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君の為に、俺の為に・・・  作者: 澤田慶次
19/97

東洋太平洋タイトルマッチ、そして……

池本のタイトルマッチ!

勝てば世界ランキング入り!

でもそれ以上に・・・

会場の熱気も上がってくる。

青コーナーに池本が現れる。「惑星」が流れている。池本の入場である。会長・トレーナーと入って来た池本はガウンを着ている。背中には魂と書いてある。

池本のリングインの後、チャンピオンが入場してくる。チャンピオンがリングインし2人の紹介がされる。

2人がリング中央に歩み寄り一度、各コーナーに別れる。

「カーン」

始まりのゴングが鳴る。


1ラウンド…………

池本が最初からいく。頭を振り、強引に前に出る。

チャンピオンは対応しきれず池本に飲まれていく。

池本が連打でまくし立てる。チャンピオンも手を出すが少し鈍い。構わずに連打する池本、左フックが顎付近に直撃する。

チャンピオンがたまらずダウンする。

レフェリーのカウントが入るがカウント8でチャンピオンが立ち上がる。試合再開の合図と共に池本が前に出るが、そこはチャンピオンである。クリンチを上手く使い、このラウンドを何とか乗り切る。

2ラウンド…………

池本が前に出る。池本は左ジャブを出し、頭を振りながら距離を詰めていく。

チャンピオンは左ジャブを打ち距離を取ろうとするが、池本はチャンピオンの左ジャブを難なくかわし前に出る。チャンピオンの左ジャブは容易くかわせる物では無いが、池本は掻い潜る様にかわすとパンチを上下に打ち分けチャンピオンを翻弄する。

チャンピオンもクリンチをし上手くかわしていくが、池本がコーナーにチャンピオンを追い込んでいく。

チャンピオンがコーナーを背負った所でゴングが鳴った。


3ラウンド…………

チャンピオンの動きが鈍い。

池本は前に出る。間合いを詰めると連打をする。

チャンピオンも手を出すが、徐々に池本に飲み込まれていく。左ボディから左フック、返しの右フックがチャンピオンの出した右フックに被り、カウンターのような形でチャンピオンの顎を捉える。

チャンピオンがダウン、レフェリーが間に入り、池本はニュートラルコーナーに行く。

カウントが入る。チャンピオンが動き出すが足に力が入らない様子、なかなか立ち上がれない。

更にカウントが進む。「10」レフェリーが数え両手を何度も交錯する。

池本の3ラウンド1分7秒、KO勝利である。池本は右手を応援に来ている9人の方に突き上げる。8人は興奮していたが、藤沢は右手を突き出し、泣いていた。

リング上で池本がインタビューを受けている。腰にはベルトが巻かれている。藤沢はその姿をしっかりと目に焼き付けた。


12月16日、藤沢がジムに挨拶に来た。会長とトレーナーに事情を説明し頭を下げる藤沢、不意に後ろから声がする。

「用意しろよ藤沢!」

後ろには、池本とその他にいつもの8人が立っていた。

「着替えてアップしろ」

トレーナーが言う。藤沢がびっくりしている。

「池本さんからの選別だよ……ありがたく受け取りな!」

徳井が言って着替えを渡す。藤沢は無言で頷き、着替えた。無言でアップをする2人、

「用意しろ」

トレーナーに言われ準備する。池本はヘッドギア無しだ。2人ともリングに上がる。藤沢のコーナーにはいつもの3人がセコンドに付いており、女性陣はリング脇にトレーナー達と立っていた。

