第二十九話 デカゴブはプロレスラーだよね
おじじ達が素直に、ダンジョンの先へと進む道を教えてくれた。
「合格ラインみたいなのがあるんでしょ」
おじじ達の様子から聖奈が、そう言った。
最近の探索の中では一番距離を進んで、魔本の中に戻った。
いちいち隠すの大変なんで、擬態機能でもつければいいと思う。
[ふむ、偽装本を置く手もあるな]
それは囮になるの? 何かありますってわかるの駄目じゃん。
「私も変な苦行受けてるけどさ、咲夜のおじじたちも大変そうだね」
そうなの。あたしも聖奈も、他人からはわかってもらえないの。
あたしの方はうるさいだけで、少しだけ役に立つ事もあるかマシかな。
(なにおぅ、小娘が)
ほら、うるさい。三人のおじじでこれだもん。あの女何人のこうしたおじじ抱えてるんだろう。
{敵の強さから、そろそろ大物が近いはずじゃ。今夜は、しっかり食べて休むとよいぞい}
たまにおじじが優しいのは、まあ、あたしに死なれても困るからなんだろうけど、それだけじゃないのがハッキリして来た。
翌朝、あたしは聖奈に魔晶石と魔銃を追加で渡した。キモゴブから大量に得た魔晶石の欠片は、スマイリー君と呼ばれるぷにょぷにょが成型し直してくれていた。
「一つは護身用よ。近づけない相手に使うのもありよ」
キモゴブの強いやつは、あたしより少し大きかった。
クサじいの話だと、大物はもっと大きく強いそうだ。
「それを倒せば帰れるのかな」
死んだことになっているなら、あたし達には帰る世界はない。
「咲夜は行方不明扱いだよ。私はわからないや」
「その身体は別として、来たときは裸だったんなら、聖奈も行方不明扱いかもね」
「そっか。なら帰れるかもしれないのね」
聖奈はうつ向いた。あまり、戻りたいわけではなさそうだ。
あたしの家と違って、聖奈の所は普通の家庭だもんね。
あなたは可愛いから、将来良いお嫁さんになるわねぇ、なんて言われてたね。
あれはキツイな。あたしなら反抗期全開だったよ。
そういうあたしの家は謎だ。たまに、うさん臭い眼鏡の金髪美人が来ていたけど、お母さんってどこかの姫?
いまさら気にしても仕方ないか。
あたしは聖奈とダンジョンの最奥って所に進む。
「……って、ずっと荒野じゃない」
聖奈が突っ込んだ。あたしもそう思う。
(魔力の壁があるのだよ)
あぁ、ゲームとかにある見えない壁ね。
{ダンジョンにもよるのじゃが、ここは、方向が狂う。入り口と出口が決まっとるのじゃな}
こういう広い所にあるダンジョンにしては珍しいらしいね。
(ぼんやりするでないぞ)
{デカいのがおるわい}
[このダンジョンにゴブリンキングが出るのは極稀なケースだ]
あたし達の帰る道を邪魔するように、キモゴブのボスがいた。
でっかい。象さんくらい大きいんじゃない? でも、普通に歩いてくるんだ。
(ゴブリンメイジの魔法にも気をつけよ)
おとぎ話に出てくる魔法使いのおばあさんみたいな格好のキモゴブが二体、ぶつぶつ何か唱えてる。
「聖奈、魔法が来るよ!」
キモゴブの頭くらいの炎の玉と、氷の玉があたしと聖奈に飛んできた。
あたしは炎を殴りつけるように止めて魔力を奪う。
へへっ、あたしにチャチな魔法は効かないよ。
聖奈は氷の玉をハンマーで打ち返していた。上手い。
氷の玉は砕けながらデカいキモゴブにぶつかる。
痛くはないだろうけど、なんか怒って魔法を使うキモゴブを殴り飛ばしたよ?
「あれ、咲夜より頭悪いんじゃない」
聖奈が、失礼なことを言う。
{うぅむ、ゴブリンキングはズル賢くプライドが高いはずじゃ}
バカなふりをして、誘ってるわけね。
「なら、まずは距離を活かすよ。聖奈は、残りの魔法使いをやって」
二人で魔銃で隠れているキモゴブ達を倒していく。
キモゴブのいるのはヘンじいが教えてくれたからね。
でっかいキモゴブが悔しそうに喚きながら走ってきた。そして跳ぶ。
(避けよ、潰されるぞ)
あたしは聖奈を抱えて飛ぶ。うっわなんかプロレスラーみたい。
「でっかいのに素早くない?」
聖奈のいうとおり、本当にそう思うよ。
{あれは身体能力を高める魔法じゃ}
デカいのに器用なのね。魔物はみんなこうなのかな。
(ぼーっとしとる場合か。小娘が吹き飛んだぞ)
あっ、聖奈ごめん。ハンマーでガードしていたから無事だけど、体格差もあって踏ん張れなかった。
「でも隙が出来たよ」
あたしはデカゴブの硬直した脇腹に強力な肘打ちと、回転しての裏拳を叩き込む。
「グギャゥ!!」
叫び声キモ!
捕まったらおしまいだ。あたしはすぐ距離を取り、魔銃の弾丸を顔面にぶち込む。
再び呻くデカゴブ。聖奈が復帰し、膝をつくデカゴブの頭を野球のスイングのようにハンマーでぶん殴った。
{とどめの追撃じゃ。ゴブリンキングは回復力も高いぞい}
さすがクサじいは魔物の戦いに慣れてる。
聖奈を下がらせ、あたしはデカゴブの開いた口に魔銃の弾丸を撃ち込み、トドメを差した。
魔晶石を回収し、戦いは終わった。
「怪我はない?」
「少し擦り剝いただけ」
(汚れを落として消毒薬をつけるといい)
エラじいのアドバイス通りに聖奈の傷を回復する。
「これで、終わりなんだよね」
息を少しも乱しながら不安そうに聖奈が言う。
う〜ん、聖奈の不安はわかるよ。あたしもこのまま簡単に終わるとは思えないから。




