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化物の餌  作者: 黒月水羽
外伝2 星に願いを
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……こういうのは人里離れた場所にあるものじゃないのか

 大鷲の運転でたどり着いたのはなんの変哲もない住宅地の一角だった。

 大鷲が車を止めた家は普通の民家にしては大きく、庭も広い。壁は白一色で統一され、凹凸がなく、長方形の形をした外装は病院とか研究所と言われた方が納得だ。少々浮いたデザインではあるが人ならざる者が住んでいる家だと思う者はいないだろう。


「……こういうのは人里離れた場所にあるものじゃないのか」

「その方が怪しまれるじゃろ。近所で普通にすれ違って挨拶する兄ちゃん、姉ちゃんのこと、疑う人はおらんよ。不審な行動とらない限りは」

「とらないのか?」

「奴らが何年生きとると思うとる? 人に紛れる方法くらい心得ておるよ」


 大鷲の言葉に双月が黙り込んだ。大鷲だって見た目と年齢は一致していない。百をすぎると数えるのがむなしくなってくる。そう前に寂しそうな顔でつぶやいていた。

 そんな大鷲を指導した先輩がクティである。人生経験豊富なことは間違いない。そのクティに面倒見られている存在もアホではないだろう。


「ここらは、ちょっと特殊な場所なんじゃ。あそこに山が見えるじゃろ」


 そういって大鷲が指さした先には確かに山があった。街の中心に山。というか山を取り囲むようにして街が出来たように見える。


「あそこにはこわーい狐の妖怪が眠っておるんじゃ」

「……それ本当の話か?」


 思わず雄介は大鷲を睨みつけた。

 リンや魔女にあってからというもの外レ者には敏感になっている。それは双月も同じ。大鷲は雄介と双月の微妙な心境を分かっているはず。それで冗談をいったのであれば文句の一つや二つは言いたい。

 雄介の非難めいた視線に大鷲はお手上げとばかりに両手をあげた。


「本当の話じゃ。今は眠っておるし、妖怪だったのは昔の話で、今は神様の方が正しいんじゃが、恐ろしい存在というのは変わっておらん。気まぐれなうえ怒りっぽい方での、下手なことをすると平気でこちらを食ろうてきよるから、危険度はレッドじゃ」


 危険度というのは特視が外レ者と関わる時に用いる目安だ。一番安全と言われているのがグリーン。温厚で人に対しては無害。次がイエロー。話は通じるが怒らせると危険。その次がレッド。気性が荒く、いきなり襲いかかられる可能性もあるため、対面するなら気をつけなければいけない。

 特視が主に相手にするのはレッドまでで、その上のホワイトに分類されるリンや魔女は不用意に遭遇したらすぐに逃げろといわれている。そんなホワイトに短期間に二人も遭遇して生き残った雄介は期待の新人なのだという。

 正直うれしくない。


「そんな怖いのが、なんで保護してる奴らの近くにいるんだ」

 双月は山を睨みつける。雄介も山を見上げながら同じことを思った。


「面倒なものは一箇所にまとめておいたが方が楽じゃろ。いろんな場所で勝手に動かれたらただでさえ人手不足のわしらじゃ手が回らん」

「そう頼んで、いうこと聞いてくれるような相手なのか?」

「そこはいろんな交渉があったんじゃ」


 大鷲はそういうとため息をついた。過去にあった交渉のことを思い出したのかもしれない。


「じゃが、あそこにお狐様、ここにシェアハウスがあるおかげで、このあたり、特に商店街の人間は外レ者に対して慣れておっての。こっちとしてはありがたいんじゃ」

「慣れてる……?」


 それはどういう状況だと問いただす前に大鷲は門を開けて、敷地内へと入ってしまった。説明は後回しという態度に雄介は腑に落ちないながらもついていく。双月もしばし山を睨みつけてから雄介の背に続いた。


 大鷲は玄関のインターホンを鳴らす。ピンポーンという雄介の家でも聞き慣れた音が響いて、外レ者も使うんだなと不思議な気持ちになった。ところが双月はインターホンの音にビクリと肩を震わした。不審そうに周囲を見渡す様子からみて初めて聞いたのは間違いない。

 羽澤家は古い家が多いようだから、双月の家にはインターホンがついていなかったのかもしれない。改めて双月が隔離された環境で育ったのだと分かり、複雑な気持ちになった。


 少し待つと奥からスリッパで廊下を走るパタパタという音が近づいてきた。その音も普通の家みたいで微妙な気持ちになる。

 ドアから顔をのぞかせたのは、小柄な女性。年下にも見えるが落ち着いた雰囲気は大人の女性にも見える。年齢がよくわからない人だなと思っていると大鷲が親しげに声をかけた。


「愛子ちゃん、お久しぶりじゃの! クティおるか?」

 愛子と呼ばれた女性は大鷲の言葉には答えず、雄介、次に双月へと視線を向け眉を寄せた。


「クティさん怒りますよ。いきなり新人連れてくるなんて」


 愛子は双月から目を離すと大鷲に文句をいった。その様子に雄介は眉を寄せた。

 愛子が新人と評したのは双月だ。雄介にも視線を向けたがそれは一瞬で、すぐさま興味は双月へと移った。そして双月を見てから大鷲にいったのだ。新人と。

 特視にお世話になっているという意味でいえば雄介も新人だが、愛子の発言には含みを感じる。普通の人間に向けたものではない。おそらく、双月が外レ者であると見抜いたのだ。


