第二話 三人集まってもうるさいだけじゃないの
――――あたしは死んだ······の?
気がつくと薄暗い部屋だった。石畳がひんやりと冷たい。物置なのかな。
「······死んでないわよ。正確には死ぬかもしれない状態ね」
不意に声がかけられた。あたしと同じくらいの年頃の女の子が、怪しい台の前で何かを作っていた。
「これ知ってる。魔女の道具だよね」
ゲームなんかに出てくる魔法の壺みたいなやつだ。なんでそんなところにあたしはいるんだろう。なんか変に匂うし最悪。
「木々が守ってくれたのね。貴女の場合は頭から落ちたから、あのままだとそれでも死んでたかもね。ちなみに貴女を殺すきっかけを作ったやつは、良い笑顔でニヤニヤ高笑いしてるわよ」
何、この人。やっぱり夢じゃなかった。だってやっぱりここ臭いし。なにを作ったらこんな酷い匂いになるの。
それに、死んでないのはなんで?
あと、やっぱりあいつは笑ってるんだ······。
「匂いは貴女の身体の成分よ。スマイリー君が回収するからじっとさしてなさいな。だいたい貴女の血の繋がらないお姉さんが、守りの加護をかけていたんじゃないの?」
この目つきの少し怖い女が面倒そうに言う。親戚じゃないよね。あと臭いのあたしだったの⁉
「ちょっと待って、あたしには兄弟姉妹はいないはずだよ」
なにを言ってるんだろう、この人。目つきがなんか似てて嫌だな。でも目つき、あたしも人の事言えないか。
「わたしも詳しくは知らないわよ。だいたい姉って、実年齢ん~十は離れてるおばさん魔女だもの······」
――――――――ゴワンッ!
あたしが聞いていても悪口だとわかった。「ぶへっ」って呻き声を目の前の女の子から発された。
急に彼女の頭に金タライが落ちて来たように見えたんだけど、どうやって出したの?
タライ床に落ちる前に、フッと消えた。かなり痛そうで、しばらく無言になる。
「あれ、っていうか、なんで、外人と会話通じてるの?」
よく見るとあたしと同じくらい背も高くて綺麗な女の人だった。
「外人? あぁ、異界人ってことかしら。元々こっちの世界の言葉がそっちに行って変わっていっただけよ。とくに貴女の国は原語を残してるのね」
同じ言葉を使うだけで何だか安心してしまう。悪い人かもしれないのに。
「あ、あなたは神様かなんかなん? モブ男子達が話してるの聞いたことあるよ。これって転生っていうんでしょ」
モブ男子達がコソコソ話していたのは、この事だったのか。もっと聞いておけば良かったよ。
「似たようなものよ。そもそも貴女のお母さんがこっちの世界の方なのでしょうに」
「えっ、嘘でしょ? たしかに金髪で娘のあたしから見てもキレイな人だけど、そんな話しを聞いたことないよ」
幼かった頃に、一度聞いたことがあった気がする。あたしが馬鹿で、理解出来てなかっただけだ。
「本当に頭は弱そうね。いいわ、特別に招霊君の意識を覚醒させて話せるようにしてあげるわ」
なんか変なことを言い出したよ、この人。先に自分のことを聞いちゃったから、なにをしてるのか聞きそびれたよ。
あと、あたしがバカって事は、すぐにバレた。
「残念ながらわたしは愚かな神ではないわよ。おば······魔女さんに頼まれたから、代役で魂を導いているだけ。ろくでもないのが来ると大変なのよ」
やっぱり死んだの、あたし?
えっと、じゃあ、この女性は神様じゃないなら、何なわけ?
「貴女の国には、三人寄れば文殊の知恵とかいう言葉があるのでしょう。ケルベロスにどこまで知恵があるのか、わたしには理解出来ないけれど、おじいちゃん三人くらい詰めておけばいいわよね」
勝手に話しをどんどん進めないで!
三人が集まるとなんちゃらは、馬鹿なあたしでも知ってるよ。でもケルベロス? ······って犬でしょ?
「待って、あなたが何を言ってるのかわからない。でも凄く不吉な気配がするんだけど」
何なのこの人、話しを聞く気ないでしょ。
異界って言っていたし、何を考えているのかわからない人だし。
犬で例えるって、可愛い意味じゃないのはあたしにだってわかる。
あぁ、なんか胸が痛い。落とされたときの衝撃が今頃来たのかな。なんだかわからないけど、耳鳴りまでする。
なんか、ヌメヌメしたのがまとわり付いていたけど、匂うのって本当にあたしだったのか。ちょっとショック。
「成功よ。これでうるさい術師も引き取ってもらえたわね。あとは偉そうだけど武芸に長けたおじじと、召喚士のおじいがいたから、生きてゆくには充分よね」
この人、なんか一人いらないものをあたしに押し付けなかった?
「あれ、なんか身体がおかしい。ふわふわするような」
聞こうとすると、もう別の事をはじめてるから、何がなんだかわからないよ。
「魔力の流れを体感したようね。この魔本を、貴女の専用のものとして登録してあげるわ。使い方は三人から聞いてね。魔女さん、これでいいなら門を開いて下さるかしら。諸島王国なら冒険者も来ないでしょ」
あたしはまだ聞きたいことがあるのに、あっさりと放り出された。
服を着替えさせるの忘れたけど、更衣室あるし、まぁいいかと、最後に聞こえた。




