキリエは、たしかに美しい自然で栄えた街だが、だからこそ……」


 ふぅむ。と、フリードは困った顔になって、俺の質問に答えあぐねていた。


 たしかに、この街からすぐのところには、とてもとてもきれいな湖がある。

 それこそ、マーリンが大興奮で説明してくれるくらいの場所だ。お気に入りの場所のひとつらしいし。


 でも、だからこそ……と、フリードはそこで言葉を止めてしまって、それを言うべきか否かと悩んでいるみたいだ。


「……いや、いずれは気づくことだろう。この街は、観光に力を入れたがゆえに、もとあった美しさを失いつつあるのだ」

「私が幼かったころに訪れた際には、これほど建物も多くない、自然と共生したような場所だったのだが……」


「人が増え過ぎちゃって、もともとの良さは失われつつある……か。それに、観光が売りだったってことは、産業についてはそんなでもなかった……ってことだよね、きっと」


 もちろん、観光地であり産業の名所……なんてのもあり得るだろうけど。

 でも、もしもそうだとしたら……この街の今の形はおかしいもんね。


 この街の建物は、どれも立派なものばかりだ。それはつまり、それだけお金を持っている人が、住むために建てた家ばかりだ……ということ。

 どれも工場やお店ではないことは、以前の訪問の折にも感じていたことだ。


 そうなると、ここが工業で栄えた街でないことは間違いない。

 同時に、畑や牧場も見当たらないことから、農業や畜産も盛んなわけではないと推察出来る。

 それでいて、きれいな湖こそあれ、資源を求められそうな自然環境に囲まれているわけでもないときた。


 つまるところ、ここは生産の場所ではなく、消費の街なのだ……と、フリードはそう言ってるんだろう。


「お土産に出来そうな特産品は、今はもう何もない……か」


「そういうことになる……な。すまない、力になれなかった」


 いや、そんなことであやまらないでよ。何も悪くないし、落ち度なんてあるわけないんだから。


 それに、よくよく考えたら、この街に住んでる人にこの街の特産品を持ってくのもよくわかんないし、そこにこだわるのは無意味……か。


「じゃあ、ちゃんと心を込めて選ぼう。マーリンの気持ちは誰よりもまっすぐ伝わるからね、それが一番のお土産になる」


「ふふ、そうだな。私がどれだけの知識をもとに最適な手土産を選んだとて、君の笑顔よりも心を打つものにはなり得ないだろう」


 どうにも毎回口説き文句を入れたがるけど、それはなんなの。プレイボーイなの。

 顔がかっこいいから許されてるけど、性格がまっすぐ過ぎるから見逃してるけど、うちのマーリンたそにちょっかい出さないでくださいませんかね。


 しかし、今度もフリードの言う通りだ。

 俺がああだこうだと言ったところで、渡すのがマーリンである以上、彼女の心がこもってなかったら意味がない。

 お母さんに選んできて貰ったプレゼントより、本人が一生懸命書いた似顔絵のほうがうれしいお父さんはきっと多いハズだ。なんで親子に例えた。俺がお父さん目線だからか。


「よし、それじゃあ露店を見て回ろうか。それを手つけにして、本命は旅の思い出話……なんてのはちょっとクサいかな?」


「思い出……えへへ。おじいさんといっぱいお話しするんだ。マグルのこともね、教えてあげなくちゃ。きっと、おじいさんも誤解してるから」


 っと、そっかそっか。ガズーラじいさんはクリフィアにいたことがあったんだっけ。

 としたら……マグルの本心、悩み、そして……仲良くなったから見えた、あの人の心の温かさ。そういうのもちゃんと伝えてあげたいね。


 そうと決まれば。と、マーリンは鼻息荒く街道を進み始めた。

 でも……おーい、繁華街は反対だよ。そのまま進むとまた街の外に出ちゃうよ。おーい、マーリンたそー。


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