第三十一話 アブノーマルなやつ
散々協力していたのに、急に七菜子達の陣営につくならどうぞ、そう言われた。
安っすい挑発。
{捻くれておるがの、あれは死ぬくらいなら降伏して良いから、生きろと言うことじゃな}
また、意味のわからないことを。
[ふむ。魂による蘇生を行う自信があるとみえる]
聖奈が何度も生き返ったようなことが出来るから?
「聖奈、生き返った時はどんな感じだった?」
「何よ急に。意識はしっかりしていたよ。ただ、寒いというか、凄く神経のすり減ったような疲れがあったよ」
魔法の力みたいなものを消耗するのかもしれない。
「ねぇ、聖奈。あたし、散々あんたをぶち殺したけど、七菜子は助けたい――――って言ったら泣く?」
――――やば、泣いた。だって、悪いの聖奈だもん。
{かぁ~っ、喧嘩しとる場合か}
いつも喧嘩してるおじじ達に叱られた。
信吾はぶちのめしたい。ただ、やるなら七菜子を助けてからにしたいので、聖奈に納得させた。
仲直りしたわけじゃないけど、和解はしている。
聖奈に背中を撃ち抜かれるなら、それはもう諦める。信用はしてないけれど、覚悟はしてる。
あの女の言うように、聖奈のお宝で意表を突いた。
バカ信吾外人顔でそんなわけない、何かの間違いだと騒いで動揺していた。
そこに、あたしは弾丸を聖奈乃股の間からぶち込む。
信吾の耐性が破れた所に、リモニカという女性が弓矢を放つ。
信吾を守る魔法の力に亀裂が走る。
「いまよ、聖奈」
下半身丸出しの聖奈を、あたしはぶん投げ信吾にぶつけた。
召喚により能力があがろうとも、中身が、信吾と同化した存在なら動揺は隙に変わる。
モノを隠そうとしたままの聖奈の閉じた両膝が、信吾の頬を打つ。
聖奈の身体の浄化の力によって、信吾はぶっ倒れた。
あたしは七菜子を助けるために、すぐに行動に移す。
おじじ達がうるさい。でも、この手は絶対に離さないよ。
聖奈は複雑な顔だけど、あたしが七菜子と一緒に聖奈の手を握ったので照れていた。
皇子がブチ切れた。速い。
下卑た笑いが似合う身体だよ。もとの皇子も性格最悪だったのかもね。
「聖奈、先に行って!」
あたしは足を止めて迫る信吾に対峙する。七菜子はやらせない。
{いまのお前さんでは勝てぬぞい}
わかってる。でもやらなきゃ。
(ガハハッ、ようやく封印解除じゃ。頭のおかしい小娘、わしの身体の用意忘れるでないぞ)
急にエラじいが偉そうに大きな声を張り上げた。
まるで呼応するかのように、弓矢が絶妙なタイミングで飛んできて、信吾が舌打ちをする。
あたしはその隙を利用して、突撃する。
あれ、なんか速いし、身体の動きが軽い。
(ガハハッ、わしの体術技をお主の身体で再現したのだ。ゴブリンキングが見せていただろう)
デカゴブ? えッ、エラじいは、あのプロレスラーを大きくしたキモゴブだったの。
(違うわ! あやつを見て、お主が学べるように仕組んだのじゃ――――あっ)
{ばかもんが}
おじじ達め、やっぱりなんか企んでいた。
意表を付かれた信吾はあたしの攻撃で膝をつく。
魔法ってちゃんと使うと凄いんだ。こんなに速く強くなるなんて、デカゴブめ、ズルいよね。
(わしの付与効果はあれの十倍はあるぞ)
エラじいが開き直って自慢する。ただ時間制限があるみたい。
皇子と信吾が激しい憎悪と敵意をあたしに向けて来た。
でも、もう遅いもんね。七菜子はあの女が受け入れたから。
なんか聖奈が黒パンツを履いてる。それを見た信吾が許さんと吠える。
「聖奈にパンツ履かせたのを許さないとか、どういう変態よ」
容赦のない、あの女の口撃が信吾に刺さる。
「ち、違っうぐっ」
(いまじゃ)
エラじいにあわせて、あたしはすかさず前蹴りを急所に入れた。
ギニョッとした感触が気持ち悪い。悶絶し転がる信吾を見て少しスッとした。
あたし、なんでこの男に惚れた?
あたしと聖奈の黒歴史になりそうなので、ここで仕留めてなかったことにしよう。
{回復しとおる。注意せよ}
わかってるよ、クサじい。エラじいの強化をもらっても、まだ信吾の方が強い気がした。
だからいけるとこまでやる。リモニカさんから援護もあるからね。
追撃しようと構えた所に、パラパラと砂粒が降って来た。
{まずい、逃げよ!}
砂粒から小石、岩が雨のように落ちて来て、あたし達はまとまって退避行動に移る。
広い空間で天井もないかと思ったのに、屋根が崩れるように天井が割れ、おっきな黒い生き物が墜ちて来た。




