ジャックと豆の木
ジャックは母親と二人暮らし、細々と農業を営みながら暮らしている。生活は苦しく貧乏、しかしそれでも二人でのんびりと暮らしていた。
ある日、母親はジャックにお使いを頼んだ。ミルクが出なくなってしまった牝牛を市場で売ってくるようにと言った。長年世話になった牝牛であったが、自分たちの明日でさえどうなるのか分からない、ジャックは少しでもお金を得るために牝牛を売りに行った。
牝牛も自分の運命が分かっているかのように大人しく従った。ジャックは申し訳なく思いながらも牝牛を引いて歩いた。
街の市場へと向かう道すがら、年老いた男が歩いてきた。ジャックがすれ違いざまに挨拶をすると、老人は挨拶を返すとジャックに話しかけた。
「君少しいいかね?」
「はい?」
「突然こんなことを言うのは変だとは思うがね、その牛を譲って欲しいんだ。しかし今儂の手元にはちと小金がなくてな、そこでだ、この魔法の豆と交換してくれないか?」
老人は懐から何の変哲もない豆を取り出した。とてもじゃないが牛とこの豆では釣り合いそうはない、ジャックは申し出を断ろうとした。
「悪いねおじいさん。僕も母さんもひもじい生活をしているんだ、その豆と交換はできないよ」
「いやいや言っただろう?これは魔法の豆だ。そんじょそこらの豆じゃあない。魔法の豆だ」
「魔法魔法とうるさいな。一体どんな魔法がかかってると言うんだ?」
「そいつは言えない、言ったら魔法の効果が切れてしまう。しかしどうだ、この豆を手に入れればその牛を売るよりもっと大金が手に入るぞ」
ジャックは悩みに悩んだ。考えるまでもないとは思ったが、そこまで言われたら誰だって気になってしまう。そしてこの老人とまた出会えて、牛と豆を交換してくれる機会などそうそう訪れないだろう。
悩み抜いた末にジャックは牛と豆を交換した。もしかしたらという期待に負けたのだ。牝牛を引き渡し豆を受け取ると、ジャックは来た道を引き返して家へ帰った。
母親にそのことを話すとジャックはこれ以上ないほどに叱られた。牛を金に変えてくるのではなく豆に変えてきたのだ。母親の怒りは計り知れない。
それでも最後には仕方がないと納得してジャックを叱ることをやめた。年老いた牝牛が売れたとしても二束三文にしかならなかっただろう、そんなことでいつまでも怒っているのも馬鹿らしかった。
ジャックは手に入れた豆を見つめた。魔法の豆だと言われたが、どうすればこれを活用できるのかは教えてもらえなかった。
何とかして豆を金に変えなければならない。牛を手放して手に入れた豆だ、絶対に自分がこれを利益に変えてみせるとジャックは心に誓った。
そうしてジャックは豆の研究を始めた。多種多様なデータを取り、細部まで観察して豆のことを調べ尽くした。何の魔法がかかっているのかは関係ない、ジャックの目標はこの豆の量産化と安定した生産性だった。
日々の農作業の傍らでジャックは豆の研究をした。その豆は異様な早さで発芽し、信じられないほど背が高く成長する。天まで届くほどの高さになり、どうしようもないほど場所を取る。
しかしその分収量は多かった。採集するのに苦労はするが、採っても採っても豆はなり続ける。一粒の豆から大量の豆が収穫できた。
ジャックの研究はそこで終わらない、この収穫できた豆の活用方法まで考え抜いた。大量に収穫できたとしても販路がなければ肥やしになるだけだと、貯蔵方法から加工品まで、ありとあらゆる手を尽くした。
時間はかかったがジャックの豆の木を利益に変える研究はついに実を結んだ。ジャックは一粒の豆から巨万の富を成し、みすぼらしい家は豪邸へと変わった。母親は優雅な暮らしを楽しめるようになり、ジャックは自分の会社が豆の木の如く大きく育つことにやりがいを感じていた。
「社長、少々よろしいでしょうか?」
「何だね?」
「実は社長に会いたいと申し出ている老人がいまして、アポがないので帰っていただこうと思ったのですが、頑なに帰ろうとしないのです」
ジャックは最初、そんなの相手にするなと返そうとした。しかしそこでふと、豆を手に入れた時のことを思い出した。まさかと思いその帰らないという老人の姿を確認すると、あの時豆を交換してくれた老人だった。
「ああ!おじいさん!お久しぶりです」
再会を喜ぶジャックとは裏腹に、老人の顔色は優れなかった。どうしたことかとジャックは心配した。
「どうしたんです?体調が悪いのですか?」
「いや、その、な。君はあの豆をどう使ったのかね?」
「どうって栽培して収穫しましたよ。沢山苦労はしましたが、こうして会社を持つこともできました。それもこれも、あの時おじいさんが牛と豆を交換してくれたお陰ですよ」
「ええと魔法は…?」
「ああそれについてはあなたによく聞いておかなかった僕が悪いんです。魔法の活用方法は分からなかったけれど、まあ結果よしです」
「そ、そうか…。まあそれならそれでもいいか」
ジャックは納得のいっていない様子の老人を見送った。どうしてあんなにも納得がいっていないのかジャックは不思議に思っていたが、次の予定がぎっちりと詰まっていたジャックは仕事に戻ることにした。




