第1話
「なんで最初期メンバーのおれが抜けなきゃダメなんだよ!」
木のビールジョッキを机に叩きつけて怒鳴った。
「だって、お前固有のアビリティの効果めちゃくちゃ弱いからギルドとして強くなる為にはお前はお荷物なんだよ」
ギルドの団長のウゴロンは冷たくそう言った。
「てかぁ、スライムに対してダメージ+10%って弱すぎない?そもそもボスでもスライムって弱いし」
黒魔道士のギグニボニコが横から混ざる。
「それに対して団長の全ての能力を2倍ってチートですよね。攻撃力350でも高いのに700って。500超えてる人も滅多にいないのに」
ドラゴンハンターの高橋が媚を売る。
「そういう事だ、ゲルニスよ。7人編成のギルドで1人弱い奴がいると魔物タイムアタックの競技や他にも日常のクエストなど、ただただ邪魔なんだよ」
おれは悔しさと不甲斐なさで拳を震わせていた。
「そうかい、じゃあ好きにしろよ」
おれは外に出て無我夢中で走った。
「なんだよ、レベルが50になって固有アビリティを獲得する前はおれが一番ステータス高くて、ギルドを引っ張って、みんな仲良くて…それなのに団長の固有アビリティが超レアアビリティと判明して一気にステータスが上がったらランキングの事や最前線の攻略の事ばかりで、なのにおれは最弱アビリティで」
もう全てが嫌になった、自分の弱さも自分が一番知っている。
自暴自棄になって走りすぎてぶっ倒れた。
目の前が真っ白だ、雪舞う夜におれは一人泣いている。
そんな時、突然おれの金玉から2つの光が放たれた。
ピキーーーーン、ピキーーーーン、ピキーーーーン。
『ステータスを更新しました』
「なにが、起こった?ステータス更新?」
おれは自分のステータスを確認する。
「え、おいおい。雪が目に入ってぼやけてるのか?」
おれは目を擦りもう一度確認する。
「嘘だろ…」
目に映ったのは体力1300万攻撃力500万魔力300万防御力450万素早さ400万
「なんだよ… これ」
アビリティに目をやると
「こ、これがおれのアビリティなのか」
『固有アビリティ スライムに対してダメージ+10%』
『右金アビリティ 全ての能力を100倍』
『左金アビリティ 全ての能力を100倍』
この瞬間、おれは最強になった。
あの日からおれは酷く天狗になっていた。
おれを捨てたチームに合戦を申し込み1vs5で壊滅させ嘲笑い、高難易度クエストで大金を稼ぎ、金遣いも荒く傲慢に他人を見下していた。
そんなある日、おれは人生で初めての風俗に行った。
サダ子と言う女のテクニックはとてつもなく、痺れるような快感と共におれは果てそのまま寝てしまった。
夜が明け、おれは目を覚ますとある事に気づいた。
「ない、おれの金玉がなくなっている!!!」
私の名はサダ子、幼い頃から貧しく金と力を人一倍望みながら体を売り生活しているわ。
そんな時、自分の金玉を自慢してくる客がいたの。
とてつもなく傲慢な客で許せなかったわ。
私の固有アビリティの麻痺を使って、金玉に擬似局所麻酔をし玉皮の裏を切り裂いて玉を取り出して食べてやったわ。
そしたら、ピキーーーーン、ピキーーーーン、ピキーーーーン。
『ステータスを更新しました』
「えっ」と思って確認すると
『ウキンサキンアビリティ 全ての能力を1万倍』
ってふざけた文字が表示されて笑ったわ。
その日から私はこの世界に復讐してやろうって
”最強のラスボス サダ子”としてこの世に誕生したの。
世界は混沌に包まれ、人々の幸せな生活は常に脅かされ、娯楽と呼べる全てのものは破壊の限りを尽くされた。
最強の魔物達を引き連れたサダ子はこの世を魔物の世界にしようとしていた。
サダ子の力は桁違いで既に130億人の犠牲者と130の国々が滅ぼされている。
そんな現在、唯一の希望がゲルニスである。
最高ランクのヒーラーを三交替で常時20人ゲルニスの金玉の周りに集めて禁魔法『蘇生』をさせている。
この世の理として”なくなったもの”は”なくなったまま”である。
それに反いて蘇生をするのだから、その代償は最も重い。
風俗嬢に金玉を食べられたおれはとりあえず病院に行ったが、医者は「玉袋は縫うが金玉はもうどうしようもない」と言って、まあそうだよなとおれは落胆し引きこもった生活をしていると国の本部の人達がおれの家に押し掛けて
「あなたの金玉しか世界を救う方法がない」と言っておれをある施設に連れて行き、おれはそこで入院患者の様な生活をしている。
数ヶ月が経ち、何百人のヒーラーの命が失われただろうか。
それでも、おれの金玉はまだ枝豆1粒分くらいの大きさである。
アビリティ確認
『右金ウキンアビリティ 全ての能力を10倍』
『左金サキンアビリティ 全ての能力を10倍』
「こんなに人の命を犠牲にして100倍か」
命を犠牲にしてでもこの世界を守りたいという勇敢なヒーラー達の顔が浮かんでおれは堪らなくなり頬を濡らした。
この施設の場所が今見つかってしまったらおれは殺され世界が完全に終わってしまう。
