第二十一話 カウンターパンチは見事な右ストレート
咲夜の側に行けたのがわかって、私はガックリと膝をついた。
再会した咲夜はめちゃくちゃ格好良かった。
そして私が生きててくれて良かったと、感涙し抱きつこうとした時、ゴッっと鈍く皮膚と皮膚の当たる音と共に、思いっきりグーで殴られた。
ボクシングの綺麗なカウンターをもらったように、脳が揺さぶられてダウンする私。
こういう時、漫画のようにぶっ飛ばされた方が以外にダメージ少ないのを身体で知った······。
「このキモゴブ、聖奈にやたらそっくりね」
こいつ······私と知って殴ったんじゃないのか。
感動の感涙より、痛みで涙が出る。
「何を言ってるの咲夜。頭が悪いのは知っていたけれど、目まで悪くなったの?」
しばらく見ないうちに、残念度を磨いたのかしら。私は思わず毒づいてしまう。
「えっ、喋った。なんでこいつあたしの名前知っているの。キモゴブに頭が悪い呼ばわりされるとかムカつくし」
咲夜が腰から銃のようなものを抜いた。異世界なのに拳銃?
それで私を始末する気だ。マジで?
「待って、私は聖奈よ、ほらキモゴブとかいうのじゃないし、人よ人間よ」
どうも咲夜はブツブツと、見えない何かと喋ったり怒ったりしてる。
頭が悪いというか、おかしくなってるみたい。危ない薬でも飲んだの?
死んだショックなのかな。妄想の中でも立場ようなのがあって揉めてる。
······なのに、咲夜の方がキレて、キモゴブなんだから退治すると騒ぎ出した。
まずい、咲夜は考えるより先に行動に移す。ぶちキレた瞬間に私に向けてあの銃を撃つに決まっている。
――――――――こんな形で死ねない。
私は膝をついて平伏し、額を地面に擦り付けるように土下座した。
咲夜は頭が悪い······
······でもね、反射で反応するから意表を付くと思考が切り替わるの。
そして基本的にお人好しで、甘っちょろいヤツだと、私は知ってるのだ。
こんな時でも、あんたの心優しさにつけ込んで、助かろうとしている最低な私でごめんなさい。
「キモゴブって、綺麗に土下座するものなの?」
また誰かと話しているみたいだ。揉めたと思ったのに、手に持つ拳銃が火を噴いた。
バンッ――――――――‼
躊躇うことなく土下座する脳天に魔法の弾丸が撃ち込まれ、私は意識を手放した――――――――
――――――――気がつくと、またあの変な女の部屋にいた。頭のおかしな錬生術師。
死んでも、私の魂を握ってるというこの変な女のおかげで戻れる。
きっちり脳天と、心臓にトドメをさされた。
親友だった咲夜に銃口を向けられて、撃たれた恐怖と痛みは魂に刻まれる。
正直、何を言ってるのかわからないけれど、変な女がヤバいのはわかる。
······咲夜に許してもらうのは無理かもしれない。心が折れそう。
「もう戻って来たのね。望み通りあの娘に会えたんでしょう?」
はじめは本当に身一つで荒野に放り出しておいて酷い言い草だ。でも、生きてあいつに会えただけマシだ。
「······てか、咲夜躊躇いなく私に弾丸撃ち込んだんだけど!? あと、話しは聞こえてるのに、頭が前より酷く悪くなってない?」
「だから言ったじゃない。躊躇うくらいなら、始末してから考えるように教えてあるって」
この女やべぇ······絶対こいつが原因だ。頭がどうかしてる。
それとも異世界って戦乱時代みたいなものだからなのかな。
咲夜に指南役だかなんかを取り憑かせ、この世界で生き抜くために戦えるよう指導しているんだとか。
やっぱりそうだ。なんでそんなハードな世界にあの娘が······。
ブツブツ独りごとを呟いていたのはあの娘の精神状態も、見た目より危険なんだ。
頭がおかしいのは目の前の女で、きっと咲夜は咲夜のままだ。
私はそう自分を慰めた。
嫌がらせしておいて、仲良しに戻りたいなんて、考えの甘さを咲夜にも打ち砕かれた。
いまの咲夜は、私という重荷がなくなって自己判断が早い。
素直で真っすぐで、不器用で、少し残念なくらい単純。
教わった事を懸命に覚えようとしている最中で、他の事が目に入っていない。
何より私は被害者面していた時に、咲夜と同じ気持ちのつもりだったからわかる。
なんで私がこんな所に放り出されないといけないのか、悩んだから。
私は速攻でやられたけど。
私の方がもっと酷い目にあってると、泣きついて咲夜に縋りたかった。
でも······咲夜からすれば私自身の不幸など、自業自得で無関係だ。
むしろ迷惑を被ったのは彼女自身。私がどの面下げてやって来たのと思ったかもしれない。
私がいま酷い目に合っているのは、私自身の行いが招いた結果だ。
······あと、目の前の頭のおかしな女のせい。何か変な女が冷めた目で見てきた。
「あの娘は、本当に貴女の顔が気持ち悪かったんだと思うわよ」
それは言わないでよ。もっとこう、感動的な再会になると思ったんだから。
あのキモいゴブリンとかいう奴らと同じ扱いされると思わなかった。
「それで、まだ行くのかしら?」
身体は治っても心は摩耗している。
「お願いします」
それでも咲夜に認識してもらいたい、そう思って頼んだ。
あれ、仮にも親友じゃなかったっけ?
次話から咲夜の主観に戻ります。




