話し合いはクローゼットの中
どうしてこんな所に私はいるのだろう。
バスティアンがにこやかな顔で私の前に来たと思ったら、彼は私の腕を掴み、あれよという間に彼の部屋に連れ込んだだけでなく、広いクローゼットの中に一緒に入って向かい合って座るという変な状況となっている。
「お、お客様は?」
「あいつらは今夜泊まるし、お客様のような気がしないから平気。」
「へ、平気って、て、でも、どうしてここに?」
バスティアンは私の質問に、それこそ、どうしてだ?という自分こそわかっていなかった顔をして見せた。
そして、頭を乱暴に片手でかきむしり、それから無意識なのかネクタイまで外して放り投げた。
「バスティアン?」
「どうしてかな。ここは召使いの耳が無いからかもしれないね。」
「きゃあ!私に何をなさるつもりです!」
びくっとして立ち上がりかけた私の両腕は彼の両腕が掴み、彼は私が座り直すやにっこりと嬉しそうな表情を一瞬見せた。
一瞬で良かった。
数秒あったら私は溶けている。
そして、空気も読まない世間知らず(シャンタル談)なバスティアンは、再び真面目な顔を作るや、彼の微笑みに打ち砕かれた私を再び砕く言葉を発した。
「――何もしない。聞きたいだけ。君の恋バナを。」
「私に恋バナなんてあるわけ無いでしょう。」
「ヒューは?」
私はシャンタルの次に親友の顔を浮かべ、違うだろうと首を横に振った。
「では、中年オヤジは?」
「き、聞いていたの?」
「聞いていたし、俺以外のみんなが知っていて、そいつの身元をみんなで探していたらしい。あの面子でそんなしょぼくれた親父の身元も探れなかったとは信じがたいがね。もしかしたら、暴いたら危険な関係を君達は結んでいた、のかな。」
暴いたら危険な関係とは何だろうと思いながら、私に彼への恋は無く、ただ、彼の娘になったような気がしたからと、バスティアンに正直に答えてしまうべきなのかしら。
エグバード家が私を居ないものとしていたから、私は他所のおじさんの家庭内の愚痴を聞いて家族がいるような気になっていただけですって。
今だって、私を追い出すために私の結婚話をしているのでしょう?と。
「――あなたが考える事が事実だったら、あなたはどうなさるおつもり?」
「俺がそいつに会って、君と結婚を考えているか質す。その気でも君の結婚相手にふさわしくなければこの世から消す。安心しろ。俺は色々と伝手はある。」
「あ、安心できるわけ無いでしょう!あの人は単なる愚痴おじさんなんだもの!学園にいる限り私は捨て子にならない気がしたの!愚痴おじさんの愚痴を隣で聞いているだけで、私は彼の娘みたいな、まだ学園にいてもいい子供に戻ったような、そんな気がしただけなのよ!」
私は結局正直に答えていた。
この融通の利かない侯爵様を殺人犯にしてはいけないし、私は私の事を真剣に考えている彼に愚痴おじさんとの仲を疑われたくなかったかもしれない。
どうして?
ヒューにもシャンタルにも、勘違いされても平気だったのでは無いの?
私は自分に自問した答えを探す必要は無くなった。
私はバスティアンに引き寄せられ、彼の胸の中にいたのだ。
胸の中どころじゃない。
私は胡坐をかいた彼の膝に乗せ上げられていて、私の背中にはがっしりとした彼の腕が回され、まるで五歳児の女の子のように抱き締められているのだ。
「ごめん。君は寂しかった。寂しかったね。」
バスティアンの声はほんとに素敵だ。
彼は兄か父のようにして私を撫でて慰めてくれたが、私は彼の手を感じるたびにシャンタルがルーファスへの恋心を語った彼女の気持ちを理解していくという有様だった。
つまり私は、この勘違いばかりだけど一本筋が通った男に、恋に落ちてしまったという事態なのだ。
この世で一番結婚できない相手なのに!




