第三十六話 願ってもない状況ってチャンスって訳じゃない
何が起きたのか、改めて七菜子と一緒にあの女の所へ行き聞いてみた。
あたし達が来ると、聖奈が泣かされていた。この女、戦うと弱いのに、いつも強気だ。
「はぁ、やっと目が醒めたのね。この凶犬みたいなお友達に人生諦めが肝心だと、教えてあげて頂戴」
二人とも何の喧嘩で揉めてたの?
どういうことなのか、さっぱりわからない。
「酷いのよ、この女。元の身体に戻せるのに、実験体にしたいから嫌だって」
やっぱり聖奈は戻せるんだ。
{お前さんとその娘は身体ごと来とるからのぅ}
[ふむ。身体に刻まれた記憶は見せかけだけでは中々修復出来ないようだな]
あぁ、そういうことか。ヘンじいのおかげで、この女なりに聖奈を気づかっているのはわかった。
ただ、どうせ戻せないからついでに実験体にしようという欲が前面に出過ぎてる。
無駄がないと言うか、研究バカってやつだよね。
「なら七菜子は戻せるんだよね?」
「戻す? どうして?」
あれ、七菜子が変だ。
「えっ……あたしがおかしいの?」
七菜子は頭が良いはずなのに、あたしと会話が噛み合わない。
「その女の人はまともじゃないって、言ったでしょ。普通に考えれば、咲夜の隣に立つのは私だけで充分だもの」
あれ、そうなのかな。七菜子ってこんなキャラだったっけ?
(ガハハッ、お主も念願のハーレムじゃな。そやつの熱意はむかしからだろうて)
はぁ? そんなわけないし、逆ハーなんてあたしそんなの願ってないし。
だいたいおじじ達はおじいちゃんだし、あたしの中でうるさいだけだし。
{かぁ~っ、色気の欠片もない女子じゃわい}
クサじい、それセクハラだよ。
{わしらはお前さんの心の中にいるようなもんじゃ。何を言おうが自由なんじゃわい}
ゔぅ゙〜〜ムカつくぅ。おじじ達が絡むと話しがごっちゃになるからオフっとく。
「貴女、逞しいわよね」
この女……自分でやっておいて何を言ってるの?
「蛇神は倒されたから、もうこの辺りは当分荒らされる事はないわ。わたし達は先輩と王妃を懲らしめに戻るけれど、貴女はどうするのかしら」
両親のいる元の世界にも戻れるそうだ。
聖奈はいまの状態で、七菜子は一応元の姿で帰してくれるそうだ。
ただ死んでいるから、七菜子やモブ男達は大っぴらな生活は難しくなるかもしれない。
「あっちで困ったことがあれば、変態商人が手を貸してくれるわ」
事情を知るあたしの両親も、その時は協力してくれるはず。
いまさらだけど、両親がどうやって生計を立てているのか知った気がする。
変態呼ばわりされた金髪美人の女性が、時折来てたのもそういう事かと納得した。
「あっちに帰れば、おじじ達は解放されるんだよね」
特殊能力とかいらない。お父さんもお母さんも現実にいるから呼ばなくても会える。
名残惜しい、寂しいとか以前にずっと一緒とかうるさいもんね。
「外せないわよ」
えっ、聞こえなかった。もう一度言ってよ。
「外せないわよって言ったのよ。その三人が満足したのなら出来るけれど、付いてく気満々だもの。ケルベロスだけに懐いたのね」
へっ……? どういう事なの?
あたし、嫌だよ。おじじ引き連れ現世に戻るなんて。
魔法ないんだよ? お風呂とか着替えとか困るもん。
(ガハハッ、小娘に興味などないと言ったであろう)
{フォッフォッフォッ、そうじゃぞ。お主などより異界を覗き見ることのほうが最優先じゃわい}
[!!]
テンションたかっ!
「それなら簡易の遮断装置をあげるわよ。魔本も持って行くといいわね」
元凶この女なのにありがたく思ってしまう。
「どうするのか、お友達と相談して決めていいわよ。メジェド、アプワート、ヒュエギア。わたし先輩と話しがあるから後は任せるわよ」
そう言って彼女は出ていってしまった。取り分がどうとかブツブツ言っていたけど放っておこう。
あたしは聖奈と七菜子と話し合う事にした。あたしはこれからどうすればいいのか、まったく考えてなかったから。




