【過去回想】中の人の壮絶人生が涙なしでは見られない件について
ルナの中の人、ミケの過去回想が入ります。
第一話の薄幸な人生を少し詳しく書いていますので、苦手な方は次回まで読み飛ばすことをおすすめします。
なお、主人公が酷い目に遭うシーンはありますが、猫が酷い目に遭うシーンは出てきません。
猫の死については詳細を伏せてあるので、猫好きの皆様は安心して読み進めてください。
私の親でさえも、ことあるごとに言っていた。
『お前は兄にそっくりだ! ヘラヘラして事件の被害者に申し訳ないと思わないのか! ご遺族の気持ちを考えたらお前が楽しそうに人生を謳歌してはいけないことくらい分かるだろう!』
『もっと申し訳なさそうに暗い顔をして生活できないの!? あなたたちがしっかりしないから、いまだに嫌がらせが後を絶たないんでしょう! 自業自得よ! あなたたちのせいで私たちまでこんな目に遭わないといけない! おかしな子がふたりも生まれたせいで私の頭もおかしくなりそうよ!』
私が自殺したとき、兄の量刑はまだ確定してなかったけど、恐ろしい犯罪の割に、少年犯というだけで大幅に減刑されそうだってことは物議を醸していた。
それに怒った人たちが、私的な制裁を求めて何をしたかといえば、まあ、前にも言った通りなんだけどさ。
なぜかネットに流出する私の名前、写真、住所、学校。なぜかって、そりゃ執拗に付け回したり、面白半分に私の情報を売ったりする人がいるからなんだけど。もしかしたら私が若い女だったせいもあったのかもね。
知らない人から頻繁にかかってくる電話。
家の周りに停まっている不審な車両、匿名で飛び交う心無い中傷。
『妹も同じ目に遭わせて殺してやればいいのに』
被害者遺族に平身低頭でお詫びして、粛々と賠償金を払い続ける一方で、不満を私と兄にぶつける両親。
『お前たちのせいで私の人生はめちゃくちゃだ! もううんざりだけど自殺もできない! お前を養わないといけないから! お前のせいで!』
極度のストレス下で、それでもどうにかして働いてお金を得、遺族に謝罪し続けなければならない両親が、自分の心を守るために選んだのは、『子どもたちは生まれつき異常だったから、自分たちは何も悪くない』、と思い込むことだった。
やがて私が一人暮らしをするようになっても、家の周りに不審ないたずらをされることはしょっちゅうで、それは何度引越しをしても無駄だった。
外されるドアスコープ、壊される郵便受け。家の前に置かれる汚物、不審物。
玄関の前に丸いものがいくつも落ちているので、何かと思ってよく見たら、首吊り用の紐に見立ててくくった、ビニールの紐だった。
それが、何百個も置いてあった。
まるで、その紐で、『お前も自殺しろ』とでも言うように。
設置した人が、どんなつもりで置いていったのかは知らない。面白半分にやったのかもしれない。
でも、この紐を一つ一つ手づくりする間にも、制裁をする快感に酔っていたのではないかと想像すると、私は、ヘタに暴行を加えられるよりもよほど気持ちが悪く感じた。
そして、私は飼い猫も失った。
――思い出すだけで嫌になるから、猫の話はやめておくね。
とにかく、原作のレナード王子は、確かにお馬鹿でウザかったかもしれないよ。
でも、彼は、処刑されなきゃいけないほどの罪を犯したの?
彼はただ、好きな女の子へのアプローチの仕方を間違ってしまっただけ。一度も暴力なんてふるってないし、そもそもが全部よかれと思ってやったこと。
それの制裁が、処刑だなんて、いくらなんでもあんまりじゃない?
私にとっては、イリアス王子が言う因果応報の言葉のひとつひとつが、気持ち悪くてたまらなかった。
正義を求める行き過ぎた人たちの過剰な報復感情が、ただひたすらに気持ちが悪くて、ただのゲームで、娯楽作品であっても、もうこれ以上続けて観ることはできないと思った。
というわけで、イリアス王子のルートは、私のトラウマ踏み抜きルートとして、私の心に強く刻まれていたのでした。もしかしたら、レナード王子のルートよりも鮮明に覚えているかもしれない。だってプレイしている間私の心が死にそうだったからね!
初日から、とんでもない子が出てきちゃったなあ。そのうち出てくるかもしれないとは思ってたけど、まさか主人公より先に会うなんてね。




