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0、エンドロール後の世界

燃えていく街並へ視線を落としながら、ああ、と大きくため息をついた。

いつからこうなってしまったのか、……いや、最初からそうだったのかもしれない。

婚約者として迎えた聖女、……いや、『聖女だった』彼女は恐らくあの高い塔の上で、僕の近衛騎士と共に抵抗しているのだろう。

逃げ切れるような火の手ではない、ただ逃げれる場所はそこ位しかないのだ。

何かが魔物に食われる音、引き裂かれ悲鳴を上げる音。

そう、この王国は今日、魔物の大群、スタンピードによって滅びるのだ。

本来この国を守るはずの聖女は、何故か力が無く、今や一介の魔術師と同じ程度で。

聖女でなければ、国を護る結解も張れず、ただただ力によって乗り切るしかなくなっていた。

周辺の魔物を狩る軍を整備した所で、焼け石に水、蓋を開ければこのザマだ。

いっそ無抵抗に死んでしまえたらいいのに、目の前に魔物が飛び込んでくれば戦い方が染みついた体は魔物を斬り伏せていく。

一度剣についた血を振り払い、空を見上げる。

何かが、きっと、何処かで、間違えたのだろう、そう思えて目を閉じる。

その時に思い浮かんだのは、春の様な髪色の彼女だった。

最後の瞬間は、確かとても泣き出しそうな顔をしていて、それでも泣くこともなくこちらを見つめていた。

何となく、今思えば一番美しいのは彼女だったのだろうと思い浮かんだ。

こんな酷く汚れた赤じゃない、その髪は、今も何処かで風に舞っているのだろうか。

走馬灯のように思い浮かんだ光景を、眼を開いてかき消すと燃えていく街へと向かう。

それが、この国の王として最期にできる事であったから。






その日、春の国とも歌われた王国は、一夜にして魔物の大群に呑まれて消えた。






本棚の壁に囲まれた部屋で、二人の人物がチェス盤を挟み話す。

「やっぱダメじゃん」

「そんなもんさ」

オレンジの短い髪が揺れ、勝手に動いて白いキングの駒を倒した黒のナイトを指で倒す。

その瞬間、盤面は急速に巻き戻るかのように駒が動いていき、その動きが止まった時には、盤面は最初の状態へ戻っていた。

銀とも金ともつかない長髪の髪は風が吹いたようにふわりと揺れた。

「ん?今何かした?」

「小細工を一つな、これでダメなら小細工を二つにしよう」

「堂々とイカサマ宣言しないでくれない?」

「創造神に挑むなら、それ位しないとな」

長髪の人物、人の神-アレクサンドロスーは、本棚へ指を振る。

まるで引かれるように、本棚から一冊本が飛び出し、アレクサンドロスの手に納まった。

「創造神って言い方やめてくれなぁい?僕は君の主神のつもりだったんだけど」

ぶす、と頬を膨らませた短髪の人物、創造神-プリマヴェルーは駒をつつく。

「残念だが、俺は神を信じないタイプでな」

「何それ、自分が神様のくせに」

「お前のせいだろうに、さて後何回だったかな」

「あと五回さ」

君が僕の物になるまで、とプリマヴェルは微笑む。

この世界は、二神のゲーム盤面でしかない。

勝利条件は、魔物の大群を人類が乗り越える事。

敗北条件は、人類、いや、正確に言おう、アレクサンドロスの子孫達が死に絶える事。

「じゃあ新しいゲームを始めよっか!」

「……」

「ねぇ、何で素直に僕のものにならないのさ」

プリマヴェルは子供の様に小首を傾げてかわいらしく聞いてくるが、その実何処か諭すような大人の顔も出している。

プリマヴェルの問いに、アレクサンドロスは本から顔を上げずに答える。

「それが、神になる前のお前との約束だからな」

「またそれだ」

そうしてまた、チェス盤の駒は動いていく。

それを片目におさめながら、アレクサンドロスは少しだけ輝くキングの駒を祈る様に眺めた。



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