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第二十六話 違和感と悪運

※ この回は七菜子の様子を描いています。

 修学旅行から帰るバスは重苦しい空気が漂っていた。


 咲夜と言う少女は残念美人と言われていたけれど、目立つ存在だった。それだけにクラスメイト達は気分が沈んでいた。


 なにか知っていそうな信吾は苛ついていたため関わりたくなくて、視線を向けることも避けていた。


 そのために、聖奈がいないことを見逃していた。


 七菜子も聖奈はともかく、信吾には構いたくなくて、初めは無言で代わり映えのしない空をただ眺めていた。


 バスが高速道路から降りた頃に、七菜子の頭に違和感がふっとよぎった。


 ――――――――あの時、聖奈と信吾は咲夜のいなくなった現場で、責任のなすりつけ合いをしていた。


 咲夜から聖奈の行動を聞き、いちゃつくわりに、聖奈の目が冷めていたのを見て、七菜子はなるほど······その時は、ただそう思った。


 違和感の正体は信吾だ。不機嫌を装いながら、やたら聖奈とベタつく。


 咲夜が行方不明――――死んだ可能性もあって傍目からは、咲夜と仲の良い二人が不安だからそうしてるように映るかもしれない。


 でも、信吾はそういう奴じゃない。自分勝手で下衆な輩だと、七菜子は咲夜だけでなく、聖奈にも言った事があった。


 二人からは妄想女子とからかわれて本気で受け止めた様子は見られなかった。


 七菜子は自分の判断が間違ってなかったと知る。


 苛々しているのは、演技だとわかった。何故か?


 ――――――――聖奈の姿がないからだ。


 いつからいない?


 おそらく、高速でバスが止まったサービスエリアだ。あそこは広い。置き去りにされたのだ。


 ······それも身ぐるみ剥がされて。


 聖奈に見せかけた偽装は、クラスの中でも一番小柄な聖奈と背丈はそこそこある信吾だから成り立つ。


 七菜子は磨かれた窓に映る前の席の聖奈の姿を見る。フードの頭が妙に四角い。


 解散場所になる学校に到着され、みんなが動き出してからだと誤魔化される。


 七菜子は動くバスの車内で立ち上がると、座席に手をやり信吾達の横に立った。


 バスの車内はざわつく。目立ちたくない信吾は舌打ちをして自分を見下ろす七菜子を見た。


「聖奈をどうしたのよ」


 周りのクラスメイトにも聞こえるように言う。


 会話に加わらなくても興味を持つに決まっている。今ここに聖奈がいないことがわかれば、信吾が聖奈を置き去りにしたとバレる。


 わざわざ隠すような理由も問われ、聖奈が保護されれば、咲夜の事に関しても、さすがに説明せざるを得なくなるだろう。


「あぁ? 俺達に構うんじゃねぇよ」


 当然ながら信吾は追い払おうとする。七菜子が席を立ったままなので、担任から声がかかる。


「聖奈がバスに乗っていないんです。それを信吾が隠しています」


 事実だけを淡々と告げる七菜子に、信吾は再びチッと舌打ちした。


 信吾達の前の座席に座っていたモブ男達がこっそり立ち上がって、聖奈の席を見た――――


 ――――そこには聖奈の姿がなかった。


「案山子みたいだ」


 モブ男達の声でさらにバスの中がざわめく。


 焦る信吾に、冷たく見下ろす七菜子。


 その時、バスは右折しようとゆっくり交差点を曲がろうとした。


 ほんの一瞬だった。七菜子の目の先に車が突進したのが見えて――――――――



 ――――――――七菜子はモブ男達二人と信吾と共に事故に合い、消えた。



「――――――――召喚は成功した。帝都の民、五十万の魂を贄としたのだ。存分に暴れ殺すといい······」


 七菜子は気づけば、異国の――――いや、異界の少女の身体に乗り移っていた。


 ネフティスという名前、ローディス帝国という聞き覚えのない国の第一皇女。


 激しい怒りの心威が七菜子を襲う。唐突に身体を乗っ取られたネフティスが、七菜子に対して激しい怒りと憎悪をぶつけたからだ。


 モブ男達が楽しそうに話していた異世界転生というものなのだろうか。


 思っていたのとは随分と違う······


 モブ男達もいろんなパターンを話していたので、これはこの世界の人物に憑依する形になる。


 聞いた話しと違うのは、生きている人物に入り込んだ事だ。


 七菜子はあくまでも冷静に、騒ぐ心を鎮める事に努めた。


 残念ながら主導権は本人より七菜子にある。


 しかし、七菜子はネフティスという皇女と対話を続け、身体を彼女へと返し自分が出てゆく方法を探すことを約束した。


 そしてもう一つの可能性、消えた咲夜もなにか起きてこの世界にいるのではないか、そう考えて探す協力をネフティスも約束する。


 こうして七菜子はネフティス皇女と高い親和性を保つことになる。


 元々、ネフティス皇女が自国のやり方に反感を持っていたのも大きいのだろう。


 新たに得た力に溺れることなく、悪しきもの邪なるもの達の意図を挫き続ける異色の姫となった。

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