第十三話 さあ、殴りに行こうか
朝ご飯を食べたあと歯を磨き、外へ出るための服装を考える事にした。
制服は寝室に掛けておいた。だって、あれはあたしがただの女子高生唯一の証明書みたいなものだから。
普段着はおじじ達の方が知っていたので、別にしてわかるようにした。
下着以外もサーファーや競泳の人が着そうな水着みたいなものや、蛇の皮みたいなキモい服まであった。
{その皮は希少な魔物の素材じゃな。見た目は好みによるが、普段着でも安心は安心じゃのぅ}
滑々していて軽く柔らかいのに、刃を通さないんだって。
(この地は冷えるようじゃ。下着の上にその竜の鱗衣を着て、さらに重ねて着ればよかろう)
エロじいがエラじいに戻って、良い着方を教えてくれた。人がいるような町ってなさそうだけど。
(あとは武器だな。拳銃嚢には拳銃をしまっておくとして、近接用のものを持つのがよかろう)
重いので、剣や槍は止めておいた。持てる重さもあるけどさ、体力が持たないかもしれないじゃん。
{ならばその拳闘用の強殴打拳具を嵌めると良いぞい}
クサじいが得意気に言うので、黒皮っぽい手袋みたいなものを着けてみた。
あれ、なんか力が湧くみたいだよ。
[ふむ。浄化により封印解除が働き、本来の力を取り戻したのか]
待って、何それ。あたし、キモゴブみたいに悪い魔物かなんかだったの?
鏡を見た限りは普通にあたしだったはずなのに。
(おそらくじゃが、お主の世界ではさほど力が必要なかったのだろうな)
なんか、おじじ達が隠してる気がする。
だいたいさ、いつの間にか戦う流れになっているけど、嫌なものは嫌なのよ。
{かぁ〜面倒なおなごじゃのう。勘だけ良いのも考えものじゃな}
あっ、クサじいが開き直った。絶対にあの頭のおかしい女の指示だよ。
[違うな。これは双炎の魔女がそなたに選択の機会と、自らの手で運命を変える機会をくれたのだよ]
ヘンじいが、難しいことを言い出した。どういう事か訳してほしい。
(わかりやすく言うなら、隠さず誤魔化さず躊躇わず、ぶつかれと言うことだな)
あたしの頭に、この世界にやって来る前の情景が浮かぶ。もっと早く聖奈とぶつかっていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。
{ふぉふぉふぉっ、お主の事じゃから、両親のためにいい子ちゃんぶって我慢していたんじゃないかぇ}
確かに大好きなお父さんとお母さんに、迷惑をかけたくなかった。
でも、違うな。あたしはただ、嫌われたくなかっただけだ。
ああ、そうか。あたしが、勝手に聖奈がいないと駄目だって思って、あの娘に押し付けちゃったんだ······。
(答えが出たのなら殴りにいくぞ)
うぅ~、エラじいが妙に張り切ってうざい。うるさいしうざいしエロいし最悪おじじだよ。
答えが出たのと、キモゴブ殴りに行くのと何の関係あるのっての。
なんかコッソリあたしに教えようとして、おじじ達がみんな下手くそ役者だから失敗してる。
今時、もやもやの解決がぶん殴るって、炎上ものよ。
あっ······だから異世界なのか!?
何がしたいのか良くわからないままだけど、何かさせたいのはようやく理解出来たよ。