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第百三十七話【再会を祝して……の前に】


「――フリード! やっぱりフリードだ! なんだってこんなとこにいるんだよ!」


「久しいな、デンスケ。その問いは、私からも返させて…………いや。君はどこにいても不思議ではないか」


 あれ。再会一発目でちょっとディスられた? って、そんなちょっとの不満を持つ間もなく、見慣れた笑顔が俺達を照らす。


 一緒にいた時間より別れてからのほうが長くなったにもかかわらず、フリードの一挙手一投足に懐かしさを感じた。

 それだけこの男が、俺にとって大きな存在だったってことだろう。


 そしてそれは、もちろん俺だけの話じゃない。


「……君も、息災そうで何よりだ。また美しくなったな、マーリン」


「フリード……フリードだ……えへへ。あのね、あのね、えっとね、僕ね……」


 あのときのさよならはいきなりだった。でも、この久しぶりはもっといきなりだったから。

 マーリンはまだ混乱しているらしくて、言葉はひとつもまとまっていなかった。


 それでも、一生懸命に伝えようとする。久しぶり。また会えてうれしい。そして、今の自分は、こんなふうになったんだよ、って。


「僕ね、僕はね、魔導士……なんだよ。デンスケがね、ビビアンが、魔術師よりすごくなるって、だからね、デンスケが……」


「ふふ。相変わらずの様子だ。なんとも、まるで故郷に帰ったような心地よさを感じるよ」


 おや。マーリンもちょいディスったね。でも、本人はそんなふうには捉えてない。

 そして多分、俺のこともマーリンのことも、フリードはディスったつもりもないんだろう。割と天然なとこあるから、素でこんな感じなんだ。


「騎士様のお知り合いで……? しかし、貴方と同じく、民を守るもの……とは……」


「言葉の通りに受け取ってくれて構わない。彼らはいつか、並んで旅をした親友ともだ。今の瞬間までは道を離れていたが、しかし志は同じくしていたのだ」


 え、ちょっと。さすがに王子様と同じ志で生きてなんていないんだけど。とは言わない。言えない。言ったらただただ俺の立場が悪くなるだけだから。


 それと……なんだけど。たぶん、そんなに間違ったことを言ってないから。


「……その様子だと、今度はちゃんと話をつけて出てきた……ってことでいいんだよな? いいよな?」

「まさかとは思うけど、流浪の志だけが同じ……とか、そんなボケはないよな?」


「……なるほど。たしかに、その点でも繋がっていた……と、そうしてもよいのかもしれない」

「身寄りもなく流れ歩くものとして、離れていてもしていることは同じだった、と」


 おい。おいおい。おいおいおーい。同じじゃ困るんだけど。同じだとすると、また同じ別れが待ってるんだけど。

 それはちょっともう、マーリンが耐えられないんだけど。


「……ふふ。そんな顔をしないでくれ。冗談だ。無論、話をつけて出てきているとも。君との約束をたがうわけにはいくまい」


「そんな重たい感じの約束だっけな……と言うか、俺からはひと言しか……」


 湖を目指す。

 そのわずかなひと言に、きっとまた会おう。そして、そのときにはちゃんとやるべきことをやってから出て来いよ。と、たしかにそのくらいの気持ちは込めた。

 けどもだよ。まさか、まさかまさかそんな、まじでちゃんと全部伝わってたとは思わないよ。すごいな、フリード。


「……ま、なんでもいいや。あのあと、俺達はちゃんと目的を達成したよ。目当ての人を見つけて、友達にもなった。それだけじゃない」


「どうやら、積もる話はお互いにありそうだ。だが……そうだな。私も君も、きっとひとつの志を同じくしているのだろう。とすれば……先に、せねばならないことがある」


 おっと、そうだ。話し込んでる場合じゃなかった。


 フリードは馬車から降りて俺達の前まで来ると、もう和やかな顔をどこかへしまって、真剣な目つきで泥の塊を睨んだ。

 マーリンが掘りだした、魔獣が掘ったであろう穴をもろともにほじくり返したその柱を。


「まったく、とんでもない術を使ったものだ。こんなものは聞いたことがない。やはり、君は規格外の魔術師のようだ」


「えへへ……えっとね、えっとね。僕はね、魔術師じゃないんだ。えへん」


 こらこら、それだと説明があまりにも足りてなさ過ぎる。それと、いくらなんでもかわい過ぎる。なでなでしちゃうぞ。じゃなくて。


