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第八話【少年と少女】



 ここは異世界。魔法や超能力、あるいはもっと不思議なものにあふれた別世界である。


 ドロシーの説明をきちんと受け取るのなら――バカバカしいと目を背けるのでなければ、そういうことになる。


 その前提を以って考えてみれば、少しずつだがここまでの出来事を理解していけるような気がした。


 まったく見覚えのない景色、街なのは、本当に見る機会のなかった場所だから。


 言葉が通じたのは…………わからないけど、通じないとする前提である、外国の街だって認識は否定されている。


 林の中にひとつ眼の化け物……魔獣がいたのも、ここがファンタジックな世界だから……で、済ませて良いのだろうか。でも、何か事情があるにせよ、知らないものがあることに不思議はない。


 そして、このドロシーの存在。


「……あの炎は、火炎放射器や何かの道具を使ったんじゃなくて、魔法の力で……」


 魔獣を焼き払ったのは、そのマナとやらを使った魔法……超能力か、どちらでもいいけど、とにかく特別な力。俺の知ってる世界には存在しないもの。


 そんなドロシーが俺を探してここまで追ってきた理由は、その不思議な力でこの世界へわざわざ召喚したから。


 そして、俺のケガが治ったのも……ドロシーがそういう風にしたから……なんて説明されてるから…………


「…………な、なんだかとってもすごい子なんですなぁ、ドロシーたそは……」


 すごい……って言うか、うーむ。口調も変になる奇妙さと言うべきでしょうかな。


 ただ……ただ、だ。まだこんな話を信じ切ってるわけじゃないし、それが事実だとしても拒絶したい理性も残ってる。残ってる……けど。ただ……


 ただ、この状況に心の奥の方はすごくワクワクしていた。


 きっと誰でも似たような反応になる……ハズ。だって、ここはゲームや漫画の世界によく似ている。触れるし、話も出来るけど、そうじゃなくて。


 ここには本当はないハズの不思議が存在する。そういうものがあったらきっとおもしろいだろう、楽しいだろうと想像されたものが、現実としてあるんだ。


「……? デンスケはあんまり魔術に詳しくない……の? その……マナを見る力は、人間には備わってない……んだよね。だから……なのかな……?」


「え? ああ、ふむふむ。さっき言ってたね。魔女だから、マナの力をどうこう……って。なるほど……人間には出来ない……のか」


 なーんだ、がっかり。じゃあ、使えるようになったりはしないん……あれ? でもさっき……


「……俺をここへ召喚したのは……その……魔術儀式ってのは、人間が作った……って」


「えっと……うん。僕もね、ちゃんと知ってるわけじゃないけど。ずっとずっと昔に、人間の魔術師が作った魔術……なんだって」


 魔術師……か。なら、その魔法……あ、いや。魔術……だっけ。それ自体は、この世界なら人間でも使ってるもの……ってことかな?


「魔女はマナの力を使える……人間にはそれが出来ない。じゃあ、人間と魔女との間には、使える魔術の種類に差がある……ってことかな……」


 選べるスキルツリーが違う……的な? じゃあ……ドロシーは体力が低かったり、打たれ弱かったりするのかな。成長タイプに関係なく、こんな小っちゃくて細い女の子がタフなわけないけど。


「……もしかして、デンスケは魔術を知らない……デンスケの世界には、魔術がなかった……の?」


「なかった……って言うより、あるけどこんなのじゃなかった……かな」


 歴史的に見れば、そう呼ばれるものはあった。創作の中になら、いくらでも存在する。でも……ここにあるのはそのどちらでもない。が、正しい答えなんだろう。


「魔術もなかったし、ドロシーみたいに翼の生えた女の子もいなかったよ。でも、人の姿形は基本的には一緒……かな?」


「……魔女も……いない。そうなんだ……」


 俺の言葉に、ドロシーは……少しだけ、しょんぼりしてしまった。


 がっかりさせてしまった……? いや、違う。でも……さっきまでは簡単に見て取れた感情が、今回は……あんまり。落胆でもないけど、やっぱり良い感情でもなさそうで……


「……デンスケは……この世界は、嫌……かな……」


 まだしょんぼりしたまま、ドロシーはこちらを見ずにそう尋ねた。ああ、なるほど。ちょっとわかったかもしれない。


「……嫌じゃない……かな。むしろ、ちょっとわくわくしてる。早速友達も出来たしさ」


「……っ! えへ……」


 俺をここへ呼んだのはドロシーだ。そして、彼女は友達が欲しかった。そのふたつともを打ち明けたんだから……当然、次に考えることはそうなる。


 ドロシーは、俺がこの世界を怖い場所だと、嫌な場所だと思ってやしないか……って、それを危惧してるんだ。


 だってそうだ。この気の弱い女の子が、それを気にしないとは思えない。


 こんな怖い場所に呼んだ張本人だと知れたら、それこそ余計に怖がられるかもしれない。せっかく仲良くなれそうなのに、友達にはなって貰えないかもしれない。彼女はそれを恐れているんだろう。


