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第百三十一話【英雄を辿れ】

 街を離れて林を迂回して、そうして到着した川のそばには、魔獣が倒された痕跡がいくつもいくつも残されていた。


 そしてそれは、魔獣同士による縄張り争いの結果ではなく、なんと人間がやったのではないか……と、マーリンはそんな推測を立てる。


 魔獣同士の争いなら、そこには必ず肉片が残る。むごたらしくも食い荒らされた残骸が。けれど、この場所にはそれがない。

 どの場所にも、魔獣が食って食われてを繰り返した形跡がないんだ。


 それはつまり、死骸をわざわざどこかへ運んだということ。

 しかも、ただの魔獣の死骸じゃない。マグロみたいに分厚い皮の、人の手のひらほどの鱗を持つ魔獣……推定されるのは、野生の熊よりもさらにひと回り大きなものだろう。


 さらには、その一頭だけではないのだ。痕跡から洗い出される魔獣の姿は。


 川に沿っていくつも刻まれた痕跡は、それぞれが違う魔獣を……けれど、どれもが驚異的な大きさであることだけが見て取れる影を映し出す。

 それらをすべて倒されていて、その死骸はどこにも残されていない……となれば、可能性として残されるのは……


「…………マーリン。その……もしかして、とてもとても大きな、空を飛べる魔獣……って可能性はないかな……?」


 そんなものは、死骸を片付けることにメリットのある人間以外に…………いるかもしれないね、割と。うん……


 いや。わかっている。そんなのは空想で、現実的じゃないんだって。

 超大型飛行魔獣が非現実的だって話じゃなくて、そんなものがいたのなら、目撃情報があって然るべきだろう……って話だ。


 俺達は調査のときに、街の周囲に発生した魔獣の被害についての調査まとめを見せて貰っている。

 もしも、熊さえ掴んで飛び立てるような魔獣がいたら、そこに必ず報告が上がっているだろう。


「……鳥じゃない……よ。空を飛ぶには、身体がすっごく軽くないといけないんだ。だから、もしも鳥みたいな魔獣が運んだんだとしたら……」


 その場合は、翼だけでも街を覆い隠せるくらい大きくないと、あんな魔獣は持ち上がらないだろう……と、マーリンはそう補足してくれた。

 かつては空を飛べた彼女の言葉ともなると、何も言い返せないほどの説得力がある。


「……そっか。そうだよね、マーリンも軽いもんね。もっとご飯食べなよ。お腹空いても我慢しなくていいからね」


「……? お腹は空いてないよ? でも……えへへ。デンスケと一緒に、また果物を取りに行きたいな」


 どうしてそんなかぁわいいことを言うんでござるかぁ、もぉう。

 突然ぶっこまれたあざとい発言に、不安も懸念も興奮も希望も全部吹っ飛んで、俺はマーリンの頭をなでなでなでなでと……そんなことやってる場合じゃないんだってば。


「うん、じゃあ……この先にはきっと、魔獣を倒してくれるとんでもない人がいる……として。会いに行かない理由はないよね。同じく、魔獣を倒してる人間としては」


「そうだね。同じ……だもんね。えへへ……」


 同じだから、友達になってくれるかな? って発想は、マグルやビビアンさんに向けたものとまったく同じなんだろう。

 本当の本当に、マーリンにはひとつの欲しかないんだな。

 とにもかくにも、友達が欲しくてたまらないんだ。それなりに仲のいい人も増えたハズなんだけどな。


 そんなわけで、俺達は急ぎ足で次の街へと向かった。もう遠くに影は見えていたから、そう時間もかからないだろう。


 もしかしたら、頼もしい同業者がいるかもしれない。もしかしたら、友達が増えるかもしれない。

 二者二様の希望を胸に抱いて、俺達は息を切らせながらその街へと飛び込んだ。

 そこは、今朝出発した街よりは小さくて、壁も低くて、けれど十二分に活気あふれた街だった。


「よし、さっそく探そう。今度ばかりは後ろめたいことも何もないからね、バンバン聞き込みしていこう」


 いや、後ろめたいことはずっとないんだけどね。ただちょっと、どうにも明かしようがないバックボーンがあるだけで。


 でも、今度ばかりはそれも無関係。

