第二の階段:動き回る人体模型
【第二の怪談:動き回る人体模型】
———『動き回る人体模型』、理科室に置かれている人体模型が夜になると校舎中を動き回るという。動き回る人体模型に遭遇すると、人体模型から「背比べをしようか」と言われ、断ると首を切られ、応じると背を10%縮ませるという。
「多分自分の命のことを考えたら背比べに応じた方がまだいいのかもしれないけど、それでも身長10%も縮ませられるのは嫌だなー」
「10cmではなく10%というところがまたいやらしいな。俺も愚息を見せつけるのはいいが、身長を10%も縮ませられるのはちょっと堪える・・・・・・ん?」
成志がふと隣にいた戦を見ると、ふつふつと、それでいて静かに闘志を燃やしていた。その姿はまるで、強敵との戦いを控えた格闘家のようである。
「戦のやつ、なんでこんなに闘志を燃やしてるんだ?まさか人体模型と戦おうってんじゃないだろうな?」
「いやいや、流石にそんなわけが・・・・・・」
「!止まってください皆さん、前方の方から人影が近づいています。」
眼鏡の言う通り、前方から人影がどんどんと一行に近づいていた。やがて月明かりによって人影の姿が鮮明になる。
人影の正体は、件の『動き回る人体模型』であった。
「ねぇ、背比べをしよ・・・・・・」
人体模型が話終わるよりも前に、人体模型に接近し一撃を喰らわせた者がいた。そう、戦杉雄である。
「———背比べよりも、俺と力比べをしないか?」
戦の顔は、笑っていた。
だが人体模型とて何もしないわけではない。
話終わるよりも前に一撃を喰らわされた、それすなわち『背比べの拒否』とみなす。ならば相手の首を切断するのみ!
だが人体模型の手刀が戦の首にかかるよりも前に、戦はアクロバティックな動きを持ってしてそれをかわし、そのまま人体模型の頭を掴み、後ろ側に捻った。
頭を捻られた人体模型は、頭の後ろの方が前に来ることになったが、それでも進撃をやめようとしない。
「ほう、まだ動くか・・・・・・それでよし!流石は俺が前から見込んでいた人体模型よ!!!」
そして人体模型と戦は今度は互いに取っ組み合った。相撲の姿勢である。
さて、戦以外のメンバーはというと、彼らの戦いにすっかり見惚れ続けていた。
だがそれは彼らの戦いがただ熱かったからではない、彼らの戦う姿に、一つの芸術性を見出していたからだ。
———古代ギリシャのオリンピックでは、選手達は全裸で競技を行っていたという。
戦は当然全裸である。そして、服というものを一切身につけず中身も丸見えな人体模型もまた、全裸であるといえる。つまり目の前にあるのは全裸で互いの力を競い合う2人の男?による戦い、それはまさに、
「同じだ・・・・・・あいつらの姿は、昔見た古代ギリシャのオリンピックの様子を描いた絵画と全く同じだ・・・・・・!」
「信じられるか?俺達、今まさに生きた芸術ってやつを見てるんだぜ・・・・・・!」
やがて、戦と人体模型の戦いは、戦の勝利で幕を閉じた。
戦いが終わったあと、4人は2人の戦士を讃えるための拍手を、感動の涙を流しながらしばらく送り続けた。