【思春期】可愛い猫ちゃんがいたので手のひらで転がしてみた動画
「しかし、ブロッコリーの森は久しぶりだな! あそこにはいい感じの木が多いんだ」
「レニャード様、木登り好きですもんね」
「大きくなりすぎたから、登れるかどうかは分からんが……」
あーあ。自分で言って落ち込んじゃった。
だいぶストレスみたいだね。
「今日は登らせませんよ? 私と遊んでもらうって決めてるんですから。ずっと私のそばにいてもらいます!」
レニャード様はすぐに調子に乗る。
このときもぱあーっと目が輝いた。
「し……仕方ないな。お前がどうしてもって言うのなら、乗ってやるしかないだろう。たまにはお前と遊んでやらないと、お前はすぐに寂しがるからな!」
恩着せがましいですね。
でも、そこがかわいいんだけどね。いつもご機嫌な猫ちゃん。かわいくないですか?
「あのですね、レニャード様。私、レニャード様にお願いしたいことがあって」
私はバッグから大きめのブラシを取り出した。
馬のたてがみで作ってもらった、ちょっといいブラシなんだよ。
「今日はこれで、レニャード様にたっくさんブラッシングをかけてあげたいのです。レニャード様の毛皮、つやつやぴかぴかしていて全然私のブラッシングなんて必要ないってわかってるんですけど、でも、どうしても触ってみたくて」
「虎になってから、全然触らせてやっていなかったからな」
「レニャード様がじっとしていてくれたら、大丈夫な気がするんです!」
そう。レニャード様は焦ると爪や牙が出るけど、このごろはじっとしていられる時間が増えた。
「レニャード様が虎のお姿に慣れるまでは……と思い、ブラッシングは遠慮していましたけれど、今日という今日はチャレンジさせてもらいますよ」
「いいだろう。俺のゴージャスでハイクオリティな毛皮をたっぷりともふもふするがいい!」
偉そうなレニャード様、愛いことこの上なし。
うれしくってにこにこしちゃう私に、レニャード様がやさしい目つきになった。
レニャード様の顔は虎だから無表情が多いけど、最近ちょっとずつ表情が豊かになってきたんだよね。たぶん、レニャード様が顔の筋肉の動かし方を覚えたんだと思う。
「なあ、ルナ。俺も、その、なんだ。この図体だと服を破りかねないと思って遠慮していたんだが……」
「何でしょう」
「俺も、たまにはお前の膝で寝てみたい。スカートは……破かないように努力する」
あ、そうだ。レニャード様の話で思い出した。
「私、今日はスカート破かれても大丈夫なように、下にパンツもはいてきました!」
私がスカートをぴらっとめくって見せると、レニャード様は飛び上がって、天井に頭をぶつけた。
「お、おおおお、おま、お前、何をする!」
「え? いえ、あの、パンツといっても、かぼちゃ型のキュロットパンツでですね、全然いやらしいものでは」
「ふ、ふ、婦女子が、か、か、簡単にスカートをめくるんじゃない!」
「いえ、でもこれ、下にちゃんともう一枚違うパンツはいてますし、ほんと全然見せる用のやつで、見えてもいやらしくは」
「分かったから見せるな! 早くしまえ!」
レニャード様が大きなおててで目を隠してしまったので、私はおとなしくスカートを戻した。
「お、女が簡単に太ももを見せるんじゃない!」
「だから私、見えないように長いキュロットパンツを穿いてきたって、今説明を……」
「そういう問題じゃない! 心臓に悪いだろうが!」
だから、私、全然エロくないって言ってるのに。もう少し話聞いてよ。スカートめくっただけでそんなに騒ぐほどのこと?
「お前は、恥じらいがなさすぎる! いいか、今のは相手が俺だったからよかったようなものの、普通の男だったらすごく危ないところだったんだぞ!」
「はあ……そうですか」
「なんだその人を馬鹿にしたような返事は! お前はいつもそうだ! 俺が親切に言ってやってるのに全然聞いちゃいない!」
レニャード様、小言長いよ。
そもそもレニャード様って、私のパンツで興奮したりするのかな。
猫だからしなさそうって勝手に思ってたよね。
「……とにかく、お前は俺の婚約者として、節度のある行動をしろ! いいな!?」
「はあ……分かりました」
「返事の仕方がもう分かってないだろ!?」
すみませんね、中身はもと水商売のダメ女なもので。
あんまりそういう恥じらいとかってないんだよねえ。
でも、レニャード様がそういう女の子を好きって言うのなら、ちょっとはふりだけでもしておいたほうがいいのかな。
私はいろいろと考えた末に――
しゅるり、と、かぼちゃパンツを留めているガーターベルトを片方ほどいた。
かぼちゃパンツは足の部分が筒形の長いキュロットになってるんだけど、ゴムとかがないから、先端は膝の上あたりに巻いた紐でぐるぐる結んで留めてるんだよね。この紐のことを、こっちの世界ではガーターベルトって呼ぶみたい。
「あの……私、レニャード様の婚約者として行動しろって言うのなら……その、レニャード様になら、全然、生の太ももに膝枕していただいてもかまわないんですけど……」
ごにょごにょと歯切れ悪く言いながら、ちらりとキュロットの裾をひきあげて太ももを見せる。
レニャード様は固まった。
「私たちも婚約してもうだいぶ経ちますし、そろそろ、そういうことがあってもいいかな、って……」
「だ、だ、だ、ダメだろ!? 絶対あっちゃならんことだろうが!! 正気に戻れ!!」
レニャード様は私の太ももを見てはあさってに視線をそらし、またそろりと太ももを見てはあさってに飛ばしている。
太ももの何がそんなにいやらしいというのでしょうね。そわそわチラチラしているレニャード様、面白すぎます。
レニャード様の好みのタイプが、おとなしめで恥じらいのある女の子なのは分かるけど、だからって私がそうなれるかって言ったら無理だからね。
今後も女はこうしろああしろって怒られたら、からかい返して遊んじゃおうかな。
ここぞというときだけしおらしくしておけばいいよね。たぶん。
「え……? だめなんですか? 私、こんなにレニャード様のことをお慕いしているのに? ルナ悲しい。泣いちゃう」
「わー! 泣くな! わ、分かった、俺も強く言いすぎた! ただお前は、もう少し自分がかわいいことを自覚してだな……!」
「え、私、かわいいですか?」
「ま、まあ、悪くはないだろう! とにかく、もう少し自分を大事にしろ!」
あー楽しい。
私に遊ばれているとも知らず、しどろもどろになりながら一生懸命言葉を選んでいるレニャード様は得も言われぬ愛らしさでした。
レニャード様ってピュアだよね。
このまままっすぐ育ってほしいなあ。
お話をしている間に、馬車は王都の広場を抜けて、細い道にさしかかったようで、いきなり急停止した。
大きい馬車は通れる道が限られてくるから厄介だよね。
そうこうするうちに、複数の犬の声が聞こえ始めた。
レニャード様の耳がそちらに向けて動く。
「対向車の連れていた犬がこっちの車両に攻撃してるようだな」
王家の馬車に並走していたお付きの人たちの戸惑ったような声が聞こえる。
そのうちに、ガクンと車体が大きく揺れた。