「始めるぞ」

トレーナーが言い、2人とも右手を上げる。

「カーン」

ゴングが鳴る。


藤沢とのスパークリング…………

藤沢が左ジャブを打つ。

池本はジャブを掻い潜り左ボディを打ち込む。

一瞬動きが止まるがすぐに離れる藤沢、左ジャブを打ちながら距離を取る。

池本は左ジャブを打ち追いかける。しかし藤沢の左ジャブが切れており、なかなか間合いを詰められない。

「カーン」

1ラウンド終了である。


2ラウンド…………

藤沢から打つ。左ジャブと時々右ストレートを混ぜながら攻める。

池本は足を使い、これを避けていく。左ジャブを返し、時々ステップインしボディからの連打で藤沢の顔面を捉えるが、藤沢もパンチを返し、追撃を許さない。

なかなか白熱している様に見える。

藤沢は今までやって来た事を全て出すつもりである。 

藤沢の左ジャブを池本は潜り込む様に避け、そのまま左ボディを打ち込んだ時、

「カーン」

2ラウンド終了のゴングが鳴った。

「こんなもんかよ池本、手を抜くな!」

藤沢は声を荒げる。

「安心しろ、様子見だ……これからだ……」

池本は答えた。


3ラウンド…………

池本は前に出る。藤沢の左ジャブを掻い潜り、左ボディからの左アッパーを池本は打ち込み藤沢はダウンする。

すぐに立ち上がる藤沢、試合再開すると自分から前に出る。

藤沢は左ジャブを打ちながら前に出る。距離を詰めると右も交えて攻める。

しかし池本には当たらない。ガードをしながら的確にパンチを返す。2分を過ぎた所で藤沢は2度目のダウンをする。

「立ち上がれよ、何してんだ!お前はこんなもんか?」

池本がマウスピースを右で外しながら言う。

藤沢が立ち上がるのを見て、池本はマウスピースを戻す。

残り30秒、池本は前に出て連打をする。藤沢も打ち合う。不意に藤沢の左が池本の顔面を捉える。しかし池本は気にも止めずにパンチを打ち込んでいく。 

「カーン」

ゴングが鳴る。スパーリング終了である。

藤沢が池本の右の拳を両手で握った。

「ありがとうございました…………」

藤沢は頭を下げた。

「おう!」

とだけ答えて自分のコーナーに戻る。

「池本さん、もう少し手加減しても良かったのに……」

伊藤さんは言った。トレーナーが答える。

「手を抜くか……果たして、それは藤沢の為になるのかな?……これから藤沢はもっとキツイ所で生きていく。ここで手を抜いたら藤沢の為にならない……池本はそう考えた……良く分かっている……試合が終わって体もキツイはずなのに、本当に後輩思いの先輩だよ……文字通り、身体を張った選別だ……それは、藤沢も良く分かっている筈だ……池本は藤沢の思いも背負って、これからもボクシングを続けていくんだ……」

「藤沢さんは、どうしてプロにならなかったんですかね?」

渡辺さんが言う。

「藤沢は迷っていたんだ……実家の仕事を継ぐかボクシングをするか……中途半端だからプロテストを受けなかった……池本に夢を託して実家の仕事を継ぐ事を決めたんだ……その事を池本が1番良く分かっている……だから手を抜かなかった。池本らしい選別だ……」

トレーナーは答えた。

「池本さん半端ないっす!」

藤沢が言う。

「まぁな……KOできると思ったんだけど、やられたよ……この間のタイトルマッチだってKOだったのにな……」

「その言葉、嬉しいです!」

「俺のパンチを受けて立ってたんだ。少しの事で根を上げたら許さねぇぞ!」

池本が言うと藤沢は頷いた。


池本がシャワーを浴びている。藤沢は先に浴びて着替えていた。

「池本さんからショートメールが来てよ、手伝えって!」

徳井が言う。

池本からの提案である事が藤沢は嬉しかった。池本が着替える。全員で会長とトレーナーに頭を下げ、挨拶してジムを出ていく。

「どうせこのまま新幹線なんだろ!」

池本が言う。

「はい、そのつもりです!」

「俺に黙っていくなんて許さねぇぞ!」

「池本さんには敵わないです……」

「全員で見送りだ!」

池本は言った。

駅まで行く途中、他のメンバーとも話しをした。駅にはアッと言う間に着いた。新幹線に向かう途中、藤沢は伊藤さん、渡辺さんに声を掛けた。

「池本さんをお願いします!」

「「はい!」」

プラットホームに着いた。藤沢はみんなに挨拶をした。

「これからが本当の勝負だ、頑張れよ!」

池本はそう言い右手を差し出し、藤沢の右手に何かを渡した。それはコインであった。オモチャのウルトラマンのコインは鉄製で少し重みを感じた。

「池本さん、これ……」

「お前は大切だよ。困ったらいつでも連絡しろよ!」

藤沢は泣いていた。泣いてる内に発射の合図がなりドアが閉まる。藤沢は深々と頭を下げる。池本は右手を前に出していた。

タイトルマッチが3ラウンド以内で決した理由は、

藤沢とのスパーリングにあります。

藤沢に、前東洋チャンプより強かったと言いたかったんです。3ラウンドで決したら、思ったより短くなって、藤沢との別れも入れました。

藤沢と池本の関係、きっと深いんでしょうね。

ウルトラマンコインは、次に出てきます。

池本の過去が、また少しわかります。

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