第三十五話 七菜子はちゃんと七菜子だった
あたしは気がつくと、ベッドの上に寝かされていた。気を失ったみたい。
(魔力切れじゃよ。そこに置いてある薬を飲むが良い)
この所使い慣れたベッドの脇の小さなテーブルに、液体の入った小さな小瓶が置いてあった。
喉もカラカラだったので、さっそく起き上がって飲んでみる。
おぉっなんか身体に染みるのがわかるよ。
{決着はついとる。動けるのなら外に出てみるとよいぞい}
その言い方、なんか裏がありそうだよね。
部屋を出て、魔本の入り口から外に出た······はずなのに、なんかあの女の部屋に出たし。
部屋の中の簡素なソファにはあの女を刺したネフティスとか言う皇女に似た人がいた。
それと海苔巻みたいにグルグルにされた呪いの子がムグムグ言ってる。
(何でもかんでも実験体とみるのが怖ろしいのぅ)
エラじいの様子から危険はなさそうだけど、皇子に執着していたので、あまり触れたくない。
「咲夜!」
今度こそ間違いない、七菜子だ。
いつも冷めてて頭の良い『委員長』キャラな七菜子が感情をここまであらわにするのは珍しいね。
{うぅむ、おそらく身体のせいじゃろうな}
ん、どういうこと?
[ふむ、あの短時間でこれほど精巧な聖霊人形を性転させて造りだす技量は素晴らしいと言える]
ヘンじいがあの女をベタ褒めする。錬金術の台では、その当人が聖奈と何かもめていた。
まあ、あっちは後だ。それより今は七菜子がどういう状況なのか知りたい。
だって、生きてたのは凄く嬉しいんだよ。だけどさ、あの女を刺していたし。
なんであたしや聖奈と違って、この世界の人に入り込んだのか聞きたいもん。
「私にもよくわからないよ。ただ、そこで聖奈と揉めてる女の人がバスの事故で亡くなったと教えてくれたわ」
モブ男達のおかげで異世界なのではというのはすぐにわかったそう。
皇女ネフティスの人格が残っていて話しを聞けたっていうけど、おじじ達みたいだね。
{かぁ~っ、皇女とはいえそこらの小娘とわしらを一緒にするでないわ}
ハイハイ、おじじ達は凄いですね〜はぁメンド。すぐ対抗意識燃やしてうっさいんだよね。
「咲夜。私何も出来なくてごめんね。聖奈だけじゃなく、信吾にも強く言うべきだったわ」
七菜子は七菜子で責任感が強いからね。でも、あの女から聞いたのならわかるでしょ?
あたし達を裏から操る悪いやつがいたって。それに狙われたのはあたし。
だからあたしは七菜子に謝る。あたしのせいで巻き込んでしまったようなものだから――――――――
――――――――って、あれ?
なんか七菜子の身体が異界の人になったからか固いような気が。
(ガハハッ、そやつは聖霊人形じゃよ)
あぁ、そうか。ネフティスって人を連れ出した時は二つの人格だったからね。
ネフティスの本来の身体は彼女に返して、 七菜子には別の身体を用意したのか。
聖奈と違って時間なかったから複製したみたいだ。
{それは違うと思うぞい}
「咲夜、あの女の人をまともだと思っては駄目だよ」
クサじいはともかく七菜子まで確信を持って言った。
なぜなら七菜子の身体が固いのは、人形の身体だからではなくて、聖奈と同じ雄型だったからだ――――――――。




