【初心者向け】レニャード様の作り方、大公開!
レニャード様はがんばりました。
リアさんを見かけては話しかけ、友好を結ぼうとするお姿はそれは愛らしいものでした。
私もリアさんに媚び媚びしてせっせと処刑されないようにしてるけど、どうもリアさん、反応薄いんだよね。王子も公爵令嬢もめんどくさいなーって、ちょくちょく顔に出てる。
とくに進展もないまま二か月が経過し、そろそろ見習い聖女たちも寮生活に慣れ、外出が許される頃合いになってきました。
「さて、今日もリアの顔を見にいくか」
「はーい」
私が『ロイヤル・テール』号を抱えてリアさんがいそうなスポットをうろついていると、女生徒の鋭い声が聞こえました。
「パリス・サラだ。またか」
レニャード様がそう言ったので、私は急ぎました。
それって、いつかのときみたいに、ルナのいじめイベントが発生してるってことだよね。大変だ。
「あなたね、少しは立場ってものを弁えてはいかが!?」
パリス・サラ様の凛とした怒声が響く。
「昨日のあの態度は目に余ります! おそれおおくもレニャード王子殿下に直々のお声がけをいただいてるのにもかかわらず無視するなんて、そんな失礼なことをする人がありますか!? あなた、いったいどなたの御温情でこの学園に通えているとお思い!? 信仰の守護者たるシンクレア王家のおはからいによってこの聖女宮は成り立っているのですよ!?」
うわー、けっこうガチめに怒られてる。
ぶっちゃけると私もそう思うけど、落ち着いてー!
「やー、だって、最近しつこいもんだから……なにかっていうと私のところに来ますよね、ふたりとも……」
おっと。悪口を言われてるよ。
今私たちが飛び出していったら、仲裁をするどころか、話がもっとややこしくなりかねない。
私は急遽、近くの壁に身を潜ませた。
「名誉なことだとはお思いになりませんの!? レニャード様やルナ様に目をかけていただけることを、この学園の者がどれほど待ち望んでいることか!」
レニャード様かわいいもんね。
レニャード様の肉球でぷにっとしていただくことを聖体拝領とか肉球拝領って呼んだ人がいたけど、あっという間に流行ってたし。レニャード様、一時期いろんな女の子のおててをぷにっとしてあげてたもんね。
「だいたいあなた、レニャード様のことを抜きにしても、人としての礼儀作法というものがまったくなっていなくてよ! いつだったか、あなたはルナ様に、自分の学業を支援してほしいなんて申し上げてましたわね! 王家から奨学金をもらっている立場で、なぜそのようなことが言えるのですか!? それが王太后陛下への批判になり、ルナ様への乞食行為になるということに、どうして考えが及ばなかったのですか!?」
あ、ずいぶん前の話も蒸し返しますね。
あのとき怖い顔で睨んでたのは、乞食が気に入らなかったからなんだね。やっとわかったよ。
「しかもあなたは、レニャード様のぬいぐるみも断っておしまいになったわ! あなたね、人からいただくプレゼントを断る人がありますか!?」
さてはパリス・サラ様もあのぬいぐるみ欲しかったのかな。
「レニャード様はねえ! あなたのために一生懸命、フェルトをこねこねして、あのちっちゃなおててで工作をなさいましたのよ! それがどれほど尊いことか……! 猫の肉球で工作するのがどれだけ大変か、あなたはご存じないのだわ!」
そうそう、細かいところは無理なんで、目をつけたりお耳に三角の布を張ったりは私がやりましたよ。でもフェルトを爪でぷすぷすしたのはレニャード様ですから、ほぼレニャード様作と言っても間違いではないですよね。
「おい、ルナ、止めないのか?」
「待ってください、いま出ていくタイミングを考えているので」
「ええい、まどろっこしい!」
業を煮やしたレニャード様が、ぴょこんとカゴから飛び出ていった。
慌てて私もあとを追う。
「おい、よせ!」
レニャード様と私の登場で、軽くパリス・サラ様が悲鳴をあげた。
「レニャード様……!」
「リアは悪くない。考えなしに贈り物を押しつけた俺が悪いんだ。パリス・サラ、お前にも心配をかけてすまなかった」
パリス・サラ様の靴に、自分の頭をすりんとこすりつけるレニャード様。
ああああああ、レニャード様素敵。
原作レナード王子が、このイベントで『俺の贈り物を喜ばないやつがいるとは思えない』って言ってたのと比べるとすごい成長だよ。原作王子を成長させるのは主人公リアだけど、レニャード様は自分で成長したんだからね。なんて賢くかわいい猫ちゃんなんだろう。ますます好きになっちゃいそう。
「しかしリア、俺はお前に聞きたいことがある。俺たちは、お前に興味があるんだ。もしかしたら次の伝説の聖女はお前なんじゃないかとも思っている」
「へへ……どうも」
「だが、しつこいとはどういうことだ? お前は、俺たちにつきまとわれていると感じていたのか? もしそうなら、それについても詫びねばならん」
あああああ、ちゃんと反省できるレニャード様かわいいよかわいいよ。
私が密かにメロメロになっているとも知らず、レニャード様は真剣な顔でリアさんを見ている。
「あ~……、いや、そんなつもりはなくってですね……」
リアさんはちょっと気まずそうにした。
「実は私、動物に触ると、くしゃみが止まらなくなっちゃう体質なんですよね」
アレルギーなんだ!?
そっか、だから一緒に食事したがらなかったんだね。
疑問が一気に氷解したよ。アレルギーならしょうがない。
「そんなオモシロ体質が存在するのか?」
「あ、あります、ありますからレニャード様、興味半分に触っちゃダメですよ」
リアさんにひょこひょこと近寄るレニャード様を、私はあわてて抱き上げた。
「レニャード様もタマネギを切ったら涙が出るでしょう? 同じですよ。毛でくしゃみが出る人もたまーにいるんです。本当に辛いらしいですから、やめてあげてください」
「そうなのか……それは知らなかった」
アレルギーなのに、猫がテーブルの近くにいたら、ごはんどころじゃない。食事に毛とか混ざることもあるから、リアさんは嫌だったのかも。
レニャード様に近寄りたがらないのも、触られるとちょっと迷惑そうだったのも、アレルギーだったからなんだ。
それは気づかなかった。
リアさんは気にしないで、という風に首を振って、口を開く。
「あの、私がぬいぐるみを断ったのも、よくなかったですよね……レニャード様、あのときはすみませんでした。私、レニャード様が作ってくれたときの気持ちも考えずに、失礼なことを言っちゃって……」
リアさんは、ぺこりと頭を下げてくれた。
「もちろんお気持ちはうれしかったんですけど、あのときは猫の毛がついてそうだと思ったら、うわ、いらないやって思っちゃって……つい」
「そうだったのか……」