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【実況】王子様が不具合(バグ)でした【猫化バグ】  作者: くまだ乙夜
第二章

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【可愛い】どんくさい虎ちゃんのほのぼのハプニング集


 レニャード様がなんとか立ち上がって、またのそのそと動き出した気配を感じとり、また視線を戻す。


 するとレニャード様は、大きな体に見合わない、貧弱なジャンプ力で、ずべっと飛び石から落ちているところだった。


 私はまた目を逸らした。


 だ、だめ、笑っちゃ。レニャード様、真剣なんだから。いくらかわいいからって、人の失敗を笑っちゃだめ。


 でも、あの動き。まるで生まれたての子猫みたい。よちよちしててかわいいが過ぎるよね。


 レニャード様は、半周もしないうちに、地面に大の字になって寝っ転がった。


「やめだ、やめ! こんなの、やってられるか!」


 じたばたする姿も、どう見ても子猫です。


「……あんまり焦っても仕方ないですよ。ゆっくりがんばりましょう。きっと半年か、一年もすれば、レニャード様も大人のトラみたいに俊敏に動けるようになりますって」

「そんなに長い時間このザマなのか……!?」


 レニャード様ががばりと跳ね起き、自重でズルズルと坂を落ちていった。


 大変そうだなあ。


 私は笑いをこらえているうちに、だんだんアルカイックスマイルが上手になってきましたよ。もう、どんな名場面が来ても吹き出したりしない。


 レニャード様のほのぼのハプニング集……じゃなくて、俊敏なトラを養成するためのフィジカルトレーニングはその後も続き、お昼になった。


「どうだ、少しは身体が動くようになったか?」


 どこかに消えていたマグヌス様が、ふらりと帰ってきた。


「……」


 ふてくされて無言になるレニャード様。


 私は黙々と、ランチボックスを広げるお付きの人のお手伝いをした。


「ふむ……興味深い現象だな。猫のときの君はなかなか身体能力が高かったというのにねえ。原因はなんだ? 身体性か? 心因性か? それとも貧弱な魔術制御か? その体も、精霊の産物には違いない」


 ぶつぶつとつぶやくマグヌス様。


「魔術のことは分からないんですが、もしも体の問題なら、リハビリ……ええと、訓練次第だと思います。レニャード様は今、新しい武器の使い方を覚えている最中なんです。剣の訓練だって一朝一夕ではうまくいかないように、新しいその身体だって、満足に動かせるようになるにはそれなりの訓練が必要です」

「なるほど、一理ある。ならば、身体制御の魔術シーケンスを覚えさせて、無理やり体を動かすという解決方法もあるんだが……」


 レニャード様、魔術さっぱりだもんね。


 かくいう私もさっぱり。さっぱりコンビだよ。


 レニャード様は、私たちの話がつまらなかったみたい。

 全然聞いてない様子で、自分の前に置かれたお皿を見て、ため息をついている。


 大好物の牛肉フレークが入っているけれど、量が猫時代と同じだから、すぐに食べ終わっちゃう。


 トラのサイズに変更してねってシェフにお願いしてるんだけど、調理の量がいきなり百倍になったせいで、厨房のシェフたちがストライキを起こして、切り替えがうまく行ってないんだってさ。


 量が百倍なら賃金も百倍にしろって言ってるみたい。むちゃくちゃだよね。でもすぐには替えの人も見つからないみたいで、なんていうか、異世界でも労働問題ってあるんだなあって思ったよ。日本だと考えられない要求だけど、こっちの使用人は一筋縄ではいかなくて、なかなか言うことを聞かせられないって話だった。


「レニャード様、私の分も召し上がってください」


 私が差し出したサンドイッチを、たった一口でぺろりと食べ終わっちゃって、レニャード様は本格的に落ち込んじゃった。


「腹が減った……」

「精霊は本来魔力を糧に生きるから、食べなくても問題ないんだが。その身体は魔力以外も必要としているのかな」


 とは、マグヌス様の談。


「マグヌス様、なんとかして、今すぐにでもレニャード様の姿を元に戻す方法はないんですか?」

「さあなあ。いかに大魔術師の私といえども、精霊になったことはないからな」


 マグヌス様、無責任ー。


「このままだとレニャード様が飢え死にしちゃいますよ」

「そうだな……私としても、実験動物を失うわけにはいかん」


 マグヌス様は、いいことを思いついた、とでもいうように、両手のひらを打ち合わせた。


「炊き出しでもするか」


***


 青空の下、王城の庭の一画に、人ひとりがすっぽり入れるほどの大きな寸胴鍋が運ばれてきた。


「レニャード。肉はどのぐらい必要なんだ?」

「いっぱい! こっからここまで、全部食べたいです、先生!」


 レニャード様がぶっといおててを広げて、ぴょんぴょんする。


 マグヌス様が魔術でかまどを組んでいるうちに、お付きの人がどうにかこうにか厨房に頼み込み、レニャード様が満足しそうなだけの食材をもらってきてくれた。


 大きな豚肉の塊と、縞にんじん(こちらの世界のにんじんはしましま模様なんだよ)、苺葉キャベツ、ジャガ豆(豆みたいに小さいけど、ジャガイモなんだよ)などが、マグヌス様の魔術ですぱぱっとスライスされて、鍋に放り込まれる。


 ひたひたの水を注いで、水煮開始。


 レニャード様、おなかすいてたんだね。


 煮えるお鍋を見る目がキラッキラしてるよ。かわいいね。


「ん? 材料に塩がないじゃないか」


 マグヌス様がお付きの人に文句を言うのを聞きつけて、レニャード様が首をぶんぶんと振った。


「俺は濃い味つけが好きじゃない。そのままでいい」

「マグヌス様、猫ちゃんにしょっぱいものは毒なんですよ」

「そうか……難儀なことだな」


 そうしてできたあっつあつの水炊きを、レニャード様は、それはもう嬉しそうにむさぼった。


「うまい、うまい、うまいぞ!」


 レニャード様……本当におなかすいてたんだね。


 レニャード様は寸胴鍋を空にしてしまうと、大の字にひっくり返った。青空に流れる雲をみて、ぼーっとしている。


 おなかいっぱいになって、興奮も落ち着いたみたい。


 近づくなら今だね。


「レニャード様。私、とても大切なことに気づいたのですが」


 私はすすすっと近寄って、レニャード様に内緒話をした。


「どうした、ルナ」


 私は、とても大事な秘密だというように、物凄く声をひそめた。


「今のレニャード様って、もしかして、すごくかっこいいんじゃありません?」


 レニャード様の耳がぴくっと動いた。


「かっこいい……? この、ブザマな俺が……?」

「だって、考えても見てくださいよ。虎ですよ? 虎が王さまの赤いマントを着て、王冠をかぶって、玉座に座っていたら、どうですか? ものすごく絵になると思いませんか?」

「た……確かに!」


 レニャード様の大きなおめめの瞳孔がガッと大きくなった。うわ、怖いな。飛びかからないでね。おなかいっぱいだから大丈夫だよね?


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