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2月は全部嘘  作者: 生まれつき不憫
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第一話 そこはかとなく胸糞悪い出会い

2月1日。1年で1番嫌いな月が始まる。生まれて22年がたとうとする年のこの日、ぼくは彼女に出会った。それは、昨夜の雨により凍結した、路面の上での事だった。

低血圧故に寝起きの悪いぼくの朝はいつも忙しい。到着予定時刻の20分前に起き、10分で支度をしてものすごい勢いで自転車をこぐ。その日はいつも以上に急いでいた。

夜中に降り始めた雨は、起きた時には止んでいて、それはもう気持ちの良い快晴だった。しかしながら路面は凍結しており、自転車に乗るぼくは少し緊張しながら、いつも通りの道をいつも通りのスピードで爆走していたつもりだった。

信号機というのは、ものすごく時間に忠実であることをご存知だろうか。毎日決まった時間に、決まった時間だけ青信号になりそれと同様に赤信号になる。ぼくが出る時間はいつも、全ての信号が青。寸分たがわぬ時間に同じスピードで走れば間違いなく10分以内には目的地に着いている。だが、この日だけは少し違っていた。違うな。少しではなく大きく、いやそれはもう盛大に違っていたのかもしれない。

路面の凍結によるスピードの出しずらい環境。これは自転車だろうが歩行者だろうが、あるいは車でさえもが言えるだろう。これについては連日の寒さと昨夜の雨を関連付けることさえできれば予測出来たことかもしれない。いつもより早めに目覚ましをかけ、いつもより早めに起きればいいだけのことだ。それすらも出来ない、いや、目覚ましまではかけられたとしても、低血圧のせいで結局ギリギリまで寝てしまうこの体では、毛頭無理な話である。だから出会ってしまったのだ。これは出会わされたといっても過言ではないんじゃないだろうか。

家を出てから1番初めに通過する信号付き横断歩道で、事件は起こった。走りづらい環境の為に、気付かぬうちにずれてしまっていた時間。これによって、半分渡りきる頃には青信号が点滅していた。

まずいと思い加速しようとしたその瞬間。真横を、高めのヒールで、コツコツ音を立てながら歩いていた女性が、ツルッと言う音が聞こえてきそうな勢いでコケた。上手く言い表せないがこう、ツルッと。それはもう盛大に。

それに気を取られたぼくは、あろう事か左ブレーキを握りしめる。それによって自転車は大きくスリップ。結果はお察しの通りだ。腰から落ちたぼくは、ゆっくりと起き上がり、びっしゃびしゃになったズボンを引きづりながら、色んな気持ちを持って彼女の元に向かう。転ぶであろうことは想定できたはずなのに、こんなにツルッツルの路面で、コツコツといい音を奏でながら、急ぎ足で歩いていた彼女への怒り。ビジネススーツであろう服を、自分と同じくびっしゃびしゃにしてしまった彼女への哀れみの気持ち。多少は気をつけていたのだろうが、不運にも滑ってしまった彼女を労わろうとする気持ち。その全てを持って彼女に手を差し伸べる。大丈夫ですか、と。

しかしながら彼女は、そんなぼくの手など借りる必要も無いと言わんばかりのパワフルな立ち上がりを見せ、手を差し伸べる為に前かがみになったぼくを、ゴミを見るかのような目で見下し、あろう事か、ひとりで信号を渡りきった。

とりのこされたぼく。次第に信号は赤に変わり、道のど真ん中に投げ捨てられた自転車とぼくは、この道を通らんとする車の山から、溢れんばかりのパッシングを受けた。

あーもう最悪だ。これだから2月は嫌いなんだよ。動機は不純だが、再確認せざるを得ない状況でしっかりと心に刻んだその2月の初めは、恒例行事の如く、今年も劣悪極まりないスタートを切ったのであった。

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