第十九話 最悪な男と、転生女子高生
※ 中盤あたりに、内容はなるべくぼやかしていますが鬱、胸糞展開があります。ご注意ください。
咲夜が行方不明となって、修学旅行は残り一日あったが中止になって、聖奈や七菜子達は帰る事になった。
咲夜のいたクラスの、帰りの観光バスの中の空気は当然重い。
バスガイドの職員も自重して、必要な案内だけを機械的に行っていた。
陰悪なのは咲夜の落ちた原因ではないかと言われる、聖奈と信吾の二人だ。
行きはうっとおしい程のバカップルぶりだった。
聖奈は窓際に座り、制服の上からフーディーを来て、信吾と顔を合わせないようにフードを深く被っていた。
信吾は不愉快そうな怒りを発して、とにかく不機嫌そうだった。
誰も触れたがらない。七菜子は隣に座るはずの空席を一人悲しそうに見つめていた。
バスは途中、トイレ休憩の為にサービスエリアへと入ってゆく。
修学旅行シーズンのためか、聖奈や七菜子達の学校以外にもバスが多くて学生だらけだった。
聖奈は信吾に話しがあると呼ばれ、サービスエリアの利用客のまったくいない建物の裏手まで歩いた。
「話しって、今更なによ」
聖奈は自分を殺そうとし、咲夜を死なせた、この男が憎かった。
後ろに座る七菜子から、時折呪詛のような呟きと、怒りの眼差しを向けられている気がして辛い。
きっかけを作ってしまった負い目もあって、自分も責められてるのがわかる。
信吾は逆に無頓着で咲夜を死なせる羽目になったのは自分が悪いなどと考えてもいなかったようだ。
何故なら不意に何かで首を絞められ、抵抗出来ないように身体が揺さぶられた。
「ぐっご······」
信吾の結論は、口封じだ。咲夜に関しての真相を知るのは聖奈と信吾だけ。
七菜子もモブ男達も見てはいない。死体がなければ事件にもならず、警察も観光客へわざわざ情報を募りもしなそうだった。
苦しさに呻きながら、咲夜に泣いて謝った。彼女ならきっとこんな時は助けてくれただろう――――――――
――――――――気がつくと冷たい石の床に横たわっていた。
非常に臭い気がする。妙に首や下腹部がうずく。
「予定外の招かざる、呪いの娘と言った感じよね。殺され方に引くわ」
変な女が何か言ってる。綺麗。目が咲夜に似ていた。
「身ぐるみ剥がされて、意識の落ちた所を犯され殺されたみたいね。鬼畜より酷いわアレ」
ぼんやりした頭でも痛む部分から、言われた意味はわかった。素っ裸なのはそのせいだった。
悔しいし、聖奈は自分が殺されて死んだ事を理解した。
奇妙な生き物が這い回り身体の汚れを浄化して痛みまで和らげてくれていた。
「自業自得だから報いは仕方ないにしても、アレが野放しでいるのが許せないのはわかるわよ」
変な女は聖奈が亡くなった後、どうなったのかを教えてくれた。
信吾は聖奈から荷物を全て奪い、持って来たリュックに詰めた。そして雑に植樹された植え込みに聖奈を投げ込む。
聖奈の身体がそのままならば、修学旅行中の学生が襲われ捨てられる胸糞な事件としていずれ捜索が行われるだろう。
信吾は早々にバスに戻り、リュックや荷物をうまくカムフラージュして、聖奈っぽく作り、仲直りしたようにそれを抱いていた。
わざと不機嫌さは出したまま、話しかけられないようにするのを忘れない。
「無駄なんだけどね。地元に戻って学校付近で解散前に、曲がるバスの横っ腹に信号無視の車が突っ込んだのよ」
信吾に信号無視って、おかしそうに笑う。この人外国の人じゃないんだ。あと、笑えない状況なのなの、頭がおかしいの?
「まあ、そんなわけで貴女と別にその男や七菜子という娘にモブ君達が死んだわ」
嘘でしょ。あいつが死ぬのは当然として、七菜子達まで······。
「悪しきものが悔しがってそうね。貴女も咲夜もそこで一緒に死ぬはずだったのに、計画がズレたから」
私と信吾が心理的に争い出したせいで、悪巧みを謀ったものの思惑が崩れたらしい。
本来の予定では、男子は信吾とモブの二人、女子は咲夜、私、七菜子の合計六人が不慮の事故で転移予定だったそうだ。
「貴女も異世界転移とか詳しいのでしょう」
モブ男達が楽しそうに話していたのは覚えてる。私は悪役令嬢だと陰口言っていたからね。
「悪役令嬢なら良かったわね。勇者とか聖女として、魔王様と戦わされずに済むもの」
夢でなければ、嘘を言っているようにも思えない。
何故なら信吾に締められた首の痛みや、乱暴にされた下腹部の痛み、死んだ時の汚物の汚れまで綺麗になくなっていたからだ。
「うわぁっ邪悪な精の成分で、面白い招霊君が来たわ」
変な女はそう言うと何かを取り出した。あれは······私の魂!
見てわかるものじゃないのに、わかった。てか、なんで死なないの?
「魔女さんから咲夜をいじめた分、貴女をきっちり苦悩させるように言われてるのよ。嫌よね、おばさんの妄執はさ······うごっ?!」
なんか、凄い速さで変な女の頭に物体が落ちて、彼女はぶっ倒れた。
同時に私の身体が透けて消え始めた――――――――
――――――――これは転移······?
気がつくと、土と岩だらけのような少し荒れた地面にいた。
······丸腰の素っ裸のままで!
えっ、本当にこの状態でなんとかなるの??
あと二話ほど聖奈の視点で話しが進みます。