第三十三話 なんと言おうとぶっ飛ばす
{ふぉっふぉっふぉっ、これがわしの切り札の召喚術じゃ}
クサじいの自慢がうざい。どうなってるの?
「咲夜、話しは後。構えな。ガウツは聖奈ちゃんを運んでやりな」
やっぱりお母さんだ。構えがぎこちないけど、お父さんもいる。
お母さん······めっちゃ強い!?
あと、格好いい!
{二人にはわしの溜め込んだ魔力と、お前さんの能力が強さのもとになっとる}
信吾を相手に一歩も譲らない。技量では押してるかも。
「ボーっと見てないで、その変なマスク外してあんたも来な」
それでも異界の皇子と合体した信吾は強い。
マスクがあると視界が狭まるので外すと、お母さんが雷の魔法で、あたしに纏わせた。
[ふむ、異界の知識か。逆流放電で塵を弾くのだな]
バチバチしてるけど、くっつかないで弾くんだね。
(もう少しだけ、わしもいける。援護のある内に、アレを倒すのだ)
エラじいがあたしに力をくれる。
「ぐっ、おのれ······」
滑り込むようにお母さんと信吾の間に入り込み、重心のかかる信吾の足へ蹴りを入れた。
急所と違いダメージは低い。
ただ足の運びが鈍った一瞬を、逃すお母さんではない、なんてね。
聖奈を戦車まで運んだお父さんも加わり、信吾が、ダメージを回復出来なくなった。
「ぐっ、貴様ら、私はローディスの皇帝になる男だぞ」
信吾と皇子が交互に意思を出すので、わかりづらい。
あたしもお母さんは聞く耳ない。そしてお父さんも。
お父さんが斧で信吾の着る鎧を壊した。あたしは右頬を蹴り、お母さんは左頬を槍でぶっ叩いた。
{むっ、これは······?}
クサじいが異変に気づいた。
(そやつの魔力が急激に衰えてゆく)
あたしと母さんの挟撃で、大ダメージを受けたせい?
「ま、まっで、俺がわるがった」
回復もかからずヨレヨレのままの信吾が、みっともなく生命乞いをする。
「どうするんだ」
優しいお父さんの目が、緊張している。
もともとこの世界の冒険者だったお母さんと違い、お父さんにはお父さんだったものの記憶があるだけ。
娘を大変な目に合わせた男を、勇気を出して自分がやると、その目が言っていた。
「大丈夫だよ、お父さん。聖奈の仇はあたしが討つ」
躊躇いはない。
あたしは皇子と信吾まとめて潰すつもりで、顔面にパンチを叩き込んだ。
「ぶヘひゃゎ」
魔力と体重を乗せた一撃で信吾は吹き飛び、ぶっ倒れた。
「やるじゃないか」
お母さんに褒められた。そしてちょっとだけ抱きしめてくれた。
まだ魔物だっているから、今は無事を確認出来ただけでいいそうだ。
お父さんも、軽くギュッてしてすぐに警戒体制を取る。
信吾はしぶとく立ち上がる。
{新手じゃ、気をつけよ}
黒づくめの服を着た魔法使いの人みたいな敵が、信吾に近づいた。
(回復させる気か)
エラじいにはもう魔力が、残り少ないみたいで焦っている。
お父さんもお母さんも横から襲って来た魔物を相手して、間に合わない。
あたしがもう一度やる。信吾は回復しても、さっきまでの力がないから。
身構えるあたしの前で、信吾の入り込んだ皇子が血を吐き出した。
壊れた鎧の隙間から、自身の使っていた剣先が生える。
皇子のお付きの黒づくめの魔法使いが近づくあたしを見て、ニヤリと笑う。
その華奢な両手で、信吾にしっかりと剣を突き刺していた。




