スパーリング開始!
試合が近付いて来ました。
ジムも騒がしくなってきます。
池本も集中・・・ですかね。
4月も中旬に差し掛かり、池本と徳井のスパーリングが始まる。
徳井は喜多、手塚、その他にもジムに相手が居るが、池本はそうはいかない。重量級という事もあり、スパーリングパートナーを借りる形になる。
池本の相手は4人用意されている。それぞれが池本の相手をする為、アップを始める。池本はいつも通りに動いている。
今回の池本のスパーリングパートナーは、日本ランカー3人に日本チャンピオンである。同じ階級の世界チャンピオンとのスパーリングと言う事と、同じ階級の戦う事があるかも知れない面々同士という事で、全員がかなり気合いが入っている。調整の為に来ているという事を忘れているかの様な雰囲気である。
池本はこれから激しいスパーリングが始まる筈だが、朝起きて顔を洗う様に、当たり前の様に、いつも通りに動いている。
シャドーボクシングを3ラウンドやった時、
「池本、用意するぞ!」
トレーナーの一言で準備をし、リングに上がる。
ゴングが鳴る。
池本は頭を振り、いつも通りに左ジャブから入っていく。
相手も左ジャブを出すが、スピードが違う。ほぼ同時に出した左ジャブだが、池本の左ジャブが先に当たり相手の頭が弾かれる。そのせいで相手の左ジャブがやや上に軌道が逸れる。
池本はその左を掻い潜る様に、自身の左前方に身を屈めて滑り込む。懐に入った刹那、電光石火のコンビネーションを放つ。左ボディ右ボディ左フック右アッパーの4連打だ。見事に決まり、相手は左膝をキャンバスに着いた。
相手はゆっくりと立ち上がる。再開のすぐ後、相手が間合いを詰めて来るが、池本も前に出る。クロスレンジでの打ち合いが始まるが、ここでも池本のスピードに相手は付いていけない。
最初こそ池本はガードをしながら的確にパンチを当てていたが、エンジンが掛かり始めるとパンチを出している時も常に上体を動かし、的を絞らせない。そして上体を常に振っているので、次の攻撃がすぐに出て来る。[攻防一体]である。
相手は1ラウンド終了のゴングを聞く事なく、スパーリング終了となる。
2人目になる。
今度は足を使い距離を取ってくる相手らしい。相手は、左ジャブを打ちながら左に回っていく。基本に忠実なアウトボクシングである。狙いは一目瞭然、池本との距離をボルトで固定したかの如く保ち、自分の距離で優勢に進める事がしたいのだ。ファイタータイプのボクサーと戦う時、ボクサータイプの人間は誰もが考える事であり、至極当然である。まして、今回の相手はなかなかに切れる左ジャブを放つ為、自信があるのかも知れない。
しかし相手は池本である。しかも体が暖まり出して来ている。
頭を振り間合いを詰める池本、相手が左ジャブを打ちながら回っていくが一瞬、池本のスピードが上がり、相手の行く手を塞ぐ形になる。間髪入れず、池本は左ボディを叩き込む。
すぐに相手は打ち返すが、打ち返して来た左フックに自分の左フックをぶつけて振り払い、さらに頭を低くさせ左ボディからの左アッパーを炸裂させる。相手は堪らずダウンをする。
相手は立ち上がるが脳が縦に揺れた為、ふらついている。トレーナーが止め、スパーリング終了となった。
スパーリングを見ていた徳井達は、池本のリングの使い方に関心していた。合宿でトレーナーが言っていた、リングの使い方が圧倒的に上手いという言葉の意味を理解していた。
相手の行動、次のパンチ、もしかすると思考まで考慮し、大胆かつ最短で相手を追い詰める。池本だからこその動きであり、相手には何倍ものスピードに感じるだろう。
3人目がリングに上がる。
今度は最初からガンガン前に出て来る。まさに力でねじ伏せるタイプである。
池本は合宿での手塚とのスパーリングの時、華麗なフットワークで距離を取っていた。だから、見ていた3人は距離を取ると思っていた。しかし期待は裏切られる。
池本からも前に出て、お互いに手の届く距離に入る。同時に手を出すが池本のパンチが先に当たる。相手の顔が跳ね上がり、パンチが大きく逸れる。
相手もそれでも手を出すが、池本のパンチは相手のパンチの内側を通るイメージである。悉く池本のパンチがヒットし、その度に相手のパンチは逸れる。
そして池本は、頭を常に振っているので、相手のパンチが当たる事はない。力でねじ伏せに来た相手を圧倒的な力でねじ伏せた。
4人目は日本チャンピオンである。
池本が東洋太平洋チャンピオンに挑戦する際に返上した日本タイトルのベルトを獲得した男である。防衛も6度重ねている。実績十分であり、万能型のボクサーだ。
また、頭脳派でもある。最後にスパーリングに上がった理由は、先の3人の戦い方を見て自分のプランを立てていたのであろう。
池本と対極に居ると言っても過言ではない。
誰よりも最初に動き、自分から見本を見せる様に向かっいく池本、誰もが尻込みをする所を自分から立ち向かっていく男と、冷静に物事を判断し、1番可能性のある所でチャンスを掴み取って来た男のスパーリングになる。
池本は変わらない。頭を振り左ジャブを打っていく。
相手も左ジャブを打ち、こちらは距離を取る。
池本が左ジャブを掻い潜り懐に入った瞬間、右のアッパーが飛んで来る。
しかし、池本は当たり前の様にそのアッパーを更に自身の左側に体を滑り込ませる様にかわし、左ボディを叩き込む。
相手は振り払う様に左フックを出すが、その左フックに池本は自身の左フックをドンピシャのタイミングで合わせる。
2歩、3歩と後退する日本チャンプ、池本は更に詰め寄り左右のボディから左アッパーを炸裂させる。
日本チャンプは一瞬、意識が遠のく。その日本チャンプを支えたのは池本であった。左手で肩を掴み右手てマウスピースを外している。
「サンキュー、日本チャンプ!なかなかいい手応えだったよ!」
「まだ出来ます!」
「これからペースを上げていくんだ……今日はこれくらいにしてくれ!」
池本はいつもの練習に戻って行った。
池本のスパーリングの相手は、日本ランカー、東洋太平洋ランカー等であり、これから激しくなる。しかし徳井達3人は違う意味で心配があった。
(((池本さんの相手、勤まる奴居るかな?)))
練習後、トレーナーと池本が話をしている。
「何で最後、スパーリング辞めたんだ?」
「気まぐれです!」
「ふん……日本チャンプのプライドは守った訳か?」
「あの3人とは違いますからね……あいつ等は叩けば叩く程強くなる……あいつ等はチンケなプライドはいらない。今は強くなる事が最優先!……そこは俺も同じですがね!…………日本チャンプのプライドを無駄に壊す必要は無いですよ!」
「そうだな……しかし、お前のパートナーを見付けるのは大変だよ……日本ランカーから東洋圏内、手当たり次第に頼んでるから覚悟しとけよ!」
「強くなる為なら、いつでも覚悟は出来てますよ!そこはお願いします、トレーナー!」
「ああ、徹底的にいくからな!」
「楽しみですね!」
池本は挨拶をし、ジムを後にした。
池本は順調そうです。
トレーナーは大変ですね。
まあ、池本は黙っててもしっかり練習はしますがね!




