世界チャンピオン池本と池本純也!
池本が両親に報告・・・
何か大切な事が・・・
日曜日、ジムは休みである。
池本は墓参りに来ていた。
いつもの花屋に寄る。
「お会計1500円になります!」
「はい……」
「こちらになります!」
「……ありがとう……会計は?」
「??頂きましたけど?」
「ああ……そうか、ごめん……ありがとう…………」
池本は花束を受け取って、途中でコンビニに寄り、ブラックの缶コーヒーを買い、飲みながら目的地まで向かう。
お寺の門をくぐると住職に声を掛けられる。
「池本さん、おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「今回は、報告が遅かったですね!」
「まあ、後輩の試合がありましたから……」
「そうですか……あ、飲み終わっているなら捨てて置きますよ!」
「いつもすいません」
「そういえば、若いご夫婦がお墓参りに来てましたよ。詳しくは話を聞きませんでしたけど、池本さんによろしくとの事でした」
「そうですか……ありがとうございます」
池本は住職に空き缶を渡そうとして落としてしまう。住職が拾ってくれている。
「すいません……」
「ははは、大丈夫ですよ!」
池本はお墓の前に行く。
「……百合子達が来たみたいだね……」
池本は一言声を掛け、花を置き空を見上げる。
「今日も青空だな……」
池本は背伸びをし、両手をポケットに入れ、目線をお墓に戻す。
「俺も後何回、ここに来れるかな……いつも心配かけて申し訳ない……もう少し、もう少しで何かが分かりそうなんだ……もう少しで……目標に届きそうなんだ……もう少し……」
池本はお墓に向かって優しい笑顔を向ける。
「百合子に後は頼んでもいいよね……父さん母さん、百合子と仲良くね……」
池本は両手を合わせ拝んだ後、お墓から去って行った。
「池本さん、その後、どうですか?」
「その後と言われましても……」
「青空のようになれそうですか?」
「……難しいですね……」
「池本さん、あなたは自分をどう思っておいでですか?」
「俺は…………雲、ですかね……青空に憧れて、いつも青空を見上げて……いつかああなりたいと思って漂っている……雲……ですかね……」
「そうですかね?……池本さんに憧れて、池本さんを目指して、ボクシングしてる人達がいるんじゃないですか?……その人達には、池本さんは青空以上の存在ではないでしょうか?」
「ありがとうございます……でも、やっぱり俺は雲です……自由気ままな雲なんです……風の吹くまま気の向くまま……ですかね……」
「池本さん……もう、自分を許してもいいんじゃないですか?」
「…………さて、どうなんでしょうか……今はボクシングだけで精一杯ですよ……」
「そうですか……池本さん、くれぐれもご無理はなさらずに……」
「はい、住職もお体に気を付けて……両親をよろしくお願いします……」
池本は深々と頭を下げ、お寺を後にした。
池本は街中を当てもなく、ぶらぶらしていた。
「池本さん!」
声のする方を向くと、森田さんと渡辺さんがいた。
「珍しい組み合わせだね!」
「たまたま会ったんです!」
「そう……そういえば、森田さんって渡辺さんの大学に行きたいんだよね?」
「覚えててくれたんだ?嬉しい!」
「池本さん、優しいんだ~……」
「いつでも優しいけど……」
「ところで、何してるの池本さん?」
「何にもしてないよ!」
「暇なの?」
「まあ、暇かな?」
「一緒にご飯食べようよ!」
「別にいいけど……」
3人で近くのパスタ店に入る。
それぞれが注文し、パスタが来る。
「池本さん、どんな人が好みなの?」
「……難しいね……」
「芸能人に例えると?」
「芸能人ねぇ……あんまりテレビ見ないからさ……」
「彼女欲しくないんですか?」
「まぁ、ゆっくり考えるよ……静かだね、渡辺さん?」
「いいえ、池本さんに心当たりが無ければ、別に大丈夫です!」
「ご機嫌斜めですね……池本さん、謝ったら?」
「え?……よく分からないけど、ごめん……」
「大丈夫です!」
「……池本さん、何で彼女作らないの?」
「私も知りたい!」
「……世界チャンピオン池本は、なかなかに大変なんだよ……池本純也は敵わないんだよね……」
「「????」」
池本は2人の食事代も払い、お店を出た。
2人と別れ、池本はアパートへと向かう。
「池本君!」
振り返るとバイト先の花屋の店長がいた。
「どうしたんですか店長?」
「買い物……奥が体調崩しててね!」
「ご苦労様です!」
「まぁ、色々有るよね……池本君はどう、彼女出来たの?」
「難しいですね……なかなか出来ません……」
「作る気は有るの?」
「さて、どうですかね……」
「ボクサー池本が引っ掛かるかい?池本君として、見てくれてる娘もいっぱいいるよ!」
「ええ、分かってはいるんですけどね……ボクサー池本は、今や世界チャンピオン池本になりまして……池本純也は尻込み中です……池本純也は臆病なまま、弱いままですね……」
「そうかな?…自分の臆病さを自覚している人間は、強いと思うけど?」
「自覚してても、一歩を踏み出さない……やっぱり変わらず臆病ですよ……」
「池本君は、人間的に魅力的だよ!」
「ありがとうございます……でも今は、池本純也は後回しです……まだまだやる事がたくさん有りますから……」
「そう……まあ、無理の無いようにね!」
「はい、ありがとうございます!」
池本は店長と別れた。
(伝えたい事がいっぱいある……あいつ等に伝えないと……俺の事はいつでも出来る……死ぬ前にでもやればいいさ……)
池本は拳を硬く握り、帰って行った。
ボクサー池本と池本純也・・・
本人の中で何かがあるんでしょう・・・
風の吹くまま気の向くまま・・・気になりますね・・・