 探しているのは、もしかしたら救世主かもしれない人物だ。となれば、流れ者の俺達が関心を向けていても不思議には思われない。


 だって、単純に憧れるじゃないか。あんな魔獣を倒してくれるスーパーヒーローにはさ。


 それは俺が最初になる予定だったけど……先駆者がいるならそれはそれで話が早い。

 いろいろと教えて貰いつつ、協力関係を結びたい。一緒にこの国を平和にするんだ、って。


「すみません。この街に、すごく強い人がいたりしませんか? ここへ来る途中、魔獣が倒されてる形跡を見つけて……」


 気が逸ったら行動も早くなるってものだ。

 俺はさっそく露店のおばちゃんに声をかけて、あまりにも素っ頓狂な質問を投げた。我ながらなんて頭の悪い問いかけだろう……


「すごく強い……ああ、はいはい。あんたもアレを見たくちかい」


「っ! ほ、ほんとにいるんですか⁉ まだちょっと半信半疑だったのに⁈」


 うそ、今回やたらと正解に辿り着くのが早過ぎない? もうちょっと焦らすもんだと思ってたんだけど。

 と、そんな奇怪な視点からのボケはよくて。


 そうと知れば、次には居場所を聞きたくなる。それも知ったら、どうしたら会えるかも……


「……でも、残念ながらここの人じゃないんだよ。それこそ、誇張抜きに住民全員で引き留めたんだけどね」

「あんなに強くて頼もしくて、それに男前な騎士様なんて、もう二度とお目にかかれないだろうねぇ」


「この街の人じゃない……引き留めようとした……ってことは、その人って旅をしてるんですか?」


 えっ、嘘。そんなとこまで俺達と同じなの?

 めちゃめちゃシンパシー感じる……けど……俺達が今までやってきたこと、全部二番煎じになってた可能性がある……ってこと?

 え、それは……それはちょっと嫌だな……


「なんか……パイオニア気分だったのに、もう誰か歩いた道ってわかったら途端に……じゃなくて」

「その人、どこ行ったかわかりますか? その、俺達も魔獣を倒しながら旅をしてて。もしかしたら、同じ志の仲間になれるんじゃないかな……なんて、思ってて」


 ていうか名前は。名前聞いてないの。それと見た目。

 男前とだけは聞いてるけど、そういうのって英雄視補正も入るから、もうちょっと客観的な特徴を教えて貰えると……


「さあねえ、どこへ行ったのやら。西へ出て行ったよ、この街からはね。でも、そこからどこへ行ったかはわからない。もう二十日は前のことだから、今から追いつけるかは……」


「二十日……以上前、ですか。ぐ……ぐぐぐ……いや、でも……」


 そんなこと言ったら、ビビアンさんなんていつ残したかわかんない魔力の痕跡を頼りに探し始めたんだ。

 そう思えば、聞き込みも可能な今回の相手は、どれだけ易しい問題かもわからない。


「ありがとうございます、追っかけてみます。えっと……ここから西に進んで、一番近い街ってどのくらいで行けますか。その、出来れば今日中に着けると……」


「そりゃあ残念だったね。ここから西には、しばらくは小さな村すらないよ。丸一日歩けば、ここよりもうちょっと小さい街に着くけど」


 ぐっ……け、結構遠い……っ。となると、今日このまま再出発は無理……か。


 しょうがない。だったらまた明日の朝早くに出発して、その街でもう一度聞き込みをしよう。

 うまく辿れれば、その人が活躍した場所をなぞって追いかけられるかもしれない。


「もしよかったら、今晩泊るとこを紹介してやろうか。それなりにいい部屋だよ。それなりの値段になるように交渉しといてやるからさ」


「えっ、本当ですか⁈ 何から何までありがとうございます! お世話にならせていただきます!」


 任せときな! と、おばちゃんは力こぶを見せつけるしぐさをして、店もそのままにどこかへ行ってしまった。


 不用心だな……なんて思ったけど、もしかしてこれ……俺達、店番を押しつけられたのでは……?

 だって、宿を紹介して貰うにはここで待ってなくちゃいけなくて。で……ここで待ってれば、そりゃあ……周りから見たら……ねえ。


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