【小休止】レニャード様の新イベスチルと全文まとめ記事 ←new!!
私とレニャード様は、花壇のすみにあったベンチに並んで腰かけた。
人の家の庭に勝手にお邪魔するのは悪いことだけど、緊急事態なのでしょうがないよね。見つかっちゃったら、あとでごめんなさいしにこよう。
レニャード様は私の膝に顎を載せて、心なしかぐったりしていた。やっぱり落ち込んでいるみたい。いくらレニャード様が不死鳥のようなポジティブマインドでも、いきなり発砲されたら、そりゃ傷つくよね。
何か気晴らしが必要かも。
「……不謹慎かもしれないですけど、こうやって隠れてると、私たち、駆け落ちしてるみたいですね」
「駆け落ちってなんだ?」
「えっと……結婚を反対された男女が、すべてを捨てて新天地に行くことですね。私とレニャード様は、これから誰も知らない土地に行って、二人で結婚式を挙げるのです! どうですか、ロマンチックじゃないですか?」
レニャード様はぽかんと口を開けて、間抜けな顔になった。
「……呑気だな。もう少しで銃で撃たれるところだったってのに」
「私は、別に……レニャード様が一緒だったらどこでも天国ですね」
一回死んでるからね。ある意味本当に天国みたいなとこだよね。
「ブラシ、持ってきたらよかったですね。せっかくいい天気ですし、ここでくしをかけたらきっと気持ちいいですよ。あ……でも、毛玉が出ちゃうかな。持って帰らないと家主さんに悪いですよね」
レニャード様はブシュッと鼻息だけで笑った。ちょっと鼻で笑うのでも、虎ぐらい大きな生き物になるとすごい音がするんだ。
「お前は次から次に変なことを思いつくな」
「昔からよく、まじめにやりなさいって言われてました」
「いや、いいんじゃないか? 俺は……お前がいてくれると、ほっとする」
レニャード様が褒めてくれたので、私もお礼に撫でてあげました。
よすよす。
「お前は俺が精神的に参っていると必ず変なことを言い出す。あれは、わざとやってくれているんだろう?」
「いえ、素でこれですね……」
なんだろうね。昔から、ひょうひょうとして何を考えているのか分からないってよく言われていたよ。だからよく、あなたはやればできるんだから、ふざけてないでまじめにやりなさいって怒られてた。
でもね、私、別にふざけてるわけじゃないんだよね。嫌なことがありすぎてうわーってなったときは、ふざけたりしないとやってらんなくなるんだよ。全然ひょうひょうとなんてしてなくて、本当は、すごく悲しかったり、苦しかったりしてたんだ。
「でも、お前はよく物事を観察してると、俺は思う。お前の賢さには、何度助けられたか分からない」
「えぇ、どうでしょうか……」
前世でも賢いなんて言われたこと一度もありませんけどね。
「先の展開を知ってる強みとかはあったかもしれませんが、私のは、レニャード様の欲目だと思いますよ。ふざけた態度の人を見て、腹が立つなあと思うか、それとも和むなあと思うかは、割とその人が好きかどうかで大きく違うと思うので」
私はレニャード様の頭を高速でよすよすした。
「レニャード様にかわいがっていただけて、ルナは幸せ者です」
自分で言うの、ちょっと恥ずかしいな。
レニャード様は笑ったりせずに、のどをゴロゴロ鳴らしてくれた。うわ、虎のゴロゴロ音って響くね。レニャード様の顎を乗せている太ももがビリビリしますよ。
「……ああ。俺は、お前がかわいい。お前みたいないい娘が俺の婚約者でいてくれるのが、ときどき信じられないくらいだ」
「えぇ、そんな……私、誰に対してもいい子とかではないですけど、レニャード様のためなら、ちょっとがんばろうかなって思います」
ルナさんがいなくなったあと、私があとを引き継いだのは、きっと偶然じゃなかったんだと思う。私ならルナさんの代わりができるって、ルナさんから思ってもらえたから、呼ばれたんだって。私はそう、信じてる。
私の膝に顎をのせてゴロゴロ言っていたレニャード様が、ふいにころんと転がって、あおむけになった。
わー、おっきな口。
