決定!日本タイトルマッチ!
日本タイトルマッチ!
是非とも勝ちたい!
日本チャンピオン、ひとつの分岐点かもしれませんね・・・
仲間内は、複雑そうですね。
翌日、ジムにファイトマネーを貰いに行った。その時、会長より話があった。日本タイトルの話が正式にあり、10月9日との事だった。期間が短いが池本は快諾した。上に上がる為には多少の無理は覚悟していた。
本来なら休みが入りジムワーク再開だが、今回はその期間がない。すぐにジムワーク再開である。
試合の疲れも抜けず、ハードワークに入る。バイト先の店長に話をし、9月10日までの勤務にした。
練習そのものは変わらないが、疲れが抜けていない事がこんなにキツイ事を池本は知った。それでもこのチャンスをモノにする為、池本は必死だった。
スパーリングも行い、恒例の走り込みも行う。池本の練習は過酷になっていったが、当の本人は平気な顔をしている。その表情から[当たり前]と言う事が読み取れるくらい、平気な顔をして練習を続けている。
藤沢が手塚に連絡をし、合コンのメンバーと会う機会を作った。8月23日の事だった。居酒屋だった。男性陣は池本を抜いた4人、女性陣は5人全員来ている。
「日本チャンプ、許せねぇよな……」
「勝てねぇからって、この試合間隔はねぇだろう……」
藤沢と徳井が言った。
ボクシングの試合は間隔が少し空くが、ダメージを抜いたり改めて準備したりとその為のものである。期間が短いという事は、それだけ体の負担がありキツイ事を表している。
「特に、夏だしな……」
藤沢が言う。今回の試合について納得がいかないとの事だった。
「池本さんは、何て言ってますか?」
渡辺さんが聞く。
「何も言ってない……」
手塚が答える。
「だったら何も言えませんよね……当の本人が何も言わないのなら、私達は信じて待つだけですよね!」
伊藤さんが言う。
「分かってるけどさ……会場はチャンピオンの地元の神戸だぜ。ただでさえアウェーなのにさ……」
喜多が言う。
「なら、私達は神戸まで行って応援しましょう。アウェー感に負けないように!」
渡辺さんが言う。一同は納得し、出来る事は協力する事で池本を支える決意を固めた。
そんな時、池本が居酒屋に現れた。
「みんな、何でいるの?……何かあったの?」
池本が聞いた。
「池本さんの応援の話をしてたんですよ!遂に日本チャンピオンですからね!」
藤沢が言う。
「大した事じゃないよ……ここからだね…………まだまだこれからさ……」
「池本さん、辛くないですか?」
渡辺さんが言う。
「相変わらずストレートだなぁ……大丈夫だよ、大した事無い……自分の選んだ道だ、辛いわけないよ!」
池本は答え、ウーロン茶と焼き鳥のレバーを2本頼んだ。
「池本さん、減量は?」
徳井が聞く。
「9月に入ってからかな……でも、今は順調。少し鉄分を補給に来た……うん、調子は悪くないね!」
池本は言い、出てきた焼き鳥を食べる。
その際、伊藤さんに聞かれる。
「今度の相手、ずるいですか?……試合の間隔もないみたいだし……」
「こっちもストレートだね~……ルール上問題ないから試合が組まれているんだ……ずるいも何もないよ。むしろチャンスをもらえた事に感謝かな?……今回の事に文句を言う事はいつでも出来る……いつでも出来る事は死ぬ前にでもやればいいさ!…今しか出来ない事にベストを尽す……俺は日本タイトルを取る事にベストを尽すだけかな?」
池本は答え、焼き鳥をもう一本食べてウーロン茶を一気に飲み、
「お前等、あんまり飲み過ぎるなよ!」
池本は言い、会計を済ませ出て行った。
「泣き言一つ言わない……凄い人ですね……」
伊藤さんの言葉に誰もが頷いた。
9月16日練習も佳境、減量も佳境である。
スパーリングも計8ラウンドをこなした。パートナー全員が180cmを超える大きい選手であり、池本の減量と試合間隔が無い事からの疲れもあり、なかなか自分のペースに出来ずいつもより打たれる事が目立っていた。
しかし池本は弱音は吐かない。黙って黙々と練習をこなしていた。減量はうまくいっている様だ。ウェートも後1kgを切った。
9月29日に神戸に移動する。その前にウェートを作っておきたいが、間に合いそうである。練習にも力が籠る。
9月28日、ウェートはキッチリ作った。
仕上げの練習でスパーリングを行い、なかなかいい感覚が掴めた。明日、神戸へ移動して向こうで当日まで練習をする。
9月29日、新幹線に乗る。自由席に座った。
3人掛けの通路側である。隣に40代と思われる結構大きい男、窓側には男より若い30代後半と見られる綺麗な女性が座っていた。
「すいません」
と言って池本は座った。男の人は
「ごめんね、俺が大きいから邪魔でしょ?」
と言われた。池本は大丈夫と答えた。
旅は道連れである。横の男に話し掛けられた。男の名前は水沢と言い、結婚相手と転勤だそうだ。女性の名前は木村というらしいが、男は「玲奈」と呼んでいた。ちなみに木村さんは「のぶくん」と呼んでおり、典型的なバカップルである。
しかし池本は少しも嫌な感じを受けず、羨ましく感じた。水沢さんにそれを伝えると2人で照れていた。池本もどうして新幹線に乗っているのか聞かれた為、正直に答えた。木村さんより水沢さんが昔、総合格闘技をやっていた事を聞き、妙に親近感が湧いた。神戸に着き、お互いに挨拶をして別れた。
(水沢さん、木村さんを大分好きだけど……木村さんの方が水沢さんを好きそうだな……)
ふと池本は思った。
神戸に着き、ホテルにチェックインする。
その後、ジムにて練習をする。それほど疲れは出ていない。ある程度で本日は終了にした。ウェートは大丈夫だ。
翌日からも間借りしているジムにて最後の仕上げをしている。スパーリングも行う。動きも軽快であり、順調な仕上がりを感じさせる。
ジムワークは主にスパーリングと軽い調整である。疲れを抜く作業にも抜かりはない。少しずつ、集中力が研ぎ澄まされていくのを池本は感じていた。
10月8日、計量の日。
池本は一発でパスした。チャンプもパスした。2人で向き合い、ファイティングポーズでの写真を撮られた。明日、ゴングを迎える。
さあ、本番間近!
どうなるタイトルマッチ!
あとはやるだけ!