戦い終わって……
ついに決着しました。
統一チャンピオンになりました。
さすがに疲れた様子です。
控え室に戻り、池本は会長·トレーナー·篠原トレーナーと少し言葉を交わし、シャワーに向かう。
「……効いた~……」
「……それはこっちのセリフだよ……」
池本が振り返ると、ラリオスと通訳が立っていた。
「……やられたよ……」
「……………………………………」
「池本、君と戦えて良かった……こんなに強い男と戦えて、俺は幸せだ!」
「俺こそ光栄です。世界のスーパースターと拳を交える事が出来て……」
「あの瞬間……俺は満足し君は強さを求めた…………その差がこれだ……君は満足しなかった、もっと高みを目指したんだ!」
「覚えてないですよ……ただただ必死にやった結果です……」
「……自分では認識が無くても、間違いなく君は更なる高みを望んでいる……それが僅かかもしれないが、違いを生んだ。そして……俺は負けたんだ……」
「……何を言ってるんだか……リベンジはいつでも受け付けますよ!」
「ははは、君は優しいな……少しの差がやがて大きな差になる……満足をした時点で、俺はもう……君には追い付けない……負けて満足した時点で現役は終了している……引退するよ……」
「……好き勝手殴っておいて引退ですか?」
「お互い様だろう?こっちは更に、ベルトを取り損ねたんだ……手ぶらで帰るんだぞ!」
「俺はベルトより、[デイビッド・ラリオス]という男と戦った勲章をしっかり刻みました。体にも心にも……」
池本は自分の胸を、右手の親指で指した。
「俺の大切な誇りです!」
「……やっぱり君は優しいな……君と最後まで打ち合えた事を誇りに思うよ……ありがとう池本!」
ラリオスは右手を差し出す。
「こちらこそ……ミスターラリオス!」
池本も右手を差し出し、硬い握手をする。
ラリオスは振り返る途中に池本の方を向き、
「ベルトは取り損ねたが、土産は貰った……日本にいる[池本純也]という最強の男と戦った事実と……俺のベストバウトだ……強かったぞ、池本!」
ラリオスは向き直すと、右手を上に突き上げた。
「I'm happy to fight you!」
(君と戦えて、俺は満足だ!)
ラリオスはそう声を出すと、静かに歩いて行った。
(あんたは強かったよ……デイビッド・ラリオス!)
シャワーから戻り、着替えをする池本。
「トレーナー、会長、ダメージがあるから、記者会見はパスしたいんですけど……」
含み笑いを堪える様に話す。
「記者会見か……長いんだよな……」
「池本、分かるけどお前……過去にも何度かやってるだろ?」
「え、そうなの池本君?」
「いや、疲れてるんすよ……ケアは大事じゃないですか?」
「池はボクシングならいい見本だが、ボクシング以外になると、いい加減な所があるからな!」
「いやいや会長、今日の試合はかなりのダメージです……1人で会場の外に出られるかな……」
「何!そんなにダメージがあるなら無理はさせられない。池の事は俺が責任を持って、会場から連れ出す!」
「会長1人に池本は任せられません!俺もフォローします!」
「会長、石谷さん、何言ってるんですか?」
「篠原、俺は池の事で忙しい!」
「篠原さん、池本は俺達に任せて!」
「俺は2人に付き添って貰いますんで……」
「「「会見よろしく!」」」
「えーーー、何だよそれーーー!」
篠原トレーナーの声が響いた。
会見場に篠原トレーナーが来る。
待っている記者達はすぐに質問を投げ掛ける。
「チャンピオンは?」
「……ダメージがあり…………会見は無しです……」
「ちょっと、それはないよ!」
「ラリオスも会見無しなのに、チャンピオンの池本もボイコットかよ!」
「会見やらないと、記事がまとまらないよ!」
「……誠に申し訳ないですが、あの試合の後ですので……今回は失礼します……」
そう言って、篠原トレーナーは会見場を出て行った。記事からはブーイングが起こっている。
(みんな酷いよ……リベンジしてやる!)
