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第二十四話 嫌いだったもの同士

 疲れた。手頃な岩がなくなったので、割と遠くまで探しては、落とし穴に放った。


 あたしと上等キモゴブ、なんでこんな事やってるのか途中で意味が分からなくなった。


 いつもはうるさいおじじ達も、呆れて声も出ないみたい。まあ、静かなわけなくて音量オフが直ったみたいだ。


 落とし穴から這い上がってきて、ゼェゼェと呼吸の荒い上等キモゴブ。一人でウフフって微笑っていて気持ち悪い。


 でも疲れ切って動けないようなで、上等キモゴブにあたしは回復飴を手渡しであげた。


{お前さんも回復しておくのじゃ}


 あっ、おじじが勝手に音量上げたら意味ないじゃん。


 クサじいに言われるまでもなく、あたしも疲れていたので一つ頬張る。


 この飴、味も程よく甘い。


 外側の飴が溶けると、中のトロみのある液状のものが喉を滑らかな心地よさで潤してくれるのよね。


[喉を潰された時には、割って飲ませるようだな]


 ヘンじいがあたしにわかる使い方を教えてくれた。材料は蜂蜜とかみたいだけど、それはいいや。


 上等キモゴブも、気に入ったみたいで良かったわね。


「よくない。上等キモゴブって何よ」


 元気になったと思ったらキレ出した。やっぱり敵ね。


「ち、違うの。キレてないってば」


 何度めになるのか、そのポーズ。


(回復飴をあげたのじゃ、話しくらい聞く気なのだろうて)


 エラじいがまた偉そうに、あたしの気持ちを読む。


「キモゴブがゴブリンなのはわかったけどさ、上等って何よ」


「殺しても死なないし、身なりいいから主を失ったゴブリンだって、おじじが言うから」


{可能性の話しじゃったろうに}


 クサじいが拗ねた。目が血走った赤いゴブリンはマズいぞ、って呟いたのおじじ達だよ。しらばっくれても呟いたのは聞こえたよ。


「ゴブリンと思われていたのは嫌だけど、咲夜が私を躊躇いなく殺すと言われていたから」


 殺しても死なないのはあの(ひと)のせいだった。


「そりゃ、聖奈に会ったらぶち殺すつもりだったけどさ」


 言い訳はしないよ。本当にそう思ったから、撃ち殺したはずだもん。


 ただ、やたらしぶとくてしつこくて、気持ち悪かったから、あとの方は、本当にキモゴブかと思っていたよ。


「それは仕方ないよ。そう訓練されていたみたいだし」


「えっ?」


[諸島王国には、冒険者の初心者向けのダンジョン島があると聞いた事があるな]


 待って、ダンジョン島って、なに?


(ガハハッ、小娘はアホウじゃから説明省かれたのだな)


{ゴブリンと荒野の狼(バンディウルフ)が基本のダンジョンじゃな。最初に魔本の中で襲われたあたりが入り口じゃ}


 おじじ達は知っていたみたいだ。あたふたするフリをして、奥へ向かわせていたみたい。


「私の謝罪、受け入れてくれたとみて良いのかな」


 あ〜〜っ、もぅ、おじじ達がごちゃごちゃうるさい間に、話しが勝手に進んでたよ。


 どうもこのキモゴブ······本当に聖奈だったみたい。


 あたしが消えた後に、信吾に犯され殺されて、酷い目に何度も合ったみたい。


「それはさ、私の自業自得。咲夜に拒否られても、殺されても発端はそもそも私のせいだから」


 聖奈が、聖奈っぽくない。


 以前のままなら死なないとしても何度も殺すことないとか喚くもの。


 それに、信吾についてもあたしがあいつを好きになるから悪いんだと騒いだと思う。


「あたしのせいで、聖奈の頭がおかしくなったのかな」


「なんでよ。心を入れ替えただけよ」


 ······調子狂うよね。


 なんというか、許すも何もあたしは聖奈といまさら仲良く楽しくしたいわけじゃないもん。


 聖奈が大変な目にあったのは同情するよ。自業自得だと言うけどさ、可哀相だと思うし、信吾にはムカつく。


 でもさ、あたしは聖奈が嫌いだって気づいて、気持ちをもう切り離しちゃった。


 たぶん他人行儀でなら、仲良くやれると思うよ。でも、本当に昔のようにはいかない気がするんだよね。


「それでいいよ。私だって、咲夜の事が嫌いだったのに仲良くしようとして失敗したし」


 そうだよね。凄い嫌いなわけじゃない。


 たださ、ご近所だからって、比較されたり一緒にいるの強要されたりがお互い嫌だった。


 七菜子と違って、後からだと仲良くなんてならなかったと思うけどね。


(ガハハッ、たかだか十年で何十年先の関係を断定することもあるまい)


{うむ。腹を見せ合ってからが本当の付き合いと言うものじゃ}


 我慢して黙っていたおじじ達が騒ぎ出した。おじじだけに、お説教くさくてうざい。


「いまのあんたは割と好きよ。むしろ、なりふり構わない必死さがウケると思うよ」


 無理して背伸びするよりいい。あたしは賢いふりが苦手だし、聖奈は可愛らしいふりをやめた方が可愛いと思う。


「本当に、咲夜って······いいや。なんでもない」


 変なやつ。


[そろそろ反対側の出口がある。抜けたければ覚悟がいるだろう]


 うわっ、ヘンじいがまともな事を言う回数増えたよ。


 ただ嫌な情報っぽいけど。


{ひとまず道具の補充がてら休むがよいぞい}


 クサじいの言う通りね。


「休憩しよう。聖奈、あんた臭すぎだし」


「はぁ? 落とし穴に落として、私をじわじわ殺ろうとしたの誰よ」


「えっ、あれゲームみたいなもんじゃん」


「バカじゃないの? 命懸けのゲームとかさ。だいたい話せるのに話しを聞かないし」


「キモゴブだと思ってたから仕方ないじゃない」


「なんであんなのと間違えるのよ。頭だけじゃなく目まで腐ってない?」


 喧嘩になった。この世界に来る前も喧嘩ばかりだったけど、言いたい事を言えるからスッキリする。


{きりがないのぅ}


(ぶつかれ。殴り合えばわかるものだ)


 おじじ達め、ニヤニヤしてムカつく。あたしはうるさいおじじ達と聖奈を連れて魔本を隠せる場所を探す。


 この辺りの小岩は落とし穴に使っちゃったので、もっと先に進んだ。


 手頃な場所を見つけて魔本を開き、隠す。聖奈はあの(ひと)から聞いているのか静かだ。


{疲れ切って半分意識を失っとるぞ}


 まぢか。あたしは急いで聖奈を抱えて魔本の中に入った。

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