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第十一話 本当の親友になるはずだったのは誰か

「咲夜を見なかった?」


 七菜子が青ざめた顔で、私を見た。あぁ、これは知っている顔だ。


 私と咲夜のやり取りではなくて、咲夜が落ちたんじゃないかってほうだ。


「こいつが咲夜ちゃんを、フザけたふりして落としたんだよ」


 信吾はその事で、私を問い詰めている風を装った。押したのは信吾で、咲夜じゃなくて、私。


 落ちて死ぬのは私のはずだった。この悪魔のような男は、きっと七菜子やモブ男達にも手を回している。


 同じ事をあいつに······咲夜にやっていたから分かる。


 モブ男達には怪訝な表情をされた。マジかよこいつとボソボソ喋る声が聞こえる。


「うちの生徒らしき制服を着た女の子が、頭から落ちたそうなの」


 七菜子は何か言葉を濁して言っている。七菜子だけは私と咲夜の共通の友人で、私の吹聴に苦言を呈していた一人だ。


 咲夜は友達が少ない。うわべだけの親友(わたし)のせいで、妨害され嫌気されていたのが正しい。


 七菜子はそうなる前の数少ない咲夜の味方。だから信吾がああ言った瞬間、信じると思った。


 でも出てきた言葉は、私を責める言葉ではなく、咲夜の行方だった。


 そして、信吾が口を()()()()()()のをあえて聞き流したのだ。


 何故?


 清水寺の舞台にいた私達にはわからない。女生徒の落ちる姿を目撃した人は多い。


 頭から落ちたため受け身を取れず、即死に近い状態のはずだった。


「何か落ちた後はあったらしいよ。ただその後、女生徒の身体が見当たらないらしいの」


 墜落現場には、咲夜の荷物だけが残されていたそうだ。


 生死はどうあれ、身体がなければ警察も動きようがない。


 例え荷物があったとしても、消えた女生徒が咲夜かどうかも不明。


 七菜子は咲夜の行方を探していただけだったのに、思わぬ話しを信吾が口にしたので、疑問を持ったようだった。


 本当に咲夜の親友になるとしたのなら、この七菜子こそ相応しかったに違いない。


 真面目で思慮深いけれど面倒臭い女、それが七菜子だ。豪気で単純な咲夜とは正反対の性格だからか、気が合うようだった。


「咲夜がいないか聞いただけなのに、まるで貴方たちが突き落としたみたいな言い方ね」


 七菜子の追及に、信吾は神妙な顔つきだったけれど、目が笑っていなかった。


 余計な詮索するんじゃねぇって言ってるのが、私には丸わかりだった。


 彼女に中途半端な質問をしたせいで、うっかり余計な事を喋ってしまったと気づいたようだ。


 知らない、ここにはいないがどうした? などとぼけるか質問で返す分には七菜子の疑惑の網にかからなかっただろう。


 私の行いを見てきた七菜子は、信吾が同じ事を触れ回っていたのを気づいていた。


 だから疑っていた。黙って私に先に喋らせていれば、良かったのだ。


 さっきまで一緒に行動していたのだから私達が咲夜の行方を知らないわけはない。


 彼女らしき人物が落ちたかもしれない中で、言い争う二人を見れば、七菜子なら気づくに決まっていた。


「聖奈の力では、あの子を押しても引いても体幹を崩せない。聖奈が完全に死ぬ気なら別だけど」


 私が押されて、体勢を崩されるくらいの状態だったから咲夜も身を乗り出す羽目になった。


 自分と体勢を入れ替えるように、私を投げ出したから、咲夜は身代わりになった。


「誰への殺意かは、この際どうでもいい。咲夜が落ちた事に、貴方たちが関わりがあるのは事実のようだから」


 本当に、嫌になるくらい七菜子は頭が回る。


 日頃の様子と言い分から、真実(こたえ)を導き出しているのに、それを言わない。


 事件になれば話しは別だろう。肝心の咲夜が消えた今、七菜子は私達の罪を問えないのをわかっている。


 咲夜がどこまでここにいたのか、七菜子が知りたいのは、本当にそれだけだった。

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