第二十七話 めざせ、出口
······嫌な夢を見た。聖奈といるせいか、あの女が言っていた事を、思い出したのだ。
あたしは隣のベッドで眠る聖奈を見た。
この子の顔をこうしてじっくり見るのは久しぶりね。
······聖奈って、こんな顔だったかしら。
(お主と違って、身体が違う可能性があるのだろう?)
あぁ、それでか。髪をかきあげても、おでこにあった小さな傷がない。
随分たったし、とっくに消えているかもしれないのもあるし。
{この小娘は、変わっとるのぅ。お前さんの為にだけに生きようと、それだけにしがみついておる}
いつから出来る娘を演じ出したのかな。
あたしがあんまりにも、おバカだから聖奈がしっかりしなくちゃ、駄目だね――――そう言ってからか。
聖奈が焦り出したのは、七菜子の存在だよね。
頭の良くないあたしや、努力で学力を身に付けた聖奈と違って、七菜子はいつも冷めていて思慮深い子だったから。
(······)
{······}
エラじいとクサじいは何か知っているよね。いつもうるさいのに、こういう時はだんまりだもん。
小娘ってバカにするくせに、小娘のような女の人に頭が上がらないおじじとか、悲しいよねぇ。
(ふぅぉぉぅ゙――――――――頭の弱いお主に小バカにされると非常に腹が立つわい)
{くぅぉぉぅ゙――――――――わしもじゃ。煽りが下手すぎて、それがかえってもどかしいのじゃ}
[ふむ、人は自分を基準に立ち位置を決めたがる。わかりやすい例だというわけだな]
(むっ)
{ぐっ}
ヘンじいナイスだよ。たまには凹まさないと、おじじ達はすぐ調子に乗るからね。
結局おじじ達に誤魔化された形なのに、あたしは気づかず、朝ごはんの用意をした。
聖奈の身体はどうやら良く出来た人形らしい。
聖霊なんちゃらとクサじいが言っていたけれど、たぶんクサじいも知らないんだね。
{なにおぅ〜、知っとるわい}
聖奈が起きたので二人でまたごはんを食べる。
疲れは取れたみたいね。疲れる身体とか、逆にリアル過ぎて意味なくないと思うよ。
「咲夜、今日はこのダンジョンの出口を探そうよ」
ごはんを食べて歯を磨いて、少し食休みしているときに聖奈が言った。
出口、そう言えば考えてなかった。
{かぁ〜っ、本当に何も考えておらんのじゃな、お前さんは}
あっ、ムカつく。それどころじゃなかったし、おじじ達が変に誤魔化そうとしたからじゃん。
「咲夜、そのおじじ達って言うのが私にはわからないけど、咲夜の頭が進歩しないと活かせないだけだよ」
うっ、聖奈がまともな事を言った。
(ガハハッ、よく分かってる小娘だ)
{うむ。我々がどんなに有能でも、扱う側の頭の中身はどうしようもないからのう}
[器以上の魔力は扱えぬ、道理であるな]
ここぞとばかり楽しそうなおじじ達。もういいけどさ。ヘンじい、味方じゃなかったの?
あたしと聖奈は外へと出た。聖奈は変なハンマーをそのまま武器にするらしい。
あたしと同じ服装と、怪力になる手袋をした。魔銃は一丁腰に差してある。
回復飴とか、傷薬を大きめの鞄に詰めて肩から掛けていた。
役割分担というか、聖奈はあたしのサポートに徹したいって。
「わかってるの。スポーツは出来ても、咲夜のように反射神経は高くないから」
{魔法の運用問題もあるのじゃよ}
あたしも聖奈も、召喚されたわけじゃない。
呼ばれた場所にいたのは、頭のおかしいと言われる錬生術師と名乗る女だったし。
モブ男達の言ってた、最強チートヒャッハーにはならなかった。
(お喋りはそこまでだ。ゴブリンの集団が来るぞ)
数が多いらしい。
{十五、六はいるのぅ。少し強い個体がいる可能性はある}
こっちには気づいていないけれど、気づかれたら面倒だよね。
「聖奈、キモゴブがいっぱい来る。あんたも最初は魔銃でやっつけて。ゾンビ撃つやつみたいに」
あれはゲーム、これは現実だけど、聖奈ならやれるでしょ。
「コツはあいつらを信吾だと思うこと。一回の連射は六発だからね」
おじじ達に教わったことをそのまま伝える。あれ、あたし先生になれるじゃん。
{かぁ~っ、説明不足で困惑しとるじゃろうが。ロックの外し方と、弾丸の補充の仕組みと、属性切り替え、いまの内に教えておくのじゃぞ}
駄目だった。クサじいが直接言えばいいのにって思う。
うるさいから、あたしに押し付けたあの女の気持ちはわかるけどさ。付け外しにすべにだったよね。
(わしらを装備扱いするでないわ)
最大音量かってくらいで怒られた。心の中なのに、耳が痛い。
おじじ達が遊んでいるうちにキモゴブの集団が、あたし達に気がついた。
あたしと聖奈は魔銃を構えて静かに待った。




