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第十二話【未来を】



 あたたかい。ふわふわと柔らかいものに包まれていて、とても気持ちがいい。ただ……ちょっとだけ、獣臭い。


 今は夏……だから、毛布なんて出してない……よな。出してたとしても、ペットも飼ってないのになんでこんなに臭いんだ。


 風が気持ちいいのは……窓は開けてたっけ。扇風機は回して寝たけど、直接風が当たらない向きになってるから……?


「……ん……んん……? なんか……」


 音が聞こえる。車の音とかじゃない、もっと……落ち着く音。これは……鼓動……でも、自分のじゃない。自分のもあって、それとは別に……ふたつ、聞こえる。


 ペット……飼ってない……ああ、えっと。じいちゃんの家では犬飼ってて……あれ? 今、じいちゃん家に泊まって……いや、違う。シロタロウは俺が小さい頃にはもう死んじゃって……


「……ふわ……ふ……ぶぇっくし! ずず……ずび……んあ……? なんか、鼻がムズムズ……」


 じゃあ……この臭いは何? それと……やたらと鼻に当たる、もふもふしたものはなんなの? え、怖い。身に覚えがない。もしかして、寝過ぎてもう冬休みに入って…………


「……むにゃ……えへ……」


「…………あー。えっと…………そうだ」


 わけわかんないままに目を開けると、そこには女の子がいた。黒い髪の、すやすや眠っているかわいい女の子。


 それと…………女の子と俺とを包み込むように座り込んでる、やたらでっかいフクロウ。えっと……うん。そうだった。


「夢じゃなかった……んだな。寝て起きると……げ、現実感ってものが全然ありませんなぁ……」


 ここは異世界。そして、目の前で寝てるのはドロシー。俺をここへ召喚した魔女で、この世界で最初に出来た友達。と……その友達から分離した、謎の多過ぎるフクロウ。


「……夢じゃない……うん。よし、ちょっとずつだけど目が覚めてきた」


 異世界へ召喚されて、色々……そう、色々。やらかし七割で色々あって、俺はドロシーと一緒に山奥で野宿したんだ。


 焼いたうさぎの肉を食べさせて貰って、せめて塩くらいは欲しいって涙が出て、陽が落ちるまでは水を汲んだり寝床を作ったりして、それで……


「……寝て……起きて……? あれ……なんだろ……?」


 ちょっとだけの違和感がある。なんだろう、この感じ。気持ち悪いような、一周回って気持ちがいいような。


 もしかして、これもまだ夢……? 夢の中で夢を自覚したときの、ちょっとずつ意識がそこから離脱していく感じ……に、似てる……気もする。その感覚をきちんと覚えていられないから夢なんだけど。


 でも、やっぱりちょっとだけ変だ。何が変なのかがもう少しでわかる……気がする。気がする……のに……


「……あれ? これ、どこかで……」


 一回体験してる……気がする……? でも、どこで? だって、この世界に来たのは昨日で、夢を見るチャンスはまだこれが一回目で――――




 あたたかい。ふわふわと柔らかいものに包まれていて、とても気持ちがいい。ただ……ちょっとだけ、獣臭い。


 今は夏……だから、毛布なんて出してない……よな。出してたとしても、ペットも飼ってないのになんでこんなに臭いんだ。


 風が気持ちいいのは……窓は開けてたっけ。扇風機は回して寝たけど、直接風が当たらない向きになってるから……?


「……ん……んん……? なんか……」


 音が聞こえる。車の音とかじゃない、もっと……落ち着く音。これは……鼓動……でも、自分のじゃない。自分のもあって、それとは別に……ふたつ、聞こえる。


 ペット……飼ってない……ああ、えっと。じいちゃんの家では犬飼ってて……あれ? 今、じいちゃん家に泊まって……いや、違う。シロタロウは俺が小さい頃にはもう死んじゃって……


「……ふわ……ふ……ぶぇっくし! ずず……ずび……んあ……? なんか、鼻がムズムズ……」


 じゃあ……この臭いは何? それと……やたらと鼻に当たる、もふもふしたものはなんなの? え、怖い。身に覚えがない。もしかして、寝過ぎてもう冬休みに入って…………


「……むにゃ……えへ……」


「…………あー。えっと…………そうだ」


 わけわかんないままに目を開けると、そこには女の子がいた。黒い髪の、すやすや眠っているかわいい女の子。


 それと…………女の子と俺とを包み込むように座り込んでる、やたらでっかいフクロウ。えっと……うん。そうだった。


「夢じゃなかった……んだな。寝て起きると……げ、現実感ってものが全然ありませんなぁ……」


 ここは異世界。そして、目の前で寝てるのはドロシー。俺をここへ召喚した魔女で、この世界で最初に出来た友達。と……その友達から分離した、謎の多過ぎるフクロウ。


「……夢じゃない……うん。よし、ちょっとずつだけど目が覚めてきた」


 異世界へ召喚されて、色々……そう、色々。やらかし七割で色々あって、俺はドロシーと一緒に山奥で野宿したんだ。


 焼いたうさぎの肉を食べさせて貰って、せめて塩くらいは欲しいって涙が出て、陽が落ちるまでは水を汲んだり寝床を作ったりして、それで……


「……寝て……起きて……? あれ……なんだろ……?」


 ちょっとだけの違和感がある。なんだろう、この感じ。気持ち悪いような、一周回って気持ちがいいような。


 もしかして、これもまだ夢……? 夢の中で夢を自覚したときの、ちょっとずつ意識がそこから離脱していく感じ……に、似てる……気もする。その感覚をきちんと覚えていられないから夢なんだけど。