篠原トレーナーは密かに心に決める。
会長、トレーナー、池本がアリーナの外に出て来る。
「お前等、池を頼むぞ!」
「池本に世話焼かすなよ!」
『はい!』
会長とトレーナーはご機嫌で去って行った。
「池本さん、記者会見は?」
「ああ、篠原トレーナーが何とかしてくれてる!」
「!?……酷くないですか?」
「会見は嫌なんだよ……長いし……」
「うわぁ!」
「何だよ徳井?」
「篠原トレーナー可愛そうに……」
「分かった、次回は徳井な!」
「うへぇ!」
「池本さん、私達も応援したんだよ!」
「ありがとう、聞こえてたよ!」
「もうハラハラドキドキで……心臓に悪いよ!」
「心配したんだから!」
「……ありがとう!」
「池本さん、渡辺さんの声、聞こえてたんですか?」
「……何の事やら……」
「あれ?池本さん照れてますか?」
「何だ喜多?ロードワーク増やすぞ!」
「何でもないです……」
「とりあえず帰ろうぜ、池本さんも疲れてるだろうし!」
「藤沢は気が効くね……3馬鹿トリオとは違うな!」
「「「池本さん!」」」
「だってお前等、篠原トレーナーにまで言われたんだろう?」
「「「バレてる……」」」
最寄りの駅に着いた。
池本は、試合の近い3人を帰す。女性陣も何人か着いて行く。池本は藤沢·佐伯·渡辺さん·伊藤さんといつもの公園に寄る。
「静かだな佐伯!」
「……改めて池本さんの凄さを感じました……」
「そうか?やる事やっただけだぞ!」
「池本さんは目標を達成しただけですもんね……俺は会見をすっぽかした事の方が驚きです。変わんないすね!」
「うん?……まあ、変わらない事はあるよ!」
「池本さんて、いい事したり、言ったりしても必ず落とすよね……どうして?やらなければ格好いいのに!」
「伊藤さん……いつでも格好いいのは疲れるんだよ、自然体でいられるのが1番さ!」
「確かに池本さんは、いつでも自然体ですね!自然体過ぎて、時にはイタズラ坊主みたいな時もありますしね!」
「おんや~、随分な言い方だね渡辺さん……人の背中にゲロ……」
「わぁーー、ごめんなさい、もう言いませーーん!」
「ふっふっふ、弱みを握られている事をお忘れなく!」
「はい、ごめんなさい……」
「さあ、帰ろうか?俺は疲れたよ!」
『はい!』
佐伯は1人で帰り、藤沢はホテルに戻った。
池本は2人を送って行く。
伊藤さんのマンションに着いた。
「おめでとう、池本さん!」
「ありがとう!」
「気を付けてね!」
「はいはい……」
伊藤さんの言葉に片手を上げ、歩いて行く。
最後に渡辺さんをマンションに送る。
「疲れてるのに、ありがとうございます!」
「いや、大した事はないよ……」
「それじゃあ、お休みなさい!」
「ああ………………あのさ……今日は本当にありがとう……9ラウンドが始まる時、渡辺さんの声が確かに聞こえたんだ、だから最後は踏ん張れた……本当にありがとう!」
池本は渡辺さんに頭を下げた。
「止めて下さいよ、分かりましたから!池本さんの役に立てて、嬉しいです!」
「あのさ……俺さ………………」
「はい、何ですか?」
「ああ、うん………………次も頑張るよ、応援よろしくね!」
「はい、引き受けました!」
「それじゃあ…………」
池本は振り返り、右手を上げる。
「はい、お休みなさい!」
渡辺さんの声が聞こえる。
(難しいな……)
池本は右手で頭を掻きながら帰路に着いた。
ラリオス、やっぱり凄い男でした。
池本はボクシング以外は、気楽ないたずら者ですね。
今はゆっくり休んで欲しいですね。




