池本、決死の作戦……
劣勢・・・
なんとか打開策がないか・・・
7ラウンド…………
池本は前に出る。例えどんな時でも自分から前に出て行く。池本は自分からパンチを出して行く。
ホプキンスは外から左ジャブを打ち込む。池本はガードし、間合いを詰める。間合いが詰まるとホプキンスの左ジャブを掻い潜り、左ボディを打ち込む。
ホプキンスが腰を落とし、 池本と再びクロスレンジでの打ち合いを決意する。リング中央で両雄が再び打ち合う。
池本はボディにパンチを集める。ホプキンスは池本の頭を打ち抜く。池本は首に力を入れ、パンチを打ち返す。
ここに来て、池本に変化が訪れる。ホプキンスのパンチを池本がかわし始めた。
攻撃をしながら上体を振り、ホプキンスのパンチをかわしながらボディを打ち込んでいく。池本の動きが洗練されていく。
ホプキンスは苛立ち、強引に池本のパンチを止めると左肩を池本にぶつけ、池本の回転を止め下から池本の顔を射抜く。
池本の頭が真上に弾かれる。
ホプキンスは尚もパンチを打ち込んでいく。池本はガードするが、後退していく。またもコーナーに追い込まれた池本、ホプキンスのパンチの回転が上がっていく。
池本はガードしながら時折ボディを返すが、何発もガードの隙間からホプキンスのパンチを貰う。池本の頭が弾ける度、鮮血が舞う。
池本の顔が何度も弾ける、その度にレフェリーが心配そうに覗き込むが池本はボディを返し、試合を諦めない。池本の心は折れていない。
ホプキンスに打ち込まれても、池本はボディにパンチを返し、頭を振って抵抗する。
池本のこの姿に、会場の誰もが言葉を失う。
誰もが絶望的なこの試合、しかし、当の本人は全く諦めない。
池本は必死に頭を振り、手を出して抗っている。池本は被弾しながらボディを打ち込み、必死に戦っている。ホプキンスのパンチは何度も池本を捉えている。
何度目かのホプキンスの右フックが池本の顔面を捉えたと思った瞬間、池本が顔を捻った。ホプキンスはバランスを崩した。
すぐに池本は体を入れ替える。池本が攻撃の為、体を捻る。ホプキンスは頭を固める。次の瞬間、池本のボディがホプキンスに突き刺さる。ホプキンスのマウスピースが宙に舞う。
ホプキンスは池本に抱きつきクリンチの体制を取る。
池本は膝を落とし、腰の回転を鋭く回す。池本の左がまたもホプキンスのボディに突き刺さる。
ホプキンスは池本を突き放し、右ストレートを池本に打ち込んだ。池本は右ストレートを綺麗に貰った。
しかし、弾ける顔の目の端で確かに捉えた。ホプキンスが足を僅かに引きずるのを確認した池本は、もう一度頭をホプキンスに突き付ける。ホプキンスも頭を突き付けた所でゴングが鳴った。
赤コーナー…………
「息の根を止めるつもりで行って来い……侍、もう居ないと思っていたが……」
「驚く事ばかりだ……やられるくらいならやるだけだ……」
青コーナー…………
「池、充分にやった……」
「池本、満足だろ?」
「池本君、凄いよ……」
「みんな大丈夫ですか?……これからですよ、俺の挑戦……止めたら、一生恨みますよ……」
池本はホプキンスを真っ直ぐ見つめる。
応援席…………
最初に言葉を発したのは伊藤さんである。
「ねぇ、止めてよ……池本さん死んじゃうよ!」
「辞めろよ、池本さん……死んじまうって!」
「あんたの強さは分かったから、もういいって!」
「池本さん、もういいだろ?」
伊藤さんに続き、徳井、喜多、手塚が続ける。
「池本さん、みんな充分だって…………」
藤沢は言葉にならない。
全員が言葉を失う中、渡辺さんが口を開く。
「池本さんは負けない……絶対に勝つ…………信じられないなら出て行って!」
『渡辺さん……』
「池本さんは諦めない……だから私も諦めない……最後まで信じて諦めない!」
渡辺さんの言葉に誰も反論出来ない。みんな、リングに目を向ける。
8ラウンド…………
池本は変わらず前に出て行く。頭を振って左ジャブから前に出て行く。
ホプキンスは左ジャブを放ち、左に回って行く。
ほんの少しだが、異変が起きる。ホプキンスの動きが僅かに鈍い。左ジャブを突いて左に回るが、確かに鈍い。対峙している池本は、当然の様に分かっている。
それは、池本の作戦であった。
殆どのパンチをボディに集め、ホプキンスの体力を削りダメージを蓄積させたのだ。言葉にすれば簡単かもしれない。
しかし、並大抵の事ではない。ボディを打つという事は、近付かなければ当たらない。しかも相手はホプキンスである。何度も打たれ、何度も被弾しながら、それこそ自分の命を削りながら、池本はホプキンスのボディを打ち続けた。その結果が現れているのだ。
池本は一気に前に出る。ホプキンスが捌き切れない。ホプキンスは腰を落とし、池本との打ち合いになる。
しかし、これも変わってくる。
池本のボディをホプキンスが嫌がる為、僅かに反応が遅れている。池本のパンチが何度もホプキンスにヒットする。
しかし、相手は最強ホプキンスである。池本にしっかりとパンチを返し、池本も何度も被弾する。
この打ち合いは、ここに来て互角になってきた。お互いに引かない。池本とホプキンスの頭が同時に弾け飛ぶ。その時にゴングが鳴った。8ラウンド終了である。
赤コーナー…………
「やられた……これを狙っていたか……」
「関係ない……倒してくるだけだ……」
青コーナー…………
「池、よくやったぞ!」
「池本、反撃だ!」
「池本君……」
篠原トレーナーは泣いている。
「やっと俺のターンだ!」
池本は応援席に目線を送った。
渡辺さんと確かに目が合った。
そう確信した。
(渡辺さん……見てろよ……勝つからな…………君の為に、俺の為に…………)
応援席…………
誰もが言葉を失っていた。
しかし、渡辺さんだけ違っていた。
(聞こえた……目が合って、確かに聞こえた……勝つからな…………君の為に、俺の為に…………)
「池本さ~ん!」
渡辺さんは力の限り叫んだ。
池本は右手を軽く上げた。その手には、確かに力強さが見えた。
池本の覚悟が伺えた。
遂にホプキンスを捉えた・・・
ここからだ・・・




