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第百四十一話【変わらなさすぎじゃない……?】


「――歩んだ道こそ違えど、私と君達とは似た日々を過ごしたのだと思う。あのあと、私は一度王宮へと戻り……」


 ちょっとだけ話が脱線しかけたけど、フリードはそれも気にせず、別れたあとに何があったかを教えてくれた。

 こういうところの懐の深さは見習うべきだろうか。それとも、もうちょっと気にしたほうがいいよって、怒ったほうがいいよって伝えるべきだろうか。


「先に話した通り、稽古の相手を務められる相手など、王都中を探しても見つからなくてな。そういった事情を利用すれば、外に出る口実となるだろうと読んだのだ」


「……うん。その通りなんだろうけど、もうちょっと言葉選んで欲しかったな。かっこいい言いかたもあっただろうに……」


 口実て。

 俺のこと言うときはめちゃめちゃ語彙力高く褒めてくれるのに、自分のことになるとちょっと卑屈になるのは、あんまりよくないこと……だよな。


 もっとも、フリードの場合は目指しているとこがすっごく高いから。

 本人としては、まだまだ精進しないと……って、そう思ってのことだろうけど。


「そうして王宮を、王都を出発して、私はまず、君達のあとを追うことに決めたのだ」

「ただ再会したかった……というだけではない。ものごとはどれも、運命的な因果によって引き寄せられると私は考える。ゆえに……」


 君達の行く先には、きっと多くの困難が待ち受ける。その困難こそが、私を鍛えるに足る試練なのではないかと、そう思った。

 フリードはそう言って、少しだけ苦笑いを浮かべた。


「けれど……君達は見つけるすべはなかった。当然のことだ。この国は広い。それに、友と呼んで貰ったものの、私は君達のことをほとんど知らなかったのだから」


「まあ……そうだね。俺達も、いつかはフリードに会いに行こうって思ってたけど、それは王子だから……王宮に行けばきっと会えるだろうくらいにしか考えてなかったから」


 どこへ行けば会えるかわからない相手となっちゃ、探そうにも探しようがない。それはよーく思い知ってる。


 でも……そっか。もしかしたら……と、ひとつの答えが……仮説が浮かび上がった。

 フリードが騎士として戦ってた理由って……


「……それで、だ。私は君達を探すことを諦め、君達を私のもとへ招くすべを考えたのだ。それこそが……」


「やっぱりそうだったんだ。旅を続けて、報酬も受け取らないで、ただ人々に感謝され、名前を大きくする。流浪の騎士は、俺達を呼び寄せるための看板だったんだな」


 俺の答えに、フリードは深くうなずいた。まったくもってその通りだ、と。


「短い間だったが、君達の心持ち、精神性については、それなりに深く理解出来たつもりでいた」

「正しい行いをしていれば、輝かしい正義がそこにあれば、きっと会いに来るだろう……と。きっと、協力を申し出ようとするだろうとな」


 あれ……そんな精神性、人間性、と言うか、殊勝なところなんて見せてたっけ……?

