【検証】キャラ修正後の性能は? 詳しく調べてみました!
クレア・マリア・ジルドールこと、ミツネさんは、しばらくして、牢から釈放された。
悪魔から解放されたミツネさんは、レニャード様に、もうあんなことしませんって、ちゃんと謝ってくれたんだよね。
これからは心を入れ替えて、聖女になりたい。
そしていつか、シスル様を支えられるようになりたい。
そう言うミツネさんを、レニャード様は、結局、許しちゃった。
もちろん、王太后様なんかは激怒してたんだけどね。
でも、レニャード様の執り成しと、本人のたっての希望で、ミツネさんは少なくとも十年、聖女宮にとどまって、お勉強と祈りの生活をするということに決まった。
聖女宮って王城のすぐ横だから、なにげにセキュリティがすごいんだよね。見張りの衛兵もたくさんいるから、ほとんど軟禁に近い生活になるみたい。
ジルドールの家系は代々強い聖女の力を持つから、それに期待する意味も込めて、十年なんだってさ。
***
そしてレニャード様は、諸事情あってビッグサイズになってしまったわがままボディをもとに戻すべく、魔術の特訓に入った。
「だめだ! できない!」
レニャード様が稽古場の地面にひっくり返る。
「おい、休んでる暇はないぞ、実験動物」
マグヌス様が顔色ひとつ変えずに言うんだけど、結構すごいよね。トラこわくないのかな。
大きなトラがぐわっと両手をあげて横になるだけで、けっこうな迫力になるから、私はびくっとしちゃったよ。
「しかし君は、ドン引きするほど魔術の才能がないな。抗魔力値が高すぎるせいか、小さな魔法を使う前に自分でかき消している。制御を知らないから、デカい魔法など論外だ」
「魔術なんてものは魔術師にやらせておけばいいって母上が言っていた! 王子の俺がなんでそんなことしなきゃいけない!?」
「馬鹿野郎、自由自在に変化するためだろうが。自分で決めて、もう忘れたのか」
「いやだ! 俺は飽きた! もうやめる!」
ごろごろごーろ。
レニャード様が地面を転がる。
わあ、大きなおなか。大きなおてて。
でも、どんなにサイズが大きくなっても中身はレニャード様だね。ちょっとしたしぐさやポーズが、猫ちゃんだったときと一緒。そう思うと、だんだん怖くなくなってくるから不思議だよね。
レニャード様が大きな口をあけてあくびをする。鋭い牙がぎらりと光った。
……ごめんなさい、うそです。
まだちょっとトラは怖いです。
だってレニャード様、このでっかいトラの姿でいつもどおりじゃれついてこようとするんだもん。
「ルナ! 俺は疲れた! おやつにしよう!」
レニャード様がそう言って、かぎ爪で私の袖を引っかけた。
これ、猫ちゃんだったころはまだよかったんだよ。
でも、トラにやられるとどうなると思う?
私のドレスの袖は、ビーッと無残な音を立てて裂けた。
「……あ……! 悪い、ルナ!」
「やー、大丈夫ですよ。こんなこともあろうかと、捨ててもいいドレスを着てきてますんで」
私がひらひらと手を振っても、レニャード様は納得しなかった。
「だが、これで何度目だ? 俺は、いつまで経っても力加減が覚えられない……」
レニャード様がガチでへこんでる。
そうなんだよね。
レニャード様の爪は大きいから、かすっただけでも服がすぱっといっちゃう。
それなのにレニャード様は、子猫気分で私の服に爪を引っかけたり、甘噛みしたりするので、私はもう生傷が絶えません。すぐにマグヌス様か、魔法のお医者さんが治してくれるんだけどね。
一度なんて、血が止まらなくて、さすがに死んだかと思いましたよ。
「まあ……しょうがないですよ。子猫から大人になる時期だって、力加減の調節がまだうまくできないですし。猫からトラになる時期も、力加減の調節がうまくできないことが……」
あるのかなあ。自分で言っててよく分からないよ。
そもそも猫は虎にならないじゃん。
「……と、とにかく。人間が大けがしたときも、ちゃんと動かせるようになるまで練習がいるって言いますし、慣れですよ、慣れ。すぐにできるようになりますって。だってレニャード様は、かわいいですから」
いつものレニャード様の口癖を先取りして言ってあげる。
すると彼は、へたりと小さな丸っこい虎の耳を下げた。
か……かわいい!! それかわいい!!
トラの耳も、しょんぼりするとイカみたいに寝そべるんだよ。かわいいね。
「でも、この姿の俺は、かわいくないのだ……」
レニャード様がしおしおにしおれた顔で言うので、私はむきゃーっとなった。
「え、ええ!? かわいいですよ!? とくにこのお耳! すっごくラブリーです! 自信もってください、レニャード様のかわいさは姿というより、もうなんか中身です! 中身がレニャード様ならトラでもかわいい!!」
私が力説すると、レニャード様はぱあっと目を輝かせた。
「ルナ……!」
レニャード様が子猫感覚で私の肩にぴょんと飛びつき、私は後ろ向きに倒れて、頭を打って、気絶した。
***
「……本当にすまない……」
目を開けたらしょぼくれた大きなトラがいた。
治療はマグヌス様がさっとやってくれたので、実質数秒も倒れてなかったと思う。
「ふむ。レニャードには、まず普通に立って歩く訓練が必要か。このままではドアやベッドも壊しかねんしな」
マグヌス様がそう言って、ぱちりと指を鳴らした。
稽古場の地面が盛り上がり、一部下がり、坂やでこぼこの小道、枝葉だらけのけものみちなんかが出現した。
「とりあえず、グラウンドを五十周くらいしてこい。魔術の訓練はそのあとだ」
そう言い残して、マグヌス様はお城に帰っていった。
「レニャード様、私もおともしますから、がんばりましょうね」
「いや……」
悲しそうな瞳で私を見るレニャード様。
「ルナは、少し離れていてくれ。今の俺は、うまく歩けない。ちょっとしたつまずきで、お前を下敷きにして、つぶしてしまうかもしれない」
「分かりました。では、遠くから応援ということで……」
私は一大ジャングルと化した障害物走のステージを横切り、大きな木の木陰に座った。
レニャード様が障害物走のコースにのそのそと徒歩で入る。
坂道になっているところで、レニャード様はいきなりころんと転んだ。
私はとっさに目を逸らして、何も見なかったふりをした。