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「リア。お前、俺の色紙が気に入らなかったのか?」
「え……いえ、その……」
リアさんは冷や汗ダラダラという顔をしてる。そりゃそうだよね、あんなに盛大に悪口言っちゃったんだから、気が気じゃないよね。
レニャード様は、そこでニヤリとウィスカーパッドの片方をめくりあげた。片方の犬歯がむきだしになり、ひげが上向きになる。
ニヒルな笑みを浮かべたレニャード様が、肉球のついたかわいいおててをびしっとリアさんに差し向けた。
「だが、リアよ、喜べ! こんなこともあろうかと、第二の下賜品を用意してある!」
レニャード様は、『ロイヤル・テール』号の中から、じゃじゃーん! と何かをくわえて、引っ張り出した。
丸いオレンジのフェルトを二つくっつけて、頭に三角の耳を生やしたぬいぐるみは、レニャード様にそっくりだった。
かわいいフォルムのキーホルダーを前にして、パリス・サラ様も怒るのを忘れて、目をキラキラさせた。
「まあ、素敵ですわ!」
「か、わ、いー!!」
私も一緒になって悲鳴をあげた。マジでマジでかわいくない?
「ふふん! これは、かわいい俺をモデルにして作った、俺の手づくり魔除け人形だ!」
どうだ! というどや顔になるレニャード様。
私はもう一回悲鳴をあげた。
「かーわーいー!! かわいすぎます、レニャード様!」
「お前、俺様の新アイテムをもらえるとは運がいいな! これはまだ最近作り始めたやつで、限られた俺の側近しか持っていないのだ!」
「まさか……まさか、レニャード様、このすばらしいグッズを、リアさんに……?」
「ああ、そうだ! リア、お前にやる! 歓喜のうちに受け取るがいい!」
レニャード様が両方のおててでマスコットを挟んで、ちょいっとリアさんに向けて差し出した。
か、かわいい……! 渡す姿もチャーミングだなんてレニャード様、最高です!
差し出されたリアさんは、困ったような顔をしている。
「よかったですね、リアさん! レニャード様も心をこめて作ったものだそうですから、大事にしてあげてくださいね!」
私が念を押すと、リアさんは、困ったような顏で、でも、きっぱりと言った。
「いえ……あの、いらないです」
ひゅう、と、冷たい風があたりに吹き渡った。
「あの……ほかにほしい人がたくさんいるみたいなので、なにも私に渡さなくてもいいんじゃないかなって……それは、そちらの上級生の方にあげてください……私は遠慮しときます」
さすがのリアさんもまずいと思ったのか、やや早口で説明をした。
びっくりして真っ白になるレニャード様。
激怒状態でわなわな震えるパリス・サラ様。
「あ……あなたねえ……!」
「わ、わー! お昼休みが終わっちゃう! ねえ、よかったら、みんなでお昼を食べにいきませんか? 全部私がおごるので、リアさんも!」
もうやめて、これ以上争わないで。
そんな私の念話を、賢そうなパリス・サラ様はさっと受信してくれた。
「……わたくしは結構でございます! ながながとお引き留めしてごめんあそばせ! では、ごきげんよう!」
きびすを返すパリス・サラ様。
「あ、あのー……私も、お弁当があるので、失礼しますね……」
リアさんも、そそくさと逃げ出した。
あとには、放心状態の私とレニャード様だけが残った。
***
入魂のフェルト人形を断られたせいか、ランチをとっている間、レニャード様は口数が少なかった。
しょんぼりとさがったおヒゲとお耳が痛々しい。
「変わった子でしたね、リアさん」
私が話しかけると、レニャード様は応える気力もないのか、ぱたりと弱々しくしっぽの先を動かしただけだった。
「気にしなくていいですよ、レニャード様。あの子はきっと猫が嫌いなんです」
レニャード様は、ぽつりと悲しげにつぶやいた。
「猫が嫌いなやつなんているんだな……」
「いますよ。仕方がありません、レニャード様。レニャード様も、大嫌いなタマネギを無理やり食べさせようとする人がいたらどう思いますか?」
レニャード様は目と耳を三角にとがらせた。
「そんなやつとは絶対に仲良くならん!」
「でしょう? 無理強いはよくないのです」
レニャード様はすぐにまた耳を下げる。
「あいつにとっての俺は、タマネギみたいなものなのか……」
「世の中にはタマネギが大好きな人もいます。蓼食う虫も好き好きです。そして私はレニャード様が大好きです」
レニャード様はうれしそうに、ぴょこんと耳を立てた。
はぐはぐと目の前に置かれたごはんを鼻にしわを寄せて食べ、すくっと立ち上がる。
レニャード様の不屈の精神は、しっぽをして高々と持ち上げさせた。
「ふん、この俺のかわいさが通用しないとは、面白い奴だ!」
あ、乙女ゲーっぽい。
だいたいの乙女ゲーで、俺様王子は自分に媚びを売らない女の子を新鮮に感じて、構い出すんだよね。
こんなにも王道俺様王子な台詞がかつてあったでしょうか? いいえ、ありません。
忘れがちなんだけど、レニャード様ってやっぱり乙女ゲーの王子様なんだね。
「ならば俺は、もっと人間らしく振る舞えばいい、ということだな!」
「そんなこと、できるんですか?」
「俺を誰だと思っている? シンクレアの王子だぞ!」
調子に乗っていますね。
レニャード様は毛並みを自慢してるときと、王子の生まれを自慢してるときが一番かわいいなぁ。
「臣下のひとりくらい懐柔できないでどうする! 他でもないルナのためなのだから、多少の屈辱は飲んでやるさ! リアめ、今に見ていろよ!」
レニャード様はごはんが終わった口元をくしくしとおててでこすり落としてから、私のそばにきた。
私の腕にぴったりと体を寄せてくるレニャード様。
「もう、レニャード様、ごはん食べにくいですよう」
えへへ、でもかわいい。
「ちょっと疲れたから、眠る! 腕を貸せ!」
「はいはい」
ああ~もう、レニャード様にぴったりくっつかれると幸せで脳みそ溶けちゃう。つやつやの毛並みかわいいです。
「……ルナ。俺もお前が好きだ」
「え?」
「なんでもない!」
いえ、ばっちり聞こえましたけど。
レニャード様は照れ隠しをするように、丸くなって寝てしまいましたとさ。
なんてかわいいのでしょうか。もう私しんどいです。




