【新衣装】このゲームの制服が可愛すぎる件
フルツさんもこの四年間でちょっと変化しました。無口なのは相変わらずですが、猫ちゃん愛が増して、勝手にレニャード様一の忠臣を名乗るように。
彼も黙っていたら作中最強の寡黙な騎士なのに、どうしてこうなってしまったんでしょう。残念度が上がっています。せっかくの落ち着いた雰囲気も台無しです。一見クールなのに主人公だけはべたべたに甘やかしてくれるってところがフルツさんの人気の秘密だったはずですが、今フルツさんの寵愛を一身に受けてるのは猫のレニャード様ですからね。いったいどこで道を間違えてしまったのでしょう。
「なあ、フルツ。俺もそろそろ乗馬を始めようかと思っているんだが」
レニャード様にそう話しかけられて、フルツさんはごとりと手に持っていた『ロイヤル・テール』号を取り落としました。
「レ……レニャード様が馬にお乗りになるのですか……?」
「ああ……そろそろ、必要な場面もあるかと思ってな」
「失礼ですが、いったいいつ、どんな場面で……?」
フルツさんは、本当に分からない、という顔をしていた。
「ほ……ほら、敵襲があって、ルナを連れて逃げなきゃいけない場面もあるかもしれないだろ。虎モードだとそんなに長距離は走れないし」
「ルナ様がレニャード様を馬に乗せて逃げればいいのでは?」
「だから、それだとかっこつかないだろ!」
「いえ……本当に失礼ですが、猫の手で、いったいどうやって馬に乗るおつもりなのでしょうか……?」
うん、それ、私も気になった。
レニャード様は今でこそたまに人型になれるけど、まだそんなに長くは変化していられない。馬に乗って移動するほどの時間は化けてられないんだよね。
で、普段はイエネコサイズでしょ?
レニャード様が馬の鞍に我が物顔でこてーんと寝転んでたら、そりゃあかわいいかもしれないけど、手綱を握るのは無理だよね? 馬の力に負けて、引きずり降ろされちゃうよ。
かといって、虎モードだと、重すぎて馬に乗せられなくなっちゃうし。馬が潰れちゃうよ。
「方法はまだ考えてない。が、いつまでも『ロイヤル・テール』号に乗ってるわけにもいかんだろう。やはり、王子たるもの、馬ぐらい乗れないようではな。それで、まずお前に相談しようと思ってな。こういうことは、フルツに聞けば間違いない。だろ?」
「ええ……光栄です」
フルツさんはちょっとにまーっとした。すぐに両手で顔を覆って隠したけど、あれは頼られてうれしいって顔だね。フルツさんたら、すっかりレニャード様の下僕になっちゃって。
「……手綱の制御は、はっきり申し上げて無理だと思います」
「そこをなんとかしたいのだ」
「ならば、やはり魔術制御を検討するしかないでしょう。一流の騎士は両手で槍を持ち、魔術によって馬を操ります」
「魔術か……」
「レニャード様も、両手両足で鞍にしがみつき、魔術によって馬を操れば、きっと可能でしょう」
馬って意外とスピード出るからね。
猫ちゃんが一生懸命鞍にしがみついてたら……どうしよう、すごくかわいい絵面になりそう。
「なんだか、あんまりかっこよくなさそうだな……」
「かわいいですよ。ねえ、ルナ様?」
「絶対かわいいと思います」
「がんばって練習しましょう。レニャード様がさっそうと馬を乗りこなせば、きっとルナ様もお喜びになります」
「そうか! ルナもかわいい俺の姿が見たいか! ならば、練習しなくてはな!」
レニャード様がはりきりだした。
フルツさんもうれしさが抑えきれないみたいで、デレデレしている。たぶん、レニャード様に頼られてうれしかったんだろうね。
こうしてフルツさんは、猫ちゃん好きのダメな大人へと順調に成長しているのでした。
***
私がレニャード様と別れて自分の家に戻ると、侍女のエミリーが声をかけてきた。
「ルナ様、制服ができあがりましてございます」
大きな箱が置いてあって、エミリーがふたを開けたら、たたんだ制服が入っていた。シスターさんっぽい紺色のワンピースに、両側面に白のアラベスク模様が入った黒靴下、白いケープ、メリージェーンのフラットシューズ。
「せっかくですから、お召しになってみませんか? ディナーには、公爵夫妻もいらっしゃるとうかがってます」
「うーん、でもこれ、汚しそうで……」
クリーム色のケープはかわいいけど、絶対ソース汚れ目立つよね。
入学式初日から汚れてたらカッコ悪いじゃん。
「ルナ様、年頃の淑女たるものソースを飛ばさずに食事ができずにどうしますか」
「うっ……」
そうでした。公爵令嬢ってふつう、そんなにがつがつ食べないもんね。
「制服姿のルナ様がいらっしゃったら、ご両親もお喜びになると思いますが……」
「……分かった。じゃあ着るから、手伝って」
制服は寮生活を想定してあるからか、着脱はそんなに難しくなかった。
最後に髪をくるんくるんに巻いて、気が強そうなドリルロールを作ったら、ゲームで見たルナさんのできあがり。
私は鏡を見て、思わず言ってしまった。
「悪役令嬢!!」
この派手でけばけばしい感じ、どう見てもヒロインじゃなくて悪役です。
「ねえ、このドリルロールやめない……? エミリー……」
「しかし、公爵令嬢たるもの、お顔まわりもできるだけ装飾を多く、華やかに仕上げなければならないと、公爵夫人が……」
そうでした。
ヴァルナツキー夫人は元ヴァルナツキー国の公女だから、ルナにも王族にふさわしいゴージャスな服装を……といつも気を使ってくれてるんだよね。シンクレアの公爵位をもらったときに、公女の称号は使えなくなっちゃったんだけどさ。
「本来であればティアラもほしいところですが」
「学校生活でティアラはちょっと……」
「では、せめてつけ毛を増やして、頭も高く……」
「盛り髪もちょっと……」
エミリーは困ったように頬に手を当てた。
「王族筋の公爵令嬢には、それにふさわしい装いというものがございます、ルナ様」
つまり、ドリルロールが一番ましってことだよね。
こればっかりはしょうがない。
「分かった……もう文句言わない。エミリーの思うようにして……」
「それはようございました……」
エミリーは鏡ごしに私に微笑みかけ、ふと言葉を失った。
「……どうしたの?」
「あ、いいえ。とてもおきれいですよ、ルナ様」
「うん……ありがとう」
どうしたんだろうと思ってエミリーを見ていたら、視線に気づいたエミリーが苦笑した。
「申し訳ありません、少し昔のことを思い出しておりました。ルナ様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、お小さいころのルナ様は、この髪型がたいそうお気に入りで……あれからずいぶんいろいろあったものですから、ふと懐かしくなってしまったのです」
「そっか……」
ルナさんのお気に入りなんだったら、私としても無下にはできないよね。
「エミリーに髪を整えてもらうのは好きだよ。これからもよろしくね」
私が鏡越しににこっとすると、エミリーも一緒に笑ってくれた。
エミリーは四年前と変わらず優しいです。




