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【実況】王子様が不具合(バグ)でした【猫化バグ】  作者: くまだ乙夜
第三章

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【実況】バグだらけ? 噂のガチ恋王子プレイレポ Part1


 断腸の思いで私が言うと、レニャード様は大喜びした。


「ありがとう! ルナ! 愛してる!」


 レニャード様のしっぽには勝てませんでした。あとでたくさんお水飲ませなくちゃ。


 そのうちに、聖女宮の鐘が鳴った。すべての活動終了、これから放課後です、の合図だ。


「いけない、もう行かないと」


 少年がふと、私に目をやった。


「ところで、君の名は?」

「私、レニャード様の婚約者で、ルナ・ヴァルナツキーって言います」

「そうだったんだね。僕はてっきり、レニャード様のお世話係かと思ってたよ」

「似たようなものです」

「こいつに俺のお世話をさせてやっている!」


 レニャード様はなぜか偉そうに言って、後ろ足だけで立ち、腕組みをした。猫のおてて、意外と柔軟。


 少年は大笑いして、レニャード様を撫でくりまわした。レニャード様は撫でられるのが好きじゃないはずなんだけど、小魚の恩があるからか、避けたりしなかった。


 いいなあ。ずるいなあ。私も煮干しで釣ってレニャード様にすりすりされたい。


「それにしても意外だなあ~」


 少年が笑いながら言う。


「レニャード様といえば、ザイストファルド公たちの反乱を身体を張って鎮めたり、兄王子を強制的に隠居させたりして宮廷の地固めを抜かりなくやった、英明な王子って、下町ではすごい評判なんだけど……」


 えい……めい……?


 私は思わず、レニャード様を見つめてしまった。不純なものが一切ないのできらきらと輝く無垢なおめめ、しばしば半開きになりがちな緊張感のない丸い口元。


 レニャード様の視線は、少年の手元に釘付けだった。ときどき少年がいたずらで小魚の入った袋を振るのだ。今にも飛びかかりたそうにうずうずしている。


 うーん、英明。そりゃ、この四年間、死亡フラグ回避のためにいろいろしたから、人となり抜きで功績だけ並べたらそんな風にも見えるかもしれないけど……


 レニャード様、どこまでいっても中身は能天気な子猫ちゃんだからね。英明って言われるとちょっと変な感じしちゃう。


「本物のレニャード様が、こんなに親しみやすいかわいい子だなんて思わなかったな! 僕、レニャード様のファンになってしまいそうだよ!」


 ああー、ぜひそうしてほしいです。


「実は、レニャード様のファンクラブというものもあるのですが」

「ええ、なにそれ!?」

「入会すると、年に一回レニャード様の特別コンサートに呼んでいただけます」

「コンサート……?」

「ええ。聞いて驚かないでほしいのですが、なんとレニャード様、タンバリンが演奏できるんです」


 少年は顔をくしゃくしゃにして笑った。


「うっわ何それすっげえ! レニャード様が演奏すんの!? マジで!? それはぜひ聞いてみたいなあ!」

「入りましょう、ファンクラブ。愛でましょう、レニャード様。レニャード様はとってもいい人ですよ。みんなに分け隔てなくおやさしいですし、政治のセンスもなかなかです」


 ですから、処刑とかはやめてくださいねー。


 国家転覆とか図らなくても、レニャード様はちゃんと名君になりますからねー。


 私は言葉の裏にメッセージをたくさん込めたけど、三番目の王子様にちゃんと伝わったのかどうか。


「分かった。僕もファンクラブに入るよ! どうしたらいいの?」

「小魚! 小魚くれ! 小魚!!」


 レニャード様がぴょんぴょん跳ねて小魚入りの小袋を狙う。

 もう動きが完全にドラ猫のそれですね。いえ、それがレニャード様のかわいらしいところなんですけど。


「……よかったら、そちらの小魚を少し分けてもらえませんか?」

「いいけど……今日はあんまり持ってきてないよ。また今度でよければ、まとまった量を持ってきてあげるけど」

「また今度っていつだ!? そんなに長く待てないぞ!!」

「僕はお嬢様の従者として来ているから、お嬢様の授業が終わるまでは暇してるよ」

「なら、明日の昼休みだな!」


 レニャード様が一方的に宣言。

 でも、少年は笑ってオーケーしてくれました。


「あの、ところで、あなたのお名前は?」


 私が尋ねると、彼はとびきりの笑顔を向けてくれた。


「僕はイリアス・デラス! ヘイズ伯爵令嬢のお付きの人だよ!」


 こうして、三番目の王子、イリアス様との出会いイベントは終了したのでした。


***


 イリアスは、誰も見ていないのを確かめてから、くすっと笑った。


「思ったより、早く会えたな」


 浮かれてしまっているのか、ひとりでに言葉がもれる。


「……兄さん」


***



 イリアス王子との出会いイベントが終わったあとも、私たちはリアさんを探してあちこちをうろうろしました。


「レニャード様、いました!」


 私たちがよく抜け道に使っている裏庭の塀あたりに、ひとりの女子生徒がいた。


 ピンク色の髪をして、制服を着ている後ろ姿が、木立の隙間から見えている。


「あいつで間違いないのか?」

「はい。それで、最初の出会いはレニャード様が塀の上から降ってきて、リアさんの上に着地するところから始まります」

「そうか……なんだかよく分からんが、塀から飛び降りればいいんだな?」


 レニャード様は抜き足差し足忍び足でそっと塀に近寄り、さっと上に飛び乗りました。


 そして、女子生徒の死角からジャンプ。


 レニャード様は、見事にリアさんの背中に、びたーん! と貼りつきました。


「きゃああああ!」


 悲鳴をあげたリアさんにレニャード様はびっくりして、すかさず地面に着地。


「おい、大丈夫か!?」

「きゃああああ! 何かふってきたああああ!」

「落ち着け、俺だ! よく見ろ、俺のかわいい姿を!」


 リアさんはこわごわ目を開ける。


 足元にいるのは、オレンジ色の毛並みをして、入学式用の赤いビロウドのマントを羽織った、世にも愛くるしい猫ちゃん。


「ふふん、驚きで声も出ないか? いいだろう、特別に許してやる! 誰でも俺の愛らしい姿を初めて目の当たりにしたやつはそうなるのだ!」


 リアさんは、しばらく固まっていたけれど、やがておそるおそる口を開きました。


「ね……猫が、喋ってる……?」

「うわははは、そうだ! お前も俺のうわさくらい聞いたことあるだろう! 俺が、俺こそが、レニャード・バル・アッド・シンクレアだ!」


 レニャード様は、友好の握手を求めるちんまりしたおててを、颯爽と差し出しました。


 尻もちをついたリアさんは、わけも分からず、といった風に、その手を握りました。


「リ……リア・クラフトマンです……リアって、呼んでください……」


 レニャード様は、びっくり仰天のリアさんを見て、また高笑い。


「さては俺がかわいいから見とれているな!? うわははは、許す!」

「なんで、猫ちゃんがお話をしているの……?」


 リアさんが混乱しているので、そろそろ私の出番かな。


 私はすすすっと近寄っていった。


「こんにちは。私は今日から聖女宮に入学する、公爵家のルナ・ヴァルナツキーです」

「あ……どうも」

「それでもって、そっちの喋る猫ちゃんの婚約者をやってます」


 リアさんは、ますます混乱したというように、絶句してしまった。


 あれ? 失敗したかな?


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