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第1話 超人

「勝負だ!周太郎!」


と、スポーツ刈りでガタイの良い青年が吠える。周太郎と呼ばれた青年は、やれやれといった感じで「お前は懲りねえなあ」と返す。


「フッフッフッ……今日は勝つための秘策を用意してきたのだ」と、スポーツ刈りの青年はいかにも自信満々だ。


再び、やれやれといった感じで「そーいうのは言わないほうがよかったんじゃないのか?」と返す。


「正々堂々打ち負かしてこそだ!」


「ふーん。まあ、秘策って言ってる時点で正々堂々ではないと思うけど」


そして2人は自転車にまたがる。その先には長く平坦な直線道路が続いている。この道は彼らの通う高校『葉央(はおう)高校』の理事長が整備したものだ。通称『金計(かねばかり)ロード』。この道は4車線の自動車用の道、十分すぎる広さの自転車用の道、10人くらいが並ばないと塞げない広さの歩道からなり、50mおきに歩道橋が設置されている。また、『金計ロード』に信号は存在せず、通行料も発生しない。長さは1kmで、ちょうど半分の地点に『葉央高校』が建っている。つまり、2人の自転車勝負は500mで行われるということである。


「自転車部に勝つには改造(チート)を使わざるを得ないだろ?」さも当然だと言わんばかりに胸を張る。


「そこまでするなら、そろそろ(はら)っちにも()()()()()本気を見せるかなー」

自転車部の青年は余裕たっぷりである。


それに対し、原っちと呼ばれた青年も余裕たっぷりに「じゃあ、俺もそろそろ()()()()本気を出すとしよう」と言う。


「野球と自転車に接点はあまりないと思うけど」


「周太郎、さらばだ!」


原っちと呼ばれた青年は唐突に自転車をこぎだす。


「あっ!待てっ!原野(はらの)ー!」


周太郎は原野を慌てて追いかける。みるみるうちに距離を詰め、やがて離し始める。


「まだギアは1だからな!」


周太郎が高らかに宣言する。それに対して原野のギアは2である。


「それがどうしたあ!」


原野は吠えると同時にギアを3に上げる。彼らは普通の通学用自転車を使っており、普通、最大ギアは3の車種である。普通ならば。


「自転車部が負けるわけねーだろ!」


周太郎はギアを2に上げる。はたから見ればただの意地の張り合いにしか見えないが、本人たちはいたって真面目である。


「そろそろ()()を見せようか!」


原野は自転車のギアをさらに上げ、周太郎を猛追する。


「!?」


周太郎は混乱していた。原野の自転車のギアは3だったはずだ。普通に考えればこれ以上、ギアは上がらないはずだと。


「自転車屋の太田さんに改造してもらったのだ!太田さんいわく『(バック)ギア』といって、この改造ができるのは日本で10人しかいないそうだ」


原野はガハハと笑いながら周太郎を突き放していく。1つのギアでそこまで変わるものかと思うが、彼らの実力差と(バック)ギアの性能的には変わるみたいだ。


「なるほど……それが秘策ってわけかよ!」


周太郎の自転車のギアがさらに1つ上がり、最大ギアであるギア3となる。


「自転車部が負けるわけねーだろ!」


周太郎はガンガン加速し、原野を抜き返す。


「想定内だ!」


原野は吠えると同時にさらにギアを1つ上げる。


「はぁ〜!?」


周太郎はありえないといった表情で原野を見る。原野はグングンと前へ前へ進む。


「太田さんいわく裏2(ラスト)ギアだそうだ。これ以上のギアは物理的に不可能だそうだ。この準備こそが()()()()()()というものだ!」


しかし、原野は苦悶の表情を浮かべていた。当たり前だが、ギアが上がればペダルは重くなる。限界を2度超えた自転車ならばなおさらだ。そのペダルをかなりの速さで回しているのだから、キツイのは当然だ。


「まさか本当に()()()()()()()を出すことになるとはな!」


ここで初めて周太郎が立ちこぎ(ダンシング)を始める。


「「うおおおおおおおおお!!」」


猛スピードで2人は突き進む。そしてーー


「俺の勝ちだあ!」


勝負の結果は、原野がラストスパートで大きく加速して周太郎を振り切り、原野の勝利に終わった。ちなみにこれが原野の初勝利である。


「そんな……」


周太郎は意気消沈としている。そりゃあ自転車部が野球部に自転車勝負で負けたらそうなるだろう。


「さーて、朝練だ」


原野はグラウンドへと軽快に走っていく。その様子を見て、周太郎は思わず呟いていた。「あいつの体は一体どうなっているんだ?」と。

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