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【実況】王子様が不具合(バグ)でした【猫化バグ】  作者: くまだ乙夜
第二章

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【爆上がり】かっこいい俺! レニャード様テンションアゲアゲの理由とは


「ちょっと、庶民の立場で考えてみてください。よそから旅人が来たとしますよね? そのときに『うちの王子様は虎なんだー』なんて言って、かっこいいレニャード様の肖像画を見せたら、どうですか? クールじゃないですか? なかなかないですよ、トラの王子様って」

「そ……それは……ものすごくクールだな!」


 食いついた。


 レニャード様って、かわいい自分を気に入ってるけど、本当は心の奥底でかっこいいものにも憧れてるんだよね。だから、褒めてあげたら絶対喜ぶと思ってた。


「虎って、もう見るからに強くて、賢くて、すばやそうじゃないですか。そんなかっこいい虎の王子様が、臣民にそっと握手をさせてあげたり、華麗にダンスを踊っていたりしたら、どうですか?」

「も……ものすごくかっこいいな!」


 レニャード様は、がばりと跳ね起きた。


 私は爪の被害にあわないように、ちょっとだけ後ずさった。もう何度もザクザクやられてますからね、いい加減学習しますとも。


「でも、それには、爪の出し入れを自在にする訓練が必要ですよね。でないと臣民たち、握手のたびに大けがしちゃいますし」

「そこでこのかわ……かっこいい俺の努力が必要というわけだな!」

「そうですそうです。水鳥は優雅に水面を動きますが、水面下で必死に動かしている足は見せないもの。レニャード様も、初めから軽々とできていたかのように振る舞ったら、きっとものすごくかっこいいと思います」

「よし! こうしちゃいられん! 続きをやるぞ!」


 レニャード様が急に動いたので、私はしっぽでべちーんと顔を強打されるはめになった。


 レニャード様はまったく気づいた様子もなく、グラウンドに走っていく。


 うーん、まだまだ練習が必要そう。


 でも、歩行訓練ってモチベの維持が大事だからね。さすがに虎の運動量には付き合ってあげられないけど、やる気の管理くらいは手伝えたらいいなあ。


***


 レニャード様は、それはもうはりきって練習した。


 何度転んでもくじけずに立ち上がり、来る日も来る日もひたすらグラウンドを周回。大きな図体のトラが横にこてん、後ろにすってんころりんと、おむすびみたいにころころ転がるので、眺めている私はとても楽しかった。本人ががんばってるから、絶対に口が裂けても言えないんだけどね。ころころ転がる虎って本当にかわいいんだよ。レニャード様が聞いたらきっと嫌な気持ちになっちゃうだろうけど、もしもこの世界にカメラがあるなら、癒し動画として永久保存しておきたいかわいさだったな。


 地道な練習が続いたので、マグヌス様は途中で飽きて脱落。『できるようになったら言いたまえ』と言い残して、実験室に引きこもってしまった。


 それで、フルツさんが代わりに訓練を見てくれることに。


 おてての爪の出し入れの訓練には、野菜や果物を使った。


 高いところに置かれた果物を、両手を使って潰さずにちゃんと持ち上げて、降ろす。


 人間の形に作った野菜に前足を置いて、傷をつけずに触れる。


 ドレスの下に隠れた大根を、傷つけずに甘噛みする。


 遠くから走ってきて、果物には傷をつけずに、麻袋だけくわえて持ち運ぶ。


 これがなかなか難しいみたいで、レニャード様は無数の野菜をズタズタにしていた。


 あのベビースイカや、鹿角いちごのつまった麻袋がぐしゃっとつぶれるたびに、私は冷や汗が出ました。あれは、明日の私ですよ。


 レニャード様は潰してしまった野菜をぺろりとたいらげ、汚れたおててを舐めてきれいにしてから、また立ち上がった。


「まだまだ!」


 フルツさんは意外とペットトレーナーの才能があるみたいで、レニャード様にご褒美のお肉をあげたり、反対にしかりつけたり、ちょっとずつ練習メニューを複雑化させていったりと器用なことをしていた。


