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【遭遇戦】ヤバそうなのとエンカウントしました・パート3


 ミツネさんの告白が終わった。


 マグヌス様は満足したように、何度もうなずいていた。


「なるほど、なるほど。貴重な話をありがとう。とても重要なヒントがたくさんあった」


 ミツネさんが、上目遣いにマグヌス様を見る。


「……あの、ところで、あなたは一体……?」

「私か? 私は魔術師マグヌス」

「ああ……あなたが、あの」


 そう、乙女ゲーの攻略対象です。


 墨で塗りつぶしたような真っ黒な黒髪と黒目に、蛍光グリーンのハイライト。いかにも病んでそうな青白い顔。裾を引きずりすぎてボロボロの長い服を着ているところなんか、そっくりでしょう。


 私がそんなことを思いながらミツネさんにほほ笑みかけると、思いが通じたみたいで、ほほ笑み返してくれた。


 マグヌス様は違う意味に取ったらしく、ちょっと誇らしそうだ。


「庶民といえども、私の噂ぐらいは聞いたことがあるだろう。安心していたまえ。当代最高の魔術師と、始祖王の末裔が君を悪魔の手から解放しようとしている」


 ミツネさんは、ようやくいくらか緊張が解けてきたようだった。


「悪魔祓いは、いくつかポイントがあるが、一番大切なのは、悪魔の名前を知ることだ。ここから先は、君が契約しただろう悪魔の名前を探っていく。君の話は分かりやすかったからね、だいぶ対象が絞れるようになった」


 マグヌス様は、張り付けたような笑みを浮かべてみせた。


「私は愚かな人間が大嫌いだが、君のように物分かりのいい実験動物は決して嫌いではない。私の手を煩わせるなよ?」

「は、はい……」

「いい返事だ。では、最初の質問だ。悪魔は人間をそそのかして悪事を働かせるのが大好きだが、それはそうすることによって利益を得るからであって、人間そのものを食らうことはあまりない。しかしその悪魔は、三つの願い事を代償に、君の子どもをもらい受けると言ったんだね?」

「はい」

「しかも彼は、記憶が戻ったり、消えたりする、不思議な水を飲ませた。そうだね?」

「はい」

「なるほど。であれば、彼は冥界に関連のある悪魔だろう。君が飲んだ水はおそらくムネモシュネーの川の水――別名、記憶の水と呼ばれるものだ。反対に、飲まなかった方は、レテ川の水――別名、忘却の水と呼ばれるものだろう。どちらも、冥界に流れる川の水だ」


 あ、それ、知ってる。


 私が飲んだやつと同じってこと? 初めてクレア・マリアさんの話を聞いたときから、そうじゃないかなって思ってたけど。


「冥界に関係し、魂をコレクションする悪魔といえば、やはり大きな鎌を持った悪魔が思いつくが――ミス・ミツネ。君の出会った悪魔は、大きな鎌を持っていたかい?」

「いいえ……」

「黒い頭巾のついたマントを着ていたかい?」

「いいえ、いなかったと思います」

「なるほど。となれば一つ、候補から外れた」


 彼はいいことだというように、明るく言った。


 それからすぐに、ミツネさんのほうに身を乗り出して、続きを言う。


「どんどん行こう。その悪魔は、常に怒っていたか?」

「いいえ……とても、楽しそうに見えました」

「では、そいつは、君にいやらしいことを要求したか?」

「い、いいえ……そういうことも、ありませんでした」

「では、そいつは、薬草や天文学に精通していたのではなかったか?」


 ミツネさんは、そのときに初めて、考え込むようなそぶりを見せた。


「……私が、お屋敷の人たちを切って回っていたとき、みんなが気絶するようなお香の作り方を教えてくれたのは、その悪魔でした」

「その悪魔は雄牛のような角をつけて、人間の男の顔をしていた?」

「はい」

「使い魔をたくさん飼っていて、困ったときには貸してくれた?」

「ええと、はい……逃亡中に、よく、馬なんかを貸してくれました」

「なるほど。よく分かった。そいつはもしかしたら、冥界、ことに地獄の王である可能性があるな」


 マグヌス様はしれっと言う。


「俺の手に負える相手だといいんだが」

「あの……マグヌス様って、当代最高の魔術師なんですよね……?」


 そのはずなんですけどねー。

 ゲーム内の設定でもマグヌス様は人間と別格の強さって感じで描かれてた気がするんだよね。


 そのマグヌス様に弱気になられると、ちょっと不安になっちゃうよね。


「もちろん、勝算がないとは言わんさ。ただ、相手の名が分かったのなら、対策を整えてから悪魔祓いをした方……が……」


 彼は言葉の途中で、突然倒れた。


「えっ……マグヌス様? マグヌス様……え、ちょっと」


 私が慌てて駆け寄ってみたら、彼はすうすうと安らかに眠っていた。


 ええ。どういうことなの。


 見れば、ミツネさんもベッドの上に腰かけていたのに、倒れてしまっている。


 近づいてみたら、やっぱり眠っていた。


「そうだ、レニャード様! レニャード様……は……」


 フルツさんのほうを振り返ろうとしたところで、私も急激に眠くなり、ミツネさんの隣に倒れるようにして、眠ってしまった。


***


 そこは何もない空間だった。床も、壁もない。真っ暗な、星のない宇宙を思わせる閉鎖空間。


 櫓があって、炎が燃え盛っている。


「あつい! あつい! あつい! 助けて!」


 悲鳴をあげているのは、ミツネさんだった。櫓の上ではりつけにされている。


「落ち着け! ここは君の夢の中だ! 実害はない!」


 そう言ったのはマグヌス様。


 ぱちりと指を鳴らした瞬間、炎がすべてかき消えた。


「な……なんですか、これ?」


 私は思わず、足元にいたレニャード様を拾い上げた。レニャード様をだっこするとちょっと気持ちが落ち着くんだよね。


 私と、ミツネさんと、マグヌス様と、レニャード様。フルツさんだけがいない。彼が正気なんだったら、現実世界のレニャード様はひとまず安心かな。


「いやはや、まさか、名前も言わないうちから飛んでくるとは思わなかったな。君、案外暇なのかい?」


 マグヌス様が何もない空間に向かって話しかけているよ。大丈夫かな。


「ご招待ありがとう。あれだけ護符を貼っておいたのに、人間の魂だけ選り抜いて閉じ込めるとは、なかなかのお点前だ」


 マグヌス様、誰に向かって話しかけているの?


 私には何も見えないよ。怖いね。


「しかし分からないのは――君ほどの力があれば、こんな回りくどいことをせずとも、小娘の魂くらいすぐに抜き取ることができたろうに、ということなんだが。やはり、それでは満足できない理由があったのだろうね」


 マグヌス様の話に、突然、大きな笑い声が降ってきた。


 ――はっはっは。あーっはっはっはっは!


 それは、ぞっとするような声だった。高い声と低い声が混じりあったようでもあり、男と女の声が混ざり合ったようでもある。


 そしてその瞬間、あたりが炎の海に包まれた。


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