 ただ、それは杞憂ってものだ。いや……その……いきなり結構嫌な思いしまくったけどさ。でも、好奇心と興奮と、それに……


「……? デンスケ……? えへ……」


「……むふー。ドロシーたそはかわいいですなぁ」


 なんだかんだと打ち解けてみれば、隣に立っているのは銀髪美少女。ううむ、これを喜ばずに、いったいどうして男を名乗れよう。


 さっきまで三歩離れたところにいたドロシーも、さっき背中を撫でたからか、それとも友達って言われたからか、何度も名前を呼ばれたからか、少しだけ近くに寄って来るようになった。それこそ、すぐに頭を撫でられるくらい。


「よーしよし。ドロシーたそ、いい子いい子ですぞー」


「ん……ふふ、えへへ」


 頭を撫でれば、ドロシーはまたもう一歩近付いてくる。もっとして欲しい……ってことなのかはわからない。ただ、敵意を向けられないことがうれしくて仕方がないって顔で。


 リラックスしてるのか、それとも緊張してるのか、どっちかは知らないけど、大きな翼がゆったりと開かれる。その翼も、頭を撫でるたびにゆらゆらと揺れて……


「――ドロシーたそぉおお――ッ! くんかくんかくんかすーはーすーはーすーはー! んんー……萌え! ドロシーたそ萌えーッ!」


 友達のお姉さんが飼ってるインコみたいで、そして別の友達が飼ってるわんこみたいで、めっちゃくちゃにかわいいですぞーっ!


 どこまでなら嫌われないかな……なんて、探る必要もなさそう。と、そう判断してからは早かった。わしゃわしゃと頭を両手で撫で回して、その頭皮のにほひを堪能する。ううーむ……ちょっと獣臭い。


 しかし、それだけやってもドロシーは嫌がるそぶりを見せない。どうやら、頭を撫でるのは友達の証だとでも思っているんだろう。小さな背を目いっぱい伸ばして、小さな手をこっちの頭に届かせようとしている。


 もう何やっても嫌われないなとわかったなら、ブレーキの類は一切必要ありませんな! 俺は……否。拙者は、この好機を絶対に逸するわけには参りませんゆえ!


 だって考えてもみて欲しいんですな! 目の前にいるのは! 大きな翼の生えた銀髪魔女っ娘! それも、特段に美少女! しかも! 最初からなんか好感度マックス!


 こんなもんおいしい思いしなかったら、今も今までもこれからも何を楽しみに生きていくってんですかな!


「萌え! 萌え! ドロシーたん萌え萌えですぞ! 天使と見まごう銀髪魔女っ娘! それも! 僕っ娘! 僕っ娘キターっ‼ 気弱な小動物系亜人僕っ娘ッ‼」


「ん……えへ……? もえ……?」


 もえってなあに? と、ドロシーは撫でられながら、撫でようとしながら、緩み切った顔でそう尋ねた。ううーん、それが萌えなんですなぁ。


「萌えとは、心の昂ぶりのことですな。とても素晴らしいものを見た、かわいい人に出会った、大切なものが出来たときに使う、最大最高の誉め言葉なんですぞ」


 これはきっと未来永劫使われる言葉に違いない。萌えの文化は日本の誇りなんですからな。


 ちょっと早口になった説明を聞いて、ドロシーはしばらく呆然として……おっといけない。ちょっと勢いを付け過ぎましたかな。仲の良い友達も、あんまりそれやると付いていけないと呆れてしまうくらいですから……


「……えへへ。じゃあデンスケも、もえ……だね。えへ……」


「――――ほひゅ――――」


 気付けば、拙者はその小さな身体を抱き締めていた。銀の髪が顔をくすぐるのも構わず、華奢な少女を壊れそうなくらい強くに抱き寄せて……そして……


「――――ほぉおおおお――――っっっ⁉」


 そして……びっくりして飛び退いてしまった。口調が元に戻るくらいびっくりした。えっ……ドロシー……この子…………


「……え……っと……? そういえば、ドロシー……って、何歳なの? いや……その……」


「……えっと、ううんと……デンスケとあんまり変わらないくらい……だと、思う。そういう風にお願いした……から。えへへ……」


 同年代。え、同年代? てっきり三歳くらい下、イメージ女子中学生かギリ小学生くらいだと思ってたけど……えっ?


 そうか、そうかそうか。と、ひとり納得して……そして、まだもう少しスキンシップを取りたげにしているドロシーの頭を撫でて……ちょっとだけ……半歩だけ距離を開ける。


 そう……か。同年代……本当に? 同年代……同…………でっか…………

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