第十話 マジクズじゃん!
ずっとあいつが気にいらなかった。可愛いのは私、ちやほやされるのは私。
······なのに、あいつと来たらお人形さんみたいな綺麗な青目の美少女とかありえない。
ご近所さんだからって、ずっとあいつと幼なじみと扱われるのが嫌だった。
私と違って、あいつは凛とした格好良さがあって、わたしなんかより男子にも女子にもモテていた。
むかつくし、悔しかった。だからあいつがお人好しで頭が悪いのを利用してやった。
あいつは顔にすぐ出るので、欲しいものややりたい事がすぐバレる。隠し事が出来ない典型だった。
そうやってあいつとは、表面上は仲良く幼なじみをやって来た。
あいつが欲しがるものは、私も欲しがって困らせ譲るように仕向けた。
あいつから奪って、ただ悦に入りたかった。好きでも何でもない、顔が少しいいだけの信吾もそう。
······実際、格好良さや男前ぶりなら、あいつの方が上だもの。
好きな男を奪ってやったら、流石にあいつも苛々していたっけ。必要以上にいちゃついてやった。
私にこの男は釣り合わないのは、あいつに言われなくてもわかっていた事だ。
······あいつ咲夜に改めて面と向かって言われると、腹立つ。
何よりもこの格好良く見えるだけの男だって、あいつには似合わない。
初めて喧嘩して、どうしてあいつの邪魔をしてしまうのか思い出してしまった。
修学旅行に来た時も、あいつに見せつけるように、私は信吾とイチャイチャしていた。
私とあいつの事に巻き込んで、七菜子やモブ男君達には悪いと思っている。
私はわざと、あいつを苛つかせて仲直りの機会を待った。
あいつは自分をバカだと思っているけれども、私はもっと大バカだ。
素直に謝れば、あいつは許してくれると思う。
でも······あいつと違って、意固地になった私には出来なかった。
だからふざけたふりをして、あいつを脅かしてやるつもりだった。
あいつの前で、ちょっと落ちるふりをするつもりだった。
真っ先にあいつは動く。私の気持ちに気づいている癖に、どこまでもお人好しだから。
落ちる気はないし、助けてもらって大泣きして感謝して許してもらおうと思った。
咲夜を苦しめておいて、ずるいのは私もわかっている。
でもあいつは甘えさせてくれる。幼なじみってだけなのに、究極のお人好しだから。
――――――――計画通りに行くはずだったのに、邪魔が入った。
······ちょっと待って。あの男、いま私を押したよね。
バランスを失い落ちかける私をあいつは、生命を掛けて引き上げてくれた。
なのに、助けてくれた咲夜がかわりに落ちた――――――――
――――――――私を押した信吾は舌打ちした。こいつは今、私を殺す気だったんだ。
······どうして?
「お前なんか、ただの都合いいだけの使い捨てなんだよ」
散々やって飽きたし、そう言われた。
私と咲夜がうまくいってないのを利用して、私が行動に移すのを見て、こいつも利用したのだ。
「んだよ、お前が助かるなよ。お前が死ねば罪悪感で苛む咲夜をものに出来たのに使えねぇな」
こいつ、マジクズじゃん!
私を好きじゃなく、やり捨てるつもりだったのもショックだった。でも、それより、私を殺してあいつまで犯す気だったなんて。
「なに悲劇のヒロイン面してんの? お前の位置に咲夜がいるべきだったんだ、笑えよゴミ女が」
私が咲夜の人の良さを利用して都合良く自分に使っていたのを全部こいつは知っていた。
それは当然だ。一番私達の近くにいたんだから。
私が咲夜をうまく使って自分の株上げをしていたように、こいつもそれを利用して咲夜の心を誘導していたんだ。
私が言うべきじゃないのわかってるけど、咲夜がこいつの事を気にしだした理由が分かったよ。
私があいつにしか目が向いてないから、気づきもしなかった。
全部この男はわかっていて、密かに私も誘導していた。ここを修学旅行の見物コースに推したのはコイツだから。
「お前さあ、俺のことクズ男とか思ってるっしょ? 自分のこと超〜棚上げさしてさ」
親友だったものを殺してしまった私に、この男はザクザクと言葉のナイフで刺してくる。
この男がマジクズ男なのは、私の性根の悪さとは別の話だ。悔やんでも咲夜は戻らない······。
ざわつく人々の中では、私達の事など誰も気にしていない。
何をしていたんだろう、私。
あいつが私のせいで亡くなったっていうのに、涙も出ないよ。
「しょうがねぇクズだな。悪いと思うならお前も落ちろよな」
周りは咲夜の落ちた方にばかり注目している。
ジリジリと私を追いやる信吾。
「何をしてるの」
不意に声が掛かって、私と信吾は陰悪な空気を消す。
仮面の被り方も、腹黒い様々なも、どっちも似たもの同士。
私を間接的に救ってくれたのは、七菜子達だった。