頭をなでなでしていた手の行き場がなくて、軽くバンザイしている私に、レニャード様が前足を伸ばした。
うわー、すっごい大きな手。輪切りにしないでね。
ちょっとドキドキしている私に、レニャード様が手を伸ばしかけて、やっぱりやめてしまった。
「……だめだ。制御しきれる自信がない」
「あはは……もうちょっと練習いりそうですね」
レニャード様はイライラしたように、おててをぐっぱーした。大きな爪がじゃきんと飛び出て、私のドキドキは倍になった。やだなー、恋心よりドキドキしちゃう。
「ああ、くそ。どうしていつもうまく行かないんだ。せっかく大きな体になれて、これでようやくお前の髪に手が届くと思ったのに……」
「髪の毛……?」
私はなんとなく、頭をさっさっと手で整えた。髪の毛乱れてた? やだなあ。
「俺が人間だったら、シスルみたいに、お前の髪に花を飾ってやることもできた。フルツみたいに、剣を取って、お前を守ってやることだってできた。さっきだって、人間の姿にさえなれたなら、お前を危険に晒すまでもなく、その場を収められたんだ……」
レニャード様は、前足をそっと降ろした。胸の前で、くの字に折りたたむ。
「俺だけが、いつもお前に何もしてやれない。もう、嫌なんだ。先生は、強く念じればいいと言う。まだ足りないのか? 俺はこんなにも元に戻りたいと思ってるのに……」
ごめんなさい、レニャード様。すごくまじめなお話の途中なんですが、お化けポーズがかわいすぎて無理です。何にも頭に入ってきません。
「元に戻れたら、お前だってもっと俺のことが好きになるはずなんだ」
キラキラした無垢なおめめのレニャード様にそう言われ、私はびっくりしてしまった。
「こ……これ以上、どう好きになれと……?」
「あのな……いくら俺がかわいくて、お前がいいやつでも、猫や虎を夫にするのは、やっぱり無理があるだろう」
「えっ……?」
「えっ……? てなんだ。驚くところか?」
「いえ……無理があるとか思ったことがなかったので……つい……」
「本気か、お前……」
レニャード様に呆れられてしまった。
そういえば私、どうせすぐ死ぬしと思って、あんまり深く考えたことなかったなぁ。
「私は、虎のレニャード様と結婚でも全然いいんですけど……」
レニャード様が何か言いたそうにこっちを見てる。
どんな姿だってレニャード様はレニャード様だよ。
でも、レニャード様だってそんなことは分かってるよね。自分の力ではどうにもならないことがあるのは辛い、悔しい。きっとそれは、私がいくら気にしないでと言っても仕方のないことなんだ。
「私が代わってあげられるものなら、いくらでもそうするんですけどね。何もしてあげられないのは、私も同じですよ、レニャード様」
「馬鹿言え。そんなこと期待してない。お前に苦労なんてさせられるか」
「苦労というか……むしろちょっと楽しそうだなって思いますよ。私が猫だったらよくないですか、かわいいと思いませんか?」
レニャード様はちょっとだけ笑ってくれた。
「ああ。きっとかわいい」
「そしたらかわいい私を、レニャード様がお世話してくれるんですよね?」
レニャード様は本格的に笑い出した。
「はは、もちろんだ。もう限界まで、でろでろに甘やかす。毎日肉もケーキも食い放題だ」
「わあ……」
甘やかしの方向が子どもみたい。
レニャード様は毎日お肉とケーキが食べたいのかな。
「どこへ行くにもつきっきりで面倒を看てやる。抱っこも猫じゃらしも俺に任せろ」
レニャード様は、大きなおててを持ち上げた。
爪が飛び出るかと思って身構えた私の頭に、ぽふっと優しく肉球が乗る。
「片時もお前を離さない」
「わ、わあ……えへへ」
忘れてたけど、レニャード様、声がかっこいいよね。
モフモフの大型獣から輪切りにされるスリルとあいまって、なんだかドキドキしてまいりました。あれだよね、つり橋効果ってやつ? レッドタマネギ、ダメ、絶対。
「大丈夫だ。今なら、焦って爪を出したりしない。ああ……いいものだな。お前と一緒にいると、俺は、わくわくしてたまらない。何でもうまく行きそうな、そんな気分になれるんだ」




