3、運命は変わるのだろうか
その後、メリーに、メリーと呼んでもいいか尋ね、許可をもぎ取った。
僕の事はニアでいいよ、と言えば、何度か迷った後、小さい声でニア様、と呼んでもらえた。
二人でお茶を楽しみながら、色んな話に花を咲かせていると、遠慮がちに扉が開き、その先には母がニマニマと笑いながら覗いてきていた。
「母上、顔が危ないですよ」
「失礼な子ね、後で覚えておきなさい」
「ニ、ニア様っ」
「あら」
母上とはいえ王女な訳で、その人に対しての発言というのと、母の発言に慌てて僕の服の袖を引っ張るメリーを見て、
更に母上のニマニマ顔は深くなるわけで。
「いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「?最初から仲良しだよね、ね、メリー?」
「え、あ、は、はい……」
僕も愛称を呼べば、ぽぽぽとまた照れるメリーが最高にかわいい。
過去の自分を助走をつけて殴りたい。
「あらあらあら、うふふ、もっとお話ししていたいかもしれないけれど、そろそろお時間なの、ごめんなさいね」
「い、いえ!そそんな、お時間が少ない中お越しいただきありがとうございます」
「うふふ、可愛いわねぇ、ねぇ私もメリーちゃんって呼んじゃ駄目かしら?」
「へ、え、あ、あの、「駄目です」
その呼び方は僕専用なので、と言葉には出さないが、メリーが許可を出す前に止めて置いた。
「あら、そうなの、じゃあメリニウスちゃん、またお会いしましょう?」
「は、はい!」
言葉は緊張しているが、完璧な貴族の礼をするメリーに流石だと内心で拍手を送る。
まだ構い足りなさそうな母の背を押して、馬車へと向かう。
このままだとメリーが玩具にされそうだと思ったので。
馬車へ早々に乗り込み、一息つけば、ずい、と母の顔が近くに来る。
後ろに少し顔を引けば、早く話を聞きたいとばかりに声を上げた。
「で、急にどうしちゃったの?」
「どうもこうも、好きだったので」
「本当に?」
「本当ですよ、馬車から降りた時に見た時から、」
可愛かったと言うのは何となく言えなくて、口をまごつかせれば、満足そうに母は笑っていた。
「良かったわ、貴方も恋愛ごとに興味があって」
「そりゃあ少しくらいは」
「あら、そうだったの?」
意外そうな声に、返事は返さないで置いた。
それから、ハルモニア家とは交流が続き、その間にもメリーとはいい関係を築いていった。
少しずつ麗しい令嬢に育っていく彼女に、愛情も好意も成長が止まらなくて、この後の事も何とかなるんじゃないかと、そう思っていた。
久々に取り出した、あの書き出した紙をもう一度眺める。
多分きっと、メリーの存在はとても重要なのだと思っている。
何故なら、彼女が王国から姿を消してから、どんどん悪い方向へ王国は傾いていったのだ。
メリーではなく、突如現れた聖女。
その聖女と恋に落ちてしまった僕は、メリーを国から追い出し、聖女と結婚をした。
それからというもの、国は少しずつ傾いていった。
最初は穏健派貴族との軋轢から始まり、不作、水害、諸々。
国をしっかり見始めたのは、王位を引き継いでから、そんな僕が国を動かせるはずもなく、気づけばスタンピード。
ならば、メリーを手放さない、いや、そんな事よりもこんな可愛いメリーを僕が手放すとか一番ありえない話な訳で。
「今回はメリーを絶対、」
守り切らなければ、そう思いながら紙を丸めて机の引き出しの奥底へ押し込んだ。
あらすじがネタバレと化してます。