 魔術師だの魔導士だのという話はあとだ。

 今はまず、この柱について――この土の塊の中心をえぐっている、魔獣が掘った穴についての情報を共有しなくちゃ。


「マーリン曰く、この穴は小型の魔獣が掘ったもの……だって。それも、結構前のものだ。とりあえず、つい最近まで何かが住んでた形跡はないよ」


「……そのようだな。しかし……穴を掘る魔獣、か。そのような獣がいる以上、あって然るべきものだとは思っていたが……」


 ひとまず、この穴についてわかっていることを全部伝える。


 これ自体は、今のところは無害なものだ。少なくとも、この穴を作った魔獣は、もうとっくにいなくなっているんだから。

 けれど、いなくなった時期が遠過ぎて、それがどんなものだったのかもわからなかった。手がかりらしいものは見つからないんだ。


 その話を聞いて、フリードは神妙な面持ちで黙りこくってしまった。

 王子として、そして戦士として。さらには、今のこの在りかた――旅をする騎士として、彼は多くの魔獣の知識を持っていたハズ。

 それでも、類するものを知らなかった。その事実は、どんな重石よりも重い。


「それだけじゃない。そもそも、これを調べようと思ったきっかけがある」

「俺達はここへ来るよりも前に、こういう穴を掘る魔獣と戦ってる。それも……小さいやつじゃない」


「っ。大型の魔獣で、地中に姿を隠す知能と器用さを持ち合わせる個体が出た……か。それはまた難儀なものが現れたな」


 ひとまず、この穴に関係する事実は全部伝えられたかな。

 としたら次は、それらをまとめた推理……今の段階で判断出来る、悪い可能性について相談しよう。


「……見たところ、もうこれから得られるものはないようだな。マーリン。この穴を埋めなおすことは出来るだろうか。このままでは、いつか子供が落ちてしまいかねない」


「埋めちゃうの? わかった。ちょっと待っててね」


 相談しよう……と、思ったんだけど。

 フリードはなんだか苦々しい顔のまま、マーリンに穴を埋めるようにお願いした。


 まあ……もう見るところはないよね。

 魔獣についての知識、経験は、マーリンもフリードも十分に持ってる。専門家を呼んだって、そう変わらない結論が出るハズだ。


 じゃあ、今ある答えで十分。危ないからさっさと埋めよう……ってのはわかるんだけどさ。


「デンスケ。積もる話も、嫌な話も、一度場所を移してからにしよう。彼らには手伝いとして出てきて貰っているが、しかし本来の仕事もあるのだ」


「……あっ、そっか。ごめんごめん。そっか……そうかぁ。ちゃんと自分の周りを労われるようになったんだな……」


 前は無断で出てきて、周りの人みんなを心配させたのに。立派になったねぇ。

 フリードは俺の意図にすぐ気づいたみたいで、気恥ずかしそうに、そしてばつの悪そうな顔で眉をひそめた。


「その話はよしてくれ。我ながら情けないところを、幼稚なところを見せてしまったと反省しているんだ」


「あはは、そっか。じゃあ、今度はなんの憂いもなく一緒にいられるんだな」


 保証する。と、フリードはそう言うと、またマーリンへと視線を向けた。

 早く埋めろって催促してる……わけないね。フリードの意思は、めちゃめちゃわかりやすい、たったひとつの感情に引き起こされたものだ。


「じゃあ、みんな離れててね。踊るつむじ風(ダンサ・ウィーリッド)


「……っ! そう……か。かつてははたを織ったその術は、このような規模でも……っ」


 今のマーリンの力量は、そもそも見せていなかった彼女の底は、いったいどれほどのものなのか。

 至極当然の、そして単純明快な欲求は、強い好奇心に起因していたことだろう。


 言霊をきっかけに、割れていた土の柱はまたひとつに戻り、そしてゆっくりと宙を漂い始める。

 その時点で、馬車から覗いていた男達と、馭者の男は、仰天して口を閉じることも出来ないでいた。


 その柱がまた地面にすっぽりと収まって、そしてすぐ、ミキサーみたいに土がかき混ぜられて平らになるさまを見たら、フリードさえも口を開けて呆然としていた。

 そう。フリードさえも。たぶん、この中で一番魔術の知識がある彼でさえ。だから……


「……そ、そんなことも出来たんだね……」


 当然、俺だって開いた口がふさがらなかったよ。

 マーリン……君、本当になんでも出来るね。やってって言ったこと、本当に全部全部……


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