 山の中でダラダラして、のんびりお話しして、ぼんやりした目標に向かって暗中模索してただけな覚えがあるんだけど……


 やっぱりフリードの中での俺達への評価がわからない。いったい何が見えてるんだ、この男には。


「そうして私は、まずは君達と別れたボルツへと向かったのだ。しかしながら……」

「そこで君達の足取りを掴むことは出来なかった。ただそれでも、あの街からならばどこへ向かうだろうか……と、それを考えたときに、候補がふたつ上がった」


 指を二本立てて、フリードはそう言った。


 俺達からすれば、本当にその場その場で目指すところを決めてた、決めるに際して情報を集めてたんだけど、でも……

 フリードの場合はそうじゃない。俺達が行きそうな場所はわからなくても、その街がどんなところへ繋がっているかは知っているから。

 やっぱり、土地勘って大事だな……


「湖の痕跡を追うために、似たような場所を探す……つまり、水場を辿る可能性が高いと思った」

「ボルツから近い大きな水場となれば、キリエの湖か、ボーロ・ヌイの海岸のどちらかではないか……と、まずはそう絞り込んだ」


 ボーロ・ヌイって名前は知らないけど、でももうひとつの候補は本当に辿った道のりだ。

 情報と知識が伴うと、ちゃんと人の足跡を追えるもんなんだなぁ……と、ついつい感心してしまう。


「そこで私は、知己の伝手も頼りに、キリエへと向かったのだ。だが……残念ながら、その道で正しいのかどうかもわからずじまいでな」


「あはは……じゃあ、俺達の話を聞いてて、惜しいって思ってたのか」


 あるいは、そのまままったく同じ道を追ったのではないかとさえ期待したとも。と、フリードは笑った。


「しかし……君達はそのキリエから、次にはクリフィアを目指したのだったな。まったくもって盲点だった。魔術の痕跡を追うのであれば、魔術師を追うに決まっていたのに」


 そ、そんなに悔しがらなくても……

 なんだか知らないけど、フリードとしては、俺達とまったく同じ道を追いかけて、運命的な再会を果たしたかった……ってことなのかな。

 ロマンチストなとこあるのね、貴方。まあ、気持ちはわからなくもないけど。


「キリエを出発した私は、ひとまず東へと出発した。結果としては、これが好判断だったと言えよう」

「街へ向かいながら、私は先の手段を考えついた。自らの名を売って、君達に見つけて貰おう、とな」

「もちろん、てんで的外れな地点で名を馳せていたならば、君達の耳に届くのはずっとずっと先のことになるだろう。それはわかっていた」


 だが……と、フリードはそこで一度言葉を切って、俺とマーリンとをじっと見つめた。

 見比べるみたいに、交互に。ゆっくり、優しい眼差しで。


「……君達とまた会うときに、私自身が誇らしいものでなければなんの意味もない。そのこともわかっていたつもりだから」

「であれば、ところを選んで活躍するのは、その志に反するだろう、と。私は思いついたそのとき、その場所から、今の在りかたを始めたのだ」


「……そっか。それについては、すぐに想像出来るな。フリードっぽいと言うか、そうしないことがフリードらしくなさ過ぎると言うか」


 俺達に恥じないように、誇らしい生きかたをしながら再会を果たす。

 そんなこと言われると、恥ずかしさよりプレッシャーのほうが勝るよ。重いよ、俺達に向ける感情が。


 でも……まあ、フリードらしいと言えばらしいのか。

 勘違いから俺のことを尊敬して、その感情に従って王宮を飛び出してくるような奴だもんな。


「それからのことは、君達が見聞きしたことをそのまま繋げた通りだろう。魔獣を倒し、街々を転々として、人々に感謝される」

「よもや、王子として在る私が、人に感謝されるために戦うとはな。我ながら気分のいい日々だったよ」


「あはは、それを気分がいいって思えるの、どっちかって言うと王子様っぽくないけどな」

「庶民に敬われるのは当たり前。どうしていちいち尽くしてまで感謝されなくちゃいけないんだ……とか、そういう風に考えても不思議じゃないのに」


 君の中の王子の像は、なかなか傲慢で歪んだものなのだな。と、フリードは目を丸くしてそう言った。

 まあ……そういう話ばっかりじゃないけどさ。権力者ってのは、いつの世も不遜な悪者として描かれがちだから。


「しかし、ならばこそ今の道を歩んだ甲斐があった。君に失望されてしまったなら、私はきっと道しるべを失ってしまっただろうから」


「いや、だから……」


 重いって。なんで俺に、ただの一般人に、そこまで尊敬の念を向けてるんだ。

 何がそんなにお前の心に響いたんだ。ただ全裸で街中を走り回ってただけだぞ、出会った時の俺は。


 話を聞く前も理解しがたかったフリードの奇妙な価値観は、話を聞いたあとにもやっぱり理解は出来なかった

 でも……変なやつが三人集まって、こうして仲良く笑ってられる。

 この時間には、きっと価値がある。それも、ずっとずっと先にまで残るくらいの価値が。


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