 でも、やっぱりちょっとだけ変だ。何が変なのかがもう少しでわかる……気がする。気がする……のに……


「……あれ? これ、どこかで……」


 一回体験してる……気がする……? でも、どこで? だって、この世界に来たのは昨日で、夢を見るチャンスはまだこれが一回目で――――


「――――違う。違う、違う――っ! 一回目じゃない」


 びりびりと頭の奥がしびれて、背中が凍り付くような錯覚を覚えた。


 ともすれば、あの化け物……魔獣に襲われた時よりもずっと大きい、得体のしれない恐怖を前にしているかもしれない。


 俺はこれを――まどろみの中から意識が覚醒するまでの瞬間を、絶対にどこかで見ている。いや、違う。ついさっき――夢の中で、まったく同じ思考と行動をして、まったく同じ光景を見て、まったく同じ感触に包まれていた。


 まだ脳がしびれてる。意識は完全に覚醒してる――目は覚めてるのに、夢の中にいるみたいな浮遊感がある。地に足がついてないと言うか、自分の思考がどこにも根を張っていないみたいな不安がとめどなく押し寄せてくる。


 さっきのは……夢……? じゃあ、これは……?


 予知夢……? 正夢……? それとも、これがまだ夢…………? 同じ夢を繰り返し見る夢……?


 もしそうだとして、でも……あんなにはっきりと、細部まで同じ夢なんて見るんだろうか。


 そりゃ、夢だから。ちゃんと覚えてない部分を勝手に補完して、完全に一致って思い込んでるだけ……かなとも思う。でも……


「……むにゃむにゃ……んん……ふわぁ。ん……」


「……ドロシー……もしかして、また何か……」


 ちょっとだけ、頭の片隅に……いや。主に足の裏に、思い当たる節があった。


 怪我をしてもすぐに治るようにしておいたよ。と、彼女はそう言った。怪我をした。怪我をしていると思った。まだ治っていないと、当たり前の判断をした俺が、どこにも傷が見当たらないことに驚いたその時に。


 それは、この世界に召喚する際に……付与された……? パッシブスキル……? らしい。それについての説明を貰う……のは、もうちょっと落ち着いてからにしよう。なんて、微妙に日和ったのが昨日の出来事。いや、何もかも全部が昨日一日に詰め込まれてるんだけど。


「……お、起きてー、ドロシー。朝だよー」


 聞こう。さすがに聞こう。怖い、めっちゃ怖い。


 怪我がすぐ治る時点でもうめちゃめちゃ怖いのに、もしかして似たような能力を他にも埋め込まれてたりするのかも……とか、もうめっちゃめちゃに怖い。


「ドロシー。ドロシーってば。ほら、起きて。おーきーてー。朝だよ、起きる時間だよ。いや、生活リズム知らないけど、こっちの」


 さらに言うと、人と同じ生活をしてないドロシーの生活リズムなんてもっと知らないけど。でも、そんな場合でもないので。


「起きて、起きて。ほら、起きて。ちょっと、無防備過ぎるよ。いろんな意味で。男の子がいるんだよ。そんでもって、野生動物もあの化け物も普通にいるんだよ。ここ外だよ。起きてー。早く危機感を持って起きて―」


 しぐさと寝顔が子供過ぎてそんな気にはならないけど、歳が近い男女がひとつ屋根の下じゃ間違いが起こるよ。あ、いや。屋根ないな。じゃあ……起らない、か……じゃなくて。


「……むにゃ……? んん…………? あっ……えへへ。デンスケ……えへへ……」


「……くっ、どうしてそうかわいい顔をするのですかな」


 夢が叶って、寝て起きてもそれが消えてなくならなかった。そんな現実に心の底から喜んでる。って、もう全部伝わってきた。


 ドロシーはまだしょぼしょぼした目でにこにこ笑って、だらしなく緩んだ口で俺の名前を呼ぶ。何回も、何回も。確かめるように。それと……たぶん、堪能するために。


「……そうだよ、デンスケだよ。ドロシーの友達の、別の世界から来たデンスケだ。で、そのデンスケがちょっと聞きたいことあるから、早くしゃきっとして」


「えへ……えへへ……デンスケ……えへへ。友達……えへへぇ」


 うれしいのとまだ眠たいのとが半々なのか、ドロシーはずっと……ずーっと、にへにへ笑って俺の名前を繰り返し呼ぶばかり。もしかしなくても、寝起きが悪いのかな。


「……ごほん。ドロシー、ちょっと聞いてもいい? 俺にさ、怪我をしても治る……魔法? 魔術? を、かけてくれてた……って言ったよね。それって……そういうのって、他にもある? たとえば……」


 予知夢を見る能力……とか。と、それはもう一切の寄り道なしに本題を投げてみる。まだろくに焦点もあってなさそうな目の、よだれを垂らしたドロシーに。


 こんな状態に質問をして、果たして答えは返ってくるんだろうか。そんな疑問も不安もあるけど……ちゃんと目が覚めるのがいつになるかわかんないし、それまで怖いままなのも嫌だし。


 ドロシーはしばらくの間……本当にそれなりに長い間、デンスケ……友達……と、嬉しそうにつぶやいて、それが十セットくらい繰り返されたころに……


「……えへ……デンスケには……ね。僕の……未来を……見る、力を……えへへ。あげたから…………むにゃ」


 すやぁ。と、健やかな寝息を立てて、ドロシーはそのままフクロウの方へと倒れて……眠ってしまった。眠ってしまった……けど……


「…………その顔でとんでもないこと教えないで欲しい…………」


 ちょっと白目剥いて、だらしなく口開けて、よだれ垂らして。寝ぼけに寝ぼけた状態で…………ほんっとうにとてつもないことを打ち明けられてしまった。この感情はどこへもっていけば……

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