「事前に言うたら逃げるじゃろ。今回は逃げられると本当に困るんじゃよ。わしもだし、クティも」

 そういうと大鷲は声を潜めた。


「今回のはリン様絡みじゃ」


 リンという言葉を聞いた瞬間、愛子の空気が変わった。すぐに「お入りください」と大鷲を中に招き入れ慌てた様子で来た道を戻っていく。遠くの方から、「クティさん! 緊急事態です!」と叫んでいる声が聞こえた。


「リン様効果は絶大じゃのお〜」


 のんびりした口調でいいながら大鷲は遠慮なしに家にあがり、脇にある棚から来客用らしいスリッパを取り出した。雄介と双月の分も用意してくれたことにお礼をいいながらも、雄介は愛子が走り去っていった方向から目が離せなかった。


「リン……様って、すごいんですね」

「すごいのか、怖いのか、おぞましいのかは判断に困るが、まあ、外レ者の世界では有名じゃの」


 おぞましいに関しては大鷲の感想ではと思いつつ雄介は靴を隅の方に並べてスリッパに履き替える。双月も雄介の見様見真似で靴を並べていた。そういう姿だけ見ると弟ができたようで微笑ましい。


「勝手に入っていいのか?」


 少々気後れした様子で双月が大鷲を見た。キョロキョロと辺りを見回す様子を見るに、クティという人物におびえているというよりは初めて入る他人の家が落ち着かないようだ。

 図太いのか神経質なのか分からない双月を見て、雄介の緊張は少しだけ緩んだ。


「許可はとったからいいじゃろ。ここで待っておったら、いつになるかわからんしの」


 おじゃましま~す。と一応声をかけて大鷲が中へと入っていく。その後に雄介が続き、最後に双月が警戒した様子でついてきた。


 外装も白かったが、壁も白い。造りも独特で、玄関を開けてからまっすぐ窓も扉もない廊下が続く。大した距離じゃないというのに真っ白な空間を歩いていると心拍数が上がる。

 抜け殻になった兄と対面したあの日を思い出すからだろうか。


 大鷲は雄介の緊張などお構いなしに愛子が入っていったドアを開いた。すぐさま中に入った大鷲に続くと予想外に広い空間が目に飛び込んでくる。


 一階の天井を取り去った吹き抜けの空間。正面には大きな窓があり、手入れされた庭が一望できる。住民の団らんの場となっているらしいそこには大きめのソファにテーブル、大型テレビ。雑誌や服、クッションやぬいぐるみなど、物が雑多に置かれていた。

 下宿の食堂やお世話になった施設を思い出し、雄介は少しだけ懐かしい気持ちになった。同時にあまりにも生活感を感じる空間に戸惑った。


「なんだよ、愛子! まずは説明しろって!」


 部屋の様子に気を取られていると、男の声が耳に入る。声の方に視線を向ければ愛子が必死に壁にあるドアを開けようとしていた。しかし相手の方も必死になっているのか、ドアはかすかに揺れるだけで開きはしない。

 本人たちは必死だろうが、傍で見ていると間抜けな図だ。


 愛子が開けようとしているドアの隣にもドアがある。おそらくは住んでいる存在の自室だ。並んだドアの数だけ外レ者がいるのかと考えて雄介は少し怖くなった。


「早く出てきてください! リンさん案件です!」


 愛子がそう叫ぶと男の抵抗がピタリと止まった。「マジかよ……」というか細い声が聞こえて、雄介は少しだけ相手に同情した。


「クティ、はよ出てきてくれんかー。わしもリン様に怒られとぉないんじゃ」


 大鷲がダメ押しとばかりに声をかけると、少しの間をおいてからドアがゆっくり開いた。中から出てきたのは耳にピアス、首チョーカー。手首にはブレスレット。そしてド派手な迷彩柄の服を着た男だった。

 目がチカチカする装いに雄介は言葉を失う。隣の双月は未知の生命体に遭遇したような顔をしていた。


 男、状況からみてクティはじっと雄介と双月を見つめた。愛子のように双月にだけ注意がいくのかと思っていたが、雄介にも視線が突き刺さる。むしろ、こちらを見る時間が長くなるにつれ、雄介への圧力が増した。

 クティの目は不思議な色味をしている。普通の人間の瞳ではない。それが雄介の心の中まで丸裸にするようにじっくりとそそがれる。居心地の悪さに背中に嫌な汗がつたった。


「くそぉー!! 断れねえやつじゃねえか!! なに、リンさんに気に入られてんだよ! 面倒くせえ!!」


 いきなりクティは頭をかきむしりながら喚いた。なんとも理不尽な言葉だが、駄々っ子のように頭を抱えて騒がれると言い返す前に驚いてしまう。その後もぶつぶつと文句を言い続けるクティに雄介は引いたが大鷲は生暖かい目でクティを見つめた。


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