 私は炊き出しの準備だよ。


 どうもシェフの労働問題が長期化しそうなので、じゃあもう私がやりますよ、って言った。


 かまどは前にマグヌス様が訓練場に設置したものを、ずっと置いといてもいいって王太后様にお許しをもらった。


 お水は井戸からお付きの人がバケツで一杯ずつ運んでくれてる。カートとかもないから重いよ。


 そして私は、来る日も来る日も縞にんじんと苺葉キャベツを洗っています。真っ白なスモックつけてね。これもう、給食当番だよね、完全に。


「レニャード様ー、できましたよー」


 猫舌のレニャード様なので、私は水炊きが冷えるのを待って、おたまを真上に突き出し、そう声をかけた。


 レニャード様がすかさず突進してくる。大きなトラが土ぼこりをあげて迫ってくるのは、中身がレニャード様と分かっていてもちょっと心臓に悪かった。


 慌てない、慌てない。慌てて避けると怪我するからね。


 レニャード様が、私の目の前に来るなり、後ろ足で立ちあがった。


 よくその状態からタックルを食らっていたので、私はびくっとした。


 ところがレニャード様は、後ろ脚で立ったまま、横にちょこちょことカニ歩きした。


 二足歩行の虎が、左に三歩、右に三歩。


「わはははは、驚いて声も出ないようだな!」


 鼻高々のレニャード様。

 私も久しぶりに聞いたよ、調子に乗ったレニャード様の笑い声。


「すっごーい! すごいすごいレニャード様すっごーい! なんですか今の!? いつの間に!?」

「お前をびっくりさせようと思って、密かに特訓していたのだ!」

「さすがですレニャード様! やればできる子! サーカスの花形! かっこいい虎さん!」

「そうだろうそうだろう、わーっはっはっは!」


 大笑いした拍子に、レニャード様はバランスを崩した。


「あ……」


 ぐらりと揺れたレニャード様の巨体が、私めがけて倒れてくる。


 う、うわあああ!


 死ぬかと思ってちょっと身構えた私。


 べちーんと地面に叩きつけられるレニャード様。


 私は押しつぶされた……


 かと思いきや、痛くはなかった。


「……ルナ、大丈夫か?」


 こわごわ目を開けてみたら、レニャード様がばっちり四足歩行で立っていた。私はおなかの空間の隙間にいるから、ギリギリでレニャード様が手を突っ張ってくれたおかげで、つぶされなかったみたい。


「とりあえず、生きてます」


 ちょっと背中は打ったけど。受け身の取り方習っといてよかったね。


「よかった! ルナ! 潰してしまったかと思ったぞ! 俺がかっこいい虎の姿であるばかりに、びっくりさせて悪かった! かっこいい俺が謝ろう! すまない、ルナ!」


 レニャード様、実は虎モードすごく気に入ってますね? ちょっと前までかわいくないってしょんぼりしてたのに。


 まあ、いいんですけど。


「フッ……ルナ。お前は、小さいな」


 レニャード様のイキリが止まらない。声に優越感がにじんでいたので、私はつい生ぬるい気持ちになった。


「ええー。ついこないだまで猫ちゃんだった人に言われたくないですね」

「だからこそだ。俺はいつも、お前に抱っこされてばかりだった。でも今、この態勢はどうだ? まるで俺がお前を抱っこしているみたいじゃないか!」


 レニャード様が大きな鼻づらを私の首筋にこすりつけてくる。ふしゅーふしゅーと、何気ない呼吸の音が完璧に猛獣のそれで、私はびくっとなりましたね。


 中身が無邪気なレニャード様なので、テンションあがったついでに首筋とかガブッとやられそうな怖さがあります。


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