既に最高ランクのヒーラーは全滅し回復魔法を使えて己の命を犠牲にしてでも世界を守るという意志のある者を集めている状態だ。
最高ランクのヒーラーですら『蘇生』は一週間と持たないのに、最近来る者達は一日と持たないで顔を紫にして泡を吹き倒れていく。
おれは回復に専念する為に殆どの時間、眠っているか目を閉じている。
「おい、ゲルニス聞いてるか?」
何か聞き覚えのある声が聞こえた。
そっと目を開くと、そこにはウロゴンがいた。
「私とお前の間に無駄話はいらないな」
おれのボヤける視界に、お互いに夢を追いかけていたあの頃のウロゴンの瞳が映った。
「私の命をお前に託そう。禁魔法『蘇生』そして伝説禁魔法『アビリティ譲渡』 ゲルニス、世界を託すぞ」
血を吐きながら命尽きるその瞬間までおれの金玉に手をかざしていた。
「ウロゴン、お前がずっと言っていたこの世で自分にしか使えない伝説禁魔法があるってこれの事だったのかよ。本当にピンチになった時、私の命と引き換えにどんな敵でも倒せるって。それって、素のステータスの高いおれにお前の命を犠牲にしてステータス2倍のアビリティを譲渡するって事だったのかよ」
「お前の命、受け取ったぞ」
おれは幾千もの犠牲により半分ほど回復していた。
アビリティ確認
『右金ウキンアビリティ 全ての能力を50倍』
『左金サキンアビリティ 全ての能力を50倍』
『譲渡アビリティ 全ての能力を2倍』
50×50×2=5000倍、まだ1万倍ステータスのサダ子には勝てないだろう。
しかし、『蘇生』を使えるヒーラーは一人たりともいなくなっていた。
「結局、おれ達の世界は滅ぼされるのか…?」
ふと、おれは自分のステータスを確認した。
体力1300万攻撃力500万魔力300万防御力450万素早さ400万
「1万倍…されている!?」
おれは大きな勘違いをしていた。
ウロゴンが譲渡したアビリティは、実はおれ自身に付けられたのではなく、
”金玉にアサインされていた”
なので、50×2×50×2=1万倍ということになる。
「こ、これで世界を救える」
おれは光の速さで魔物を狩り続けた。
世界から魔物を一匹残らず駆逐し、サダ子を仕留めてやるんだ。
魔物に支配された国を全て奪還し、ついにサダ子が住む魔王城まで辿り着いた。
「ふふ、久しぶりね。あの夜以来ね」
「ああ、久しぶりだな。あの夜以来だな」
突然、サダ子が咆哮を上げた。
「アアアアアアアアア!!!」
その音波で魔王城は崩壊し、辺りの草木は木っ端微塵となりおれの金玉は少し揺れた。
「我の邪魔をスルナ。立ち去れ、タチサレ。」
サダ子の肌はどんどん紫色になり背中や肩からは色々なモンスターの部分部分が生えてきた。
「お前、もしかして金玉だけじゃなくモンスターも食ったのか」
「アアアアアアアアア、ホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲェェェ」
サダ子はもう人間じゃなくなっていた。
「おれの最大の魔法を見せてやるよ。究極伝説魔法〜ゴウモウの嵐〜」
その瞬間、幾億もの毛が竜巻を作りサダ子に向かっていった。
しかし、サダ子はそれを一瞬で打ち消した。
「アアアアアアアアア、サイキョウマホウ〜ケツゲザムライ〜」
その刹那、おれは何かに斬りつけられた。
「うっ、痛え」
肩からの出血、これが首に当たっていたら即死だった。
サダ子究極体に完全にステータスが負けている。
「ツイゲキダ、フウインマホウ〜ケツゲザムライノオジ〜」
「ぐっは…」
辛うじて急所に当たらないように避け即死は免れたがもう意識が遠い。
仰向けに倒れたおれの目にドラゴンが映った、そのドラゴンがおれの方に向かって降りてくる。
「待たせたな、ゲルニス」
「ド、ドラゴンハンター高橋!!!」
そこには旧友がいた。
「おれのアビリティ覚えてるだろ?そう、フィールドにいる全員を5分間任意の属性に変えるだ。頼むぞ世界を救う勇者様」
高橋は全てを覚悟した顔をしていた。ステータス1万倍同士の戦闘に混じるというのは、それは、確実に死ぬという事だ。
「このフィールドにいる全員をスライム属性にせよ!」
高橋は笑っていた。
「お前の固有アビリティを馬鹿にして悪かったな、その1万倍にされた10%でサダ子を倒してくれ!!!!!」
サダ子は怒り狂っている。
「コロス、カミキンシマホウ〜クサスギルクロスギルデカスギル〜」
おれは最後の全力を込めた
「我の金玉に全精神を、世界と金玉が混ざり合う時、時空に空間が生まれる。黒と白が混ざり合う時、金玉に光が生まれる。放つぞ、最強封印金玉魔法〜タマキン大爆発〜」
うおーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
おれの金玉はどんどん膨らんでいった。
走ってサダ子に近づき金玉を押し当てた。
「爆ぜよ、おれの金玉!!!」
”バーーーーーーーーン”
世界を覆う爆発音
「いてぇぇぇぇぇぇぇ」
おれは気を失った。